インタビュー

糖尿病の患者さんのフットケア-糖尿病による足病変の悪化を食い止めるために

糖尿病の患者さんのフットケア-糖尿病による足病変の悪化を食い止めるために
渥美 義仁 先生

永寿総合病院 糖尿病・内分泌内科、糖尿病臨床研究センター センター長

渥美 義仁 先生

この記事の最終更新は2017年03月13日です。

糖尿病の患者さんにとって足病変は切り離すことができない重大な疾患です。糖尿病の患者さんの足病変が進行した場合、足の切断を余儀なくされることもあり、患者さんのQOL(生活の質)を脅かす非常に恐ろしいものです。今まで糖尿病の治療において足のケアはそこまで重要視されてきませんでした。しかし、近年足のケアが重要視されるようになり、ケアをする体制も整いつつあるそうです。

今回は、長年「糖尿病の患者さんにとってフットケアが重要である」と提唱し、取り組んでこられた永寿総合病院の渥美 義仁先生に糖尿病の患者さんのフットケアについてお話をお伺いしました。

世界的に見ると、糖尿病の患者さんの足は20秒に1本の割合で切断されているといわれています。糖尿病の患者さんにとって、足病変はこれほど近いところにあり、足の切断はQOL(生活の質)に大きく関わるので予防ケアが必要です。

足イメージ画像

日本人は清潔で足のケアを習慣化している方が多く、かつ、切断の原因となる足の末梢動脈疾患も少なかったので、壊疽(えそ・組織が死んでしまうこと)から足の切断にいたる割合はそこまで高くありません。しかし、足の動脈硬化が増えているので、足病変への注意を怠ってはいけません。

糖尿病による足病変の主な原因は神経障害と血流障害、そして感染の3つです。

糖尿病における足病変の要因のひとつが末梢神経障害と呼ばれる神経障害です。末梢神経障害が進むと、足の感覚が鈍くなり、小さな異変に気付きにくくなってしまいます。そのため、靴の中に異物があったりタコができたりといった小さな外傷に気付かず傷が悪化する場合があり、最終的には足の壊疽につながってしまうことがあります。

末梢動脈疾患と呼ばれる足の血流障害があります。血流障害になると、足の血管が狭くなり血液の流れが悪くなります。それにより足先へ栄養や酸素を十分に送り届けることができなくなるため、間欠性跛行の症状が現れるようになります。さらに進行すると、血流障害性の足潰瘍・壊疽に進行します。

糖尿病の患者さんは感染症になりやすいという特徴があります。これは血糖が高くなりすぎると、白血球が正常に働かなくなるという原因によるものです。感染に対する抵抗力が低下するため、細菌や真菌(みずむし)などに感染しやすくなることがわかっています。さらに傷も治りにくいために、感染から足の壊疽へ進行する場合があります。

これら足病変が進行すると、けがや火傷などの発見が遅れたり、見逃して放置してしまうケースが数多くあります。それは、多くの足病変患者さんには知覚異常があり外傷への自覚症状がないことがほとんどだからです。早めに手当をすれば治る外傷であっても気付かず、傷口が化し悪化してしまうケースもあります。適切な処置をすることなく放置をすると潰瘍(かいよう)へ進行してしまう場合もあり、非常に危険です。一度潰瘍になってしまうと治療も長期化してしまいます。

足の壊疽の例
糖尿病足潰瘍の治療(切断含む)
左:治療前 右:治療後(画像:渥美 義仁先生ご提供)

お伝えしたように壊疽になってしまうと、最悪の場合、足を切断しなくてはいけません。これを予防するため、足病変の進行には注意が必要です。

しばらく歩き続けると足の痛みやしびれが現れ、休むと痛みが軽くなる症状を間欠性破行といいますが、足の血流障害になるとこの症状が現れる場合があります。しかし、症状が出ない患者さんもいらっしゃるため、医師による定期的な足の診断が非常に重要になります。脊椎間狭窄症でも似た症状がでるので、鑑別が必要です。

糖尿病の患者さんには高齢者が多く、白内障網膜症による視力障害の方も少なくありません。その場合、自らの足の異変を目で見て発見できなくなります。また、なかなか医師にかかることができない方や独身・独居の方も足病変になりやすいといわれています。

とはいえ、足病変の早期発見が難しい理由は、医療サイドのリソース不足によるところが大きいです。

壊疽も潰瘍も治療する必要がありますが、糖尿病を診る医師やスタッフが不足し足まで診る余裕がないために長く放置される例も少なくありません。 

また、患者さんは、糖尿病の専門医が発見できなかった足病変が悪化してから皮膚科や外科に行くケースが多くなります。しかし、皮膚科だと大きな処置をすることができません。海外なら血管の治療や人工皮膚などより大きな処置ができる病院に送るなど連携がとれている例も出てきていますが、今の日本ではそこまでの連携体制が整備されていません。これはひとつの課題でしょう。

しかし、日本でも少しずつ糖尿病の患者さんへのフットケア体制が整いつつあります。

アメリカやヨーロッパには足を専門とする医師がいますが、最近では日本でも足を専門とする医師が増えてきています。足に少しでも気になることがあればまず医師に相談することが非常に大切です。日頃から自分でケアをおこない、何か異変があれば医師に相談するよう心がけるだけで、重症化を食い止めることができるでしょう。

CDEJ(Certified Diabetes Educator of Japan:日本糖尿病療養指導士)とは、患者さんの糖尿病のセルフケアを支援する医療スタッフです。糖尿病と療養指導全般に関する知識を持ち、医師の指示の下で患者さんに療養指導をおこなうことができる熟練した経験を有し、試験に合格した看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師、理学療法士に与えられる資格です。

CDEJがいる施設を選ぶことで、きちんと足のケアもしてくれるようになります。医師に足まで診る余裕がなければ、看護師や他のスタッフが診てもいいのです。また、たとえば心電図をとるときに検査技師が足もチェックするなどの対応も可能となります。

透析治療を受ける患者さんの3割以上は、糖尿病の方です。糖尿病がない透析の方は足の壊疽になることが少なく、糖尿病で透析をしている患者さんが最も壊疽になりやすいことがわかっています。透析治療の期間が長くなると、動脈の石灰化と動脈硬化が重なって、下肢の血流障害をきたし、足の壊疽に進行しやすくなるといわれています。

透析治療を受ける糖尿病の患者さんに対して国としても対策を始めており、2016年4月より足の重症化予防の取り組みの推進として、人工透析患者の下肢末梢動脈疾患重症化予防の評価「下肢末梢動脈疾患指導管理加算」が新設されました。透析治療をおこなう糖尿病の患者さんの足の状態を定期的にチェックし、異変がある場合は専門施設を紹介するという制度です。このような制度を整えることにより、徐々にではありますが、足病変の悪化を食い止めることができるようになってきています。

お話してきたように、糖尿病の治療には血糖値の管理とともに足のケアが非常に重要です。血糖値に関しては、患者さんが自分で食事や血糖値などを管理することができる自己測定アプリの開発も進めてきました。同じように、患者さんには日頃から足をチェックする習慣を持っていただきたいと思っています。少しでも異変があれば医師や看護師に相談するだけで、早期発見につながり悪化を防ぐことができるでしょう。

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