インタビュー

その頭痛は本当に片頭痛?片頭痛のメカニズムから原因、症状、見分け方まで

その頭痛は本当に片頭痛?片頭痛のメカニズムから原因、症状、見分け方まで
鈴木 則宏 先生

慶應義塾大学 医学部神経内科教授

鈴木 則宏 先生

この記事の最終更新は2017年04月20日です。

頭痛はとても一般的な症状で、誰もが一度は経験したことがあるはずです。頭痛には、脳出血緑内障顎関節症など何らかの疾患が原因で生じる「二次性頭痛」と、別の疾患によらない痛みそのものを病態とした「一次性頭痛」があります。今回ご紹介する片頭痛は一次性頭痛に分類され、ドクドクと脈打つような激しい痛みが、月経周期やストレス、気圧などの様々な要因によって急に現れることが特徴です。片頭痛は診断が難しく、適切な治療を受けている患者さんがほとんどいないという問題がありますが、専門医のもとでしっかりと治療を受ければその症状は劇的に改善するといいます。本記事では、頭痛専門医として長年数多くの片頭痛の患者さんを治療してこられた慶応義塾大学病院神経内科教授の鈴木則宏先生に、片頭痛のメカニズムと原因、症状についてお話しいただきます。

頭が痛そうな人

片頭痛は一次性頭痛という、別の疾患に基づかない頭痛の一種です。

通常、「頭が痛い」「お腹が痛い」などの痛みの症状は、痛みの箇所に何らかの問題があるために、その部位から発せられる要治療信号といえます。たとえば、関節が痛ければリウマチ、腹部が痛ければ胃炎胃潰瘍などの消化器性疾患、喉が痛ければ呼吸器疾患など、痛みが生じる箇所には何らかの疾患が絡んでいることがほとんどです。しかし一次性頭痛は、痛みの箇所に原因となる明らかな炎症の所見や疾患が存在しません。つまり、頭痛の症状そのものが疾患本体として定義されているのです。これは非常に特殊な病態といえます。片頭痛の場合も、頭痛の原因となる疾患が見当たらないにもかかわらず、特徴的な激しい痛みが現れます。

【主な一次性頭痛】

・片頭痛

緊張型頭痛

群発頭痛

1990年代の統計調査によると、一次性頭痛の患者数は日本人全体の約45%に及ぶといわれています。このうち緊張型頭痛の患者数は24%、片頭痛の場合は8.4%が該当し、本邦には約840万人の片頭痛の患者さんがいらっしゃることになります。これほど多くの方が経験する頭痛であるにもかかわらず、正しく治療を受けている方は少ないことが現状です。

頭痛は、痛みの原因に応じて様々な種類に分類されます。一次性頭痛以外にも、二次性頭痛という原因疾患の随伴症状として起こる頭痛や、病気とは呼ばない生理現象としての頭痛などがあります。

・病気ではない頭痛

かき氷など、冷たいものを食べたときに生じる頭痛や、二日酔いによる頭痛など。時間とともに自然治癒するため、疾患には該当しないタイプの頭痛を指す。

・二次性頭痛

くも膜下出血髄膜炎、脳内出血、脳室穿破、脳腫瘍など、他の疾患に起因する頭痛を指します。これらの疾患は命にかかわる危険性が高いため、頭痛で来院された場合はまずこれらの疾患によるものでないかを鑑別します。また脳や中枢神経以外の疾患でも頭痛が生じる場合もあります。緑内障副鼻腔炎顎関節症などは頭痛を伴う疾患としてよく知られています。

片頭痛が生じる原因ははっきりとわかっていませんが、現在最も有力とされている病態仮説として「三叉神経血管説」があります。

かつて、片頭痛は脳の硬膜に分布する血管が何らかの刺激によって炎症を起こして拍動することで生じると考えられていました。しかし実際に片頭痛の患者さんの血流を計測してみた結果、片頭痛やその前兆は、血管ではなく、脳内の何らかの神経細胞が発作的に興奮し、その結果神経が機能不全に陥って起こることがわかってきたのです。これを説明する理論が三叉神経説です。

脳の硬膜には三叉神経という顔面の感覚を司る神経の終末(顔面に細かく枝分かれしている神経の集合地点)が存在します。この三叉神経の終末が、何らかの原因で皮質拡延性抑制(cortical spreading depression:CSD、過剰な神経興奮が波のように数ミリずつ硬膜神経節の終末に押し寄せる)という現象が起こることで刺激を受けると、視覚前兆(片頭痛が起こる前に目がちかちかするなどの視覚的な症状が現れること)が生じます※。また、刺激を受けた三叉神経の終末からは血管拡張性物質である calcitonin gene related peptide(CGRP)が放出されて、脳の血管が拡張して炎症が起こり、拍動性の痛みをもたらします。三叉神経血管説では、このようなメカニズムによって、片頭痛が生じるといわれています。

片頭痛は、激しい頭痛が生じる30分~1時間前に視覚・感覚・言語のいずれかに特徴的な障害が生じる「前兆あり」のタイプと、突然頭痛が始まる「前兆なし」のタイプがあります。

前兆として最も多く知られている症状は閃輝暗点といって、視野の中心部にチカチカと光のような輝きが現れて、視界の中心が見えづらくなります。この閃輝暗点は30分ほど続き、一旦消失しますが、30分ほどしてから激しい頭痛が訪れます。

日本の片頭痛の患者さんのうち約2割が前兆あり、残り8割は前兆なしといわれています。

片頭痛はストレスと大きく関係がある疾患です。ストレスを強く受けたときに生じると思われがちですが、実際にはストレスから解放され、緊張がほぐれたときに多く発生します。そのため、片頭痛は平日よりも週末に多く発生し、痛みの症状によって休日を寝たきりで過ごしてしまう患者さんも少なくありません。

ベッドに寝てる人

男女別に見た片頭痛の患者さんの割合は、男性3%、女性13%と、統計的にみても女性に圧倒的に多いことが知られています。女性の中でも特に、思春期から40代にかけての妊娠・出産に差し掛かる年代に多いのですが、妊娠中には片頭痛の症状が一旦軽減し、出産後に再び悪化するという特徴があります。これは、片頭痛が月経周期に深く関係しているためです。

この場合は月経が始まる2~3日前から片頭痛特有の激しい頭痛が始まり、月経開始後2日目ごろに最も痛みが酷くなって、その後徐々に痛みが消失していきます。こうした片頭痛を「月経関連片頭痛」といい、三叉神経血管説とは少々異なったメカニズムで症状が現れるといわれています。

片頭痛の患者さんは気圧に敏感で、低気圧が近づくと症状が増悪するという特徴があります。

片頭痛の症状の特徴は、頭の片側が脈を打つようにドクドクと痛む点です。頭の血管が脈を打つ様子が感じ取れるため、「頭の中に心臓があるような状態」と訴える患者さんもいます。

片頭痛の患者さんの8割は、頭痛に伴い悪心や嘔吐がみられます。吐くと症状が和らぐことも一つの特徴です。頭痛に嘔吐を伴う場合、その頭痛は片頭痛である可能性が高いと考えてよいでしょう。

片頭痛の症状は、暗くて静かな部屋など光や音が入りにくい場所に移ると和らぐことがあります。運動すると症状が悪化するため、外に出ることが難しくなり、家に引きこもって日常生活がストップしてしまう患者さんもいます。

緊張型頭痛の場合、片頭痛のようにドクドクと脈打つような拍動性の痛みではなく、頭や目の奥が締め付けられるように重く・鈍く痛みます。緊張型頭痛で痛む場所は後頭部の筋肉および周辺組織であり、頭の中の血管は無関係です。

片頭痛は誰でもかかる病気ではなく、素因を持つ方でなければ発症しません。つまり、素因を持っていない場合は一生片頭痛にならないのです。これに対して、緊張型頭痛の場合はどのような方でも発症する可能性があります。

緊張型頭痛の原因は主にストレス(特に精神的ストレス)で、痛みは片頭痛ほど激しくなく、嘔吐を伴うこともありません。程度が軽い場合は市販の鎮痛剤が効く場合があります。この他、筋弛緩薬や抗不安薬を使ったり、肩のストレッチをしたりすることも効果的です。また、緊張型頭痛は1か月~半年以上継続して痛みが続く場合もあり、片頭痛とは症状の持続期間が異なるため、症状が続く期間によっても鑑別することができます。

なお、なかには片頭痛と緊張型頭痛の2種類を併発している患者さんもいます。記事2『片頭痛の治療法―市販の頭痛薬や鎮痛剤などの治療薬は有効か?』でご紹介する頭痛日記をみて、医師が2つの頭痛が混ざっていると診断した場合、それぞれに効果的な異なる方法でひとつずつ治療をしていきます。

群発頭痛とは一次性頭痛の中でもまれな疾患で、非常に強烈で苦しい頭痛が突然現れます。片頭痛とは対称的に、男性(特に20~40代の男性)に多いことが知られています。

群発頭痛はある一定の期間のみに現れ、まるで時限爆弾が作動したかのように突然、片側の目の奥が痛み始めます。その痛みは激烈で、アイスピックで目をぐりぐりとほじられるかのようだとしばしば表現されます。あまりの痛みに患者さんはじっとしていられず、半狂乱になって暴れたり、痛む部分を叩いたりしてしまうケースもみられます。この他、痛みのある側の流涙、鼻汁、結膜充血、額の発汗などの自律神経障害も生じる場合があります。

群発頭痛の出現期間は極めて限られており、1か月~1か月半ほど経つとぴたりと症状が治まります。しかし、1年ほど経過すると再び激烈な痛みが訪れるのです。突然現れて自然に治り、また突然現れるため、患者さんは非常に不安な気持ちを抱えて生活しなければならず、精神的な面にも影響が及んでしまいます。

嘔吐を伴う頭痛の場合は片頭痛である可能性が高いといえます。片頭痛には非常によく効く薬「トリプタン」があります。これは市販では手に入らない処方薬ですから、まずは病院で診断を受けることが第一です。片頭痛のような症状がみられる場合はすぐ病院を受診してください。

片頭痛の痛みの期間には個人差があり、数時間で終わる方もいれば、3日間続く方もいます。しかし、痛む時間の長さと重症度には関係がありません。

とはいえ、72時間以上片頭痛が続く場合は別の病気が原因で痛みが生じている可能性があるので注意が必要です。まずは病院を受診し、本当にその痛みが片頭痛であるかについて診断を受けましょう。片頭痛に対しては、非常によく効くトリプタンという薬が適用されており、正しく治療をすることで劇的に症状が改善します。記事2『片頭痛の治療法―市販の頭痛薬や鎮痛剤などの治療薬は有効か?』では、このトリプタンを用いた治療法について詳しくご紹介します。

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