インタビュー

抗リン脂質抗体症候群が原因の不育症は正しい検査・診断のもとで治療を受けることが大事

抗リン脂質抗体症候群が原因の不育症は正しい検査・診断のもとで治療を受けることが大事
杉浦 真弓 先生

名古屋市立大学  医学研究科産科婦人科学分野

杉浦 真弓 先生

この記事の最終更新は2017年02月01日です。

妊婦さんのうち、流産を経験する方は全体の約15%、二度目の流産を経験する方は約5%いるといわれます。流産や死産を繰り返し、胎児がお腹の中でうまく育たない状態が続くことを「不育症」と呼びます。

不育症の原因は多岐にわたりますが、抗リン脂質抗体症候群の女性は不育症になるリスクが高いことがわかっています。しかし、一般的にはもちろん医療者のなかでも抗リン脂質抗体症候群による不育症について正しく理解している方は少なく、安易な診断から間違った治療を受けている方も多いと言われています。今回は抗リン脂質抗体症候群による不育症の症状と治療を中心に、名古屋市大学大学院産婦人科教授の杉浦真弓先生にお話いただきました。

不育症とは、妊娠はするけれど、流産(妊娠22週未満での妊娠の中断)、死産(妊娠12週以降の胎児の死亡)を繰り返してしまい、結果的に生児が得られない状態のことをいいます。あくまで「繰り返す」という習慣性を差し、2回流産・死産すると不育症、というような回数の指定はありません。

また、流産を2回繰り返すことを反復流産、3回以上連続して繰り返すことを習慣流産と言いますが、これらも不育症に含まれます。一方、1回の流産・死産・早産は不育症に該当しません。

不育症の原因は主に4つあります。子宮の形が本来と異なる「子宮奇形」、夫婦の染色体に異常のある「夫婦の染色体均衡型転座」、胎児の染色体に異常のある「胎児の染色体数的異常」そして「抗リン脂質抗体症候群」です。これらの不育症の原因のなかで、抗リン脂質抗体症候群は唯一治療ができる病気であり、正しく治療をすれば流産、死産を予防できる可能性があります。

抗リン脂質抗体症候群とは、抗リン脂質抗体を持っている方にみられる自己免疫疾患(体内にある免疫機能が誤って自分自身の組織を攻撃してしまう病気)の一種です。

(詳しくは『抗リン脂質抗体症候群とは?血栓症や脳梗塞の原因になる自己免疫疾患』をご参照ください。)

抗リン脂質抗体症候群は、「不育症」のほかにも、血管内に血栓が発生する「血栓症」を発症することがあります。

抗リン脂質抗体症候群になると血栓ができやすくなります。そのため以前までは、妊娠中に胎盤に血栓ができることで不育症に罹患すると考えられていました。しかし、近年の研究の結果、流産してしまった抗リン脂質抗体症候群の患者さんの胎盤には、必ずしも血栓ができるわけではないことがわかったのです。

現在、抗リン脂質抗体症候群の患者さんが妊娠すると、胎盤を作るトロホプラストという毛細細胞に障害が起こり、胎盤が本来持つ働きを失ってしまうせいで不育症になるのではないかと考えられています。

また、抗リン脂質抗体症候群による不育症の特徴として、初期流産(妊娠12週未満の流産)よりも、子宮内胎児死亡(妊娠12週以降の死産)で生児を得られない場合が多いことが挙げられます。

抗リン脂質抗体症候群かどうかを調べるには、「ループスアンチコアグラント」という検査の信頼性が最も高いです。「ループスアンチコアグラント」は血液凝固能検査の一種です。また、国内で測定できるループスアンチコアグラントには「リン脂質中和法」と「蛇毒法」の2種類があります。この2つは検査に使用する薬剤が異なります。

リン脂質中和法は日本に導入されてからまだ5年ほど(2017年現在)と歴史が浅い検査方法です。日本の多くの施設では蛇毒法のみ取り入れており、両方とも実施している施設は10%未満にとどまります。しかし、国際抗リン脂質抗体学会では、2種類以上の検査を受けないと原因を取りこぼす可能性があると発表しており、2つ以上の検査を受けることをお勧めします。

抗リン脂質抗体の検査を受け、抗リン脂質抗体が「陽性」という結果が出る方は、全体の約10%ほどです。しかし、この時点では抗リン脂質抗体症候群とは診断されません。12週間経過をみて、持続性がある(陽性の状態が継続する)ことを確認してから、抗リン脂質抗体症候群と診断されます。

抗リン脂質抗体症候群と診断される患者さんは陽性と判定された方のうち半数ほどです。抗体が陽性というだけであれば、無治療で出産に成功した症例も多々あります。抗リン脂質抗体症候群と診断された場合、治療を受ける必要がありますが、まずは、ご自身の検査結果や今までの妊娠歴をよく考えてから、信頼できる医師のもとで治療を行ってください。

ループスアンチコアグラントでは、リン脂質中和法、蛇毒法のどちらか一方にしか保険適用されません。そのため、両方の検査を受ける場合、どちらかは自費で受けることになります。

現在の法律では混合診療が認められていないため、保険適用される検査とされない検査を一度に行うと、すべて自費となってしまいます。そのため名古屋市立大学病院では、患者さんの金銭的負担を極力減らすために、リン脂質中和法を保険診療で受けていただき、後日、蛇毒法を自由診療で受けてもらいただくようにしています。

また、名古屋市立大学病院では臨床研究として、私が編み出した「杉浦法」という検査方法も実施しています。「杉浦法」は研究に参加していただくということで、無料で検査を実施しています。

検査で陽性となり、なおかつ持続性がみられ抗リン脂質抗体症候群と診断された場合、アスピリンとヘパリンカルシウムの2種類の薬を使い治療します。抗体価(抗原に対して生産された抗体の数を示す指標)がそれほど高くなければ治療成績は良好で、70~80%の患者さんの流産・死産予防につながります。治療により出産に成功した方も多くいらっしゃいます。

アスピリンは経口薬(飲み薬)で、妊娠がわかった時点ですぐに飲みはじめます。アスピリンには血を固まりにくくする作用があるため、分娩時出血増加を考慮して、36週目で服用を中止します。

一方、ヘパリンカルシウムは注射薬です。アスピリンと共に使用を開始し、分娩の前日および分娩が終わってからも使用を続けます。朝・晩2回ご自分で注射を打つので多少のトレーニングが必要ですが、1~2日でマスターできます。

また、抗リン脂質抗体症候群と診断された場合、アスピリン・ヘパリンカルシウムの併用治療は保険が適用されます。

 

医師と会話をしている女性

通常、アスピリンとヘパリンカルシウムは、しっかりと検査をして抗リン脂質抗体症候群と診断されてから投与を開始すべきです。しかし近頃は検査を行わず、つまり不育症の原因が本当に抗リン脂質抗体症候群なのかがわからないままアスピリンとヘパリンカルシウムを処方する医療施設が存在し、問題となっています。

不育症の原因が抗リン脂質抗体症候群でない場合、アスピリンとヘパリンカルシウムを使用しても有効性はありません。これでは過剰治療になってしまいます。また、抗リン脂質抗体症候群と診断されない限り、治療に保険は適用されません。効果のない薬を自費で使い続けることは、金銭的にも大きな負担です。

不育症の治療を受ける場合、まずは適切な検査を受けて、原因が抗リン脂質抗体症候群かどうかを調べましょう。患者さんも「自分は抗リン脂質抗体症候群だからアスピリンとヘパリンカルシウムを使用している」ということを、医師とのコミュニケーションの中でしっかり確認することが重要です。

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