インタビュー

不育症の検査と費用、有効性の高い治療法-保険適用で受けられる治療とは?

不育症の検査と費用、有効性の高い治療法-保険適用で受けられる治療とは?
齋藤 滋 先生

富山大学大学院医学薬学研究部産科婦人科学講座 教授、富山大学附属病院 病院長

齋藤 滋 先生

この記事の最終更新は2017年02月22日です。

不育症」の研究が進み、原因(リスク因子)ごとに、有効性のある治療法が確立され始めています。また、これまでは自費診療でしか受けられなかった抗リン酸脂質抗体陽性の不妊症に対するヘパリン自己注射が保険適用になるなど、患者さんの負担を軽減するための制度面での改善も進み始めました。本記事では、不育症の原因を調べる検査の内容や費用、具体的な治療法について、富山大学附属病院産科婦人科教授の齋藤滋先生に教えていただきました。

富山大学附属病院では流産・死産を2回以上繰り返している患者さんには、基本的に以下全ての検査を受けていただくようお願いしています。

・夫婦染色体検査

・甲状腺機能を調べる検査

・血液が固まる働きを調べる凝固因子検査

・抗リン脂質抗体測定

・子宮卵管造影検査もしくは、超音波検査(MRI検査※必要に応じて行う)

患者さんには、検査後に用紙をお渡しし、当てはまったリスク因子と適応される治療法についてご説明します。

検査費用は合計で約2万円、夫婦染色体検査が3割負担で5,000円~6,000円ほどです。

ただし、地方公共団体によっては不育症の検査に対し助成金を交付しているため、実際には上記金額よりも安価になることがあります。

富山県では、不育症の診断に至るまでにかかった検査費用に対し、上限を2万円とした検査協力金を交付しています。お住いの地域に助成金制度があるかどうか、一度ご確認いただくのがよいでしょう。

流産は全妊娠のうち15%に起こります。不育症と診断され、該当するリスク因子が見つからなかった場合は、偶然運悪く、必然性のない流産を繰り返してしまったと考えられるため、無治療で安心して次回妊娠に進んでいただけます。

当院のデータによると、リスク因子のない不育症と診断された方のうち、およそ7~8割は無治療で妊娠・出産されています。

心のケア(TLC 記事1『不育症の原因-染色体構造異常がみつかっても、最終的に出産できることが多い』)はもちろん重要ですが、このような数字を知っていただくことも、流産を2度以上経験された患者さんの励みになるのではないかと考えます。

以下に該当する場合は、抗リン酸脂質抗体が陽性であることが多く、次回も流産を繰り返す危険性が高いため、1回の流産・死産でも不育症の検査を行ったほうがよいとされています。

・赤ちゃんの染色体異常がない場合の、妊娠10週以降の流産・死産

・妊娠32週未満の早発型の妊娠高血圧腎症

抗リン酸脂質抗体である、抗カルジオリピンβ2GPI複合体抗体、抗CLIgG抗体、抗CLIgM抗体、ループスアンチコアグラント抗体検査のうち、一つ以上が陽性で、12週間以上の間隔をあけて再検査を行っても陽性の場合、抗リン脂質抗体症候群と診断され、低用量アスピリン+ヘパリンカルシウムによる治療を行うこととなります。

しかしながら、これまでヘパリンカルシウムの在宅自己注射は保険収載されておらず、保険診療内で治療を望まれる患者さんは、毎日朝晩二回、どのような日であっても病院を受診されていました。

そのため、多くの患者さんは、治療に専念するために離職せざるを得ないという状況に立たされていました。

働く妊婦さん

リスク因子がわかっている不育症のなかで、最も多いものは抗リン酸脂質抗体陽性の不育症です。このような事実があるにも関わらず、治療が保険適用されていないということは、不育症治療における大きな課題のひとつでした。

平成24年、ヘパリンカルシウム在宅自己注射が保険適用となったことで、多くの患者さんが仕事を続けながら、不育症治療を受けられるようになりました。これが、前回の研究班の最も大きな功績であったと感じています。

子宮形態異常とは:正常な子宮と双角子宮、中隔子宮
子宮形態異常とは:正常な子宮と双角子宮、中隔子宮

 

子宮形態異常のうち、双角子宮には手術が有効というエビデンスはなく、積極的な手術はメリットがないと考えられています。

一方、中隔子宮の場合は、観察群よりも手術を行った群のほうが妊娠成功率が高いことがわかっており、子宮形成手術を行うことになります。

※軽度の中隔子宮であれば流産を起こすリスクは高くないため、治療を行う必要はないとされています。

これまで、中隔子宮に対する子宮形成手術は、合併症のリスクなどを防ぐため開腹(お腹を開くこと)で行われていました。しかし、開腹手術には、傷が治るまで1年は出産できない(半年ほど妊娠できない)、分娩方法は帝王切開に限られるなど、様々なデメリットも伴います。

こういった難点を克服するため、日本医科大学付属病院女性診療科・産科部長の竹下俊行先生が、子宮鏡という内視鏡を用いた子宮形成手術を考案され、不育症専門医の間で注目を集めています。

子宮鏡による子宮形成手術であれば、1泊2日程度の入院のみで済むうえ、分娩法も帝王切開ではなく自然分娩となります。

実際に出産に至った例も既に20例を越えており、当院でも今後取り入れていきたいと考えています。

ここまでに、現時点で治療法が確立されている不妊症治療の詳細についてお話ししてきました。

このほかに、現在進行系で、流産を繰り返す難治症例に対し、大量ガンマグロブリン療法という新治療の臨床治験も行っています。

現時点では大量ガンマグロブリン療法にはエビデンスがないため、自費診療でお受けいただくか、臨床治験に参加していただくほかありません。しかし、大量ガンマグロブリン療法は非常に高額であり、自費診療で行うことは非現実的であるといえます。

この治験によって治療の有効性を証明することができれば、不育症の難治症例に対する大量ガンマグロブリン療法が保険収載される見込みも十分にあると希望を持っています。

斎藤滋先生

不育症の認知度が広がり、電話や面談で治療方針などを聞くことができる相談窓口が多くの自治体に設けられるようになりました。

また、岡山県真庭市を皮切りに、不育症に対する助成金を交付する都道府県・市町村も増えています。

富山県でも2016年から、不育症の検査費用と妊娠21週後の治療費に対し、補助金が交付されるようになりました。

不育症の検査や治療には、患者さんの金銭的負担が大きいという難点があります。

たとえば、治療方針を決めるにあたり非常に重要な胎児の染色体検査(絨毛検査)は、現行の制度では保険適応とすることができません。日本の制度では、生まれてくる前の赤ちゃんは、保険診療の対象とならないからです。

このような制度上の問題点があるなかで適切な治療を行うためには、各自治体からの助成金で検査にかかる個人の金銭的負担を軽減するほかないと考えます。

不育症が治療対象になるという認識が広がり、今後助成金制度が全国47都道府県に広がることを願っています。

 

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