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乳がんの手術ができないケース、その場合の余命は―乳がんの疑問に専門医が回答

乳がんの手術ができないケース、その場合の余命は―乳がんの疑問に専門医が回答
山田 公人 先生

東京医科大学 乳腺科学分野

山田 公人 先生

目次
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この記事の最終更新は2017年02月03日です。

乳がんで亡くなる女性は2013年に13,000人を超え、1980年時点と比較すると約3倍になっています。乳がんと診断がつくと治療が始まりますが、症状が進行していると手術を行えないケースが出てきます。では、乳がんはどのようなケースで手術が不可能になり、手術できない場合、その余命はどのように考えるのでしょうか。

乳がん患者さんが抱きやすい疑問について、東京医科大学 乳腺科学分野准教授 山田公人先生に解説いただくとともに、東京医科大学における乳がん治療への取り組みを伺いました。

乳がんの転移
素材提供:PIXTA

乳がんの手術ができるか、また余命はあとどれくらいかを判断するには「がんの転移状況」を確認することが重要です。

がん細胞は、比較的初期から他の臓器へ移動をはじめます。乳がんの場合、乳がんの病巣である乳腺組織からリンパや血液を経由して、肺・肝臓・骨などの離れた臓器転移していくと考えられています。これらの微小な転移が、それぞれの臓器で成長し、大きくなると次第に症状が現れます。

乳がん診断後、まずはがんが乳腺の中でどの程度広がっているか、他の臓器に転移していないかを検査します。検査によりがんの広がり・しこりの大きさ・リンパ節転移の有無・遠隔転移の有無を総合的に考慮して、乳がんの重症度を4段階のステージに分類します(TNM分類)。

通常のがんの場合、ステージ4と診断された患者さんでは、あまり手術のメリットが得られない場合もあります。しかし、乳がんは他のがんと考え方が少し異なります。乳房は、人体の表面に近い部位にあるので切除しやすく、切除しても食事がとれなくなる、歩けなくなるといった手術切除による影響を受けにくい臓器です。そのため、皮膚を破って出血する、病変が感染によって悪臭がするといった症状がある場合には、たとえステージ4であっても手術を行うほうが患者さんにとってメリットが大きい場合があります。

また、他の臓器にがんが転移してしまっている場合でも、体内のがん細胞の量を減らすことを目的に手術を行うことがあります。これは、体内のがん細胞を少なくすることで、がんの進行や症状の抑制を目的とします。しかし、手術を行うことで逆にがん細胞の活動が活発化して病状の進行を早めてしまう場合もあると考えられています。そのため手術を行うかどうかの判断は非常に難しいところです。

乳がんの余命を考えるときには「がんが転移しているか」だけでなく「どの臓器へ転移しているか」が重要です。たとえ骨へのがん転移がみられても、それが骨だけに留まり続けた場合には、その後10年以上生きられるケースもあります。がんの転移状況や症状、また手術を行うかどうかで、乳がん患者さんの余命は大きく変わります。

メディアでは度々、若くして乳がんを発症した患者さんを取り上げて報道します。統計的にみてみると、乳がんは10年生存率が90%を超えているという報告があり、「治りやすいがん」だと云えます。一般的に治りやすいがんであるにもかかわらず、若くして亡くなる方のことが悲劇性を強調されて報道される傾向があるために、乳がんの誤った認識が広く伝わっていることがあります。このような一部を誇張した報道による影響は大きな問題だと考えています。

それでは、乳がんにかかりやすい方には共通の特徴があるのでしょうか。まず挙げられる要因は、遺伝です。乳がんのうち約10%が遺伝性だと報告されています。また、独身の方や出産・授乳を経験されていない方にも乳がんが多いといわれています。

また、生活習慣が欧米化したことも要因のひとつと考えられます。乳がんの予防には、食生活、運動、喫煙など、生活習慣を見直すことも重要です。

海外では高齢者に乳がんの患者さんが多いと報告されていますが、日本では60~70歳代に加え、40~50歳代の患者さんが多いという傾向があります。

現在、乳がんは12人に1人がかかるほど多い病気です。患者数は昔よりも増加していますが、その背景には、乳がんへの認知が上がり、昔なら患者さんが異変に気づかずに見逃されていたかもしれない乳がんでも、現在では発見されるケースが多いのだろうと考えています。

日本人は病気になって症状に不安を持ってから医療機関を受診する場合が多く、定期検診を受ける人が少ないといわれています。海外に比べると、日本の定期検診受診率は非常に低いといわれています。定期検診を受けない理由には「忙しいから」「会社を休むのが申し訳ないから」といった理由が多いようです。乳がんは女性の12人に1人が罹患する病気です。定期的にセルフチェックを行い、症状が進行してしまう前に定期検診を受けることが重要です。

山田先生

乳がんは、患者さんの人生に大きな影響を及ぼす病気です。乳がんにかかった患者さんを救うために、東京医科大学 乳腺科ではさまざまな取り組みを行っています。

まず、東京医科大学では、乳腺科と形成外科の2つの診療科が乳がんの治療にかかわっています。乳腺科では主に乳がんの治療を専門的に行い、形成外科では乳がん摘出のあとに胸のふくらみをつくる「乳房再建」を担当します。このような診療科の連携は日本でも増えてきました。2つの診療科が緊密にタイアップすることで、よりよい治療環境を整備しています。

たとえば乳腺科と形成外科では、月に1回、乳房再建のカンファレンス(話し合い)を行っています。そのような手術をするのが最善なのか、手術はどのようなフローで進めていくべきかなど、議論を重ね、連携を強化することが目的です。

また、東京医科大学では乳腺科と形成外科の役割分担を明確にしています。例えばエキスパンダーの挿入は形成外科が担当します。エキスパンダーとは、乳がんを切除したあと、胸のふくらみを確保するために使う皮膚拡張器です。このエキスパンダーは、そのあとつくられる胸の形の「型」になり、とても重要な役割があります。エキスパンダーは乳腺科の先生が、乳がん切除手術と同時に挿入するケースも多くありますが、東京医科大学ではこのフローを形成外科の医師に一任しています。医師が自分の専門領域を明確化し、それぞれがその中で最高の治療を行う。このようにしっかりと役割分担を行うことで、より患者さんの満足のいく治療を目指しています。

従来、乳がん手術の目的は「がんの切除」であり「手術後の胸の形」はあまり重視されていなかったように思います。しかし、乳房再建が一般的になっていくにつれ社会の要求水準が高まったことから、ただがんを切除するのではなく術後の仕上がりが、より重要視されるようになってきました。

「胸」は容姿や自信に大きく関わる部位です。そのため、乳がんの治療を考える際には、命だけではなく、見た目にも細やかなケアが必要です。患者さんの命やその後の人生を左右するからこそ、乳がんの治療を共に真剣に考えてくれる治療が求められています。

 

乳癌学会

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