インタビュー

股関節の痛みへの対処と治療方法 – まずは手術しない保存療法を検討

股関節の痛みへの対処と治療方法 – まずは手術しない保存療法を検討
高平 尚伸 先生

北里大学 医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻 教授、北里大学 大学院医療系研究科...

高平 尚伸 先生

この記事の最終更新は2017年05月18日です。

股関節は立つ・座る・歩くなど、日常的な動作の中心を担う重要な関節です。股関節に痛みが生じ、変形が進むと、日々の生活に大きな支障や制限がでてきます。

近年、股関節治療は目覚ましい進歩を遂げています。今回は手術をする前にまず検討される「保存療法」と、初期関節症以前の患者さんを対象にした比較的新しい技術である「関節鏡視下手術」について、北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科および大学院医療系研究科整形外科学教授の高平尚伸先生にお話を伺いました。

股関節手術は、股関節の痛みや変形がひどく、歩行が困難になり、日常生活に支障をきたしてしまった際に選択される治療の最終手段です。

北里大学病院を受診される患者さんはクリニックからの紹介、あるいはインターネットで自ら検索して近医からの紹介状を持参して来院される方が多いので、患者さん自身の問題意識が高く、ある程度症状の進んだ方が多いです。

その場合でも、手術に踏み切る前にまず「本当に手術が必要なのか」を検討します。

手術以外の治療全般を「保存療法」といいます。北里大学病院に初めて来た患者さんには、必要があればまず保存療法を勧めるようにしています。保存療法の基本的なコンセプトとしては、日々の股関節に対する負担を減らし、生活環境の中で股関節の負荷を身体全体で補える筋肉をつけていく中で、痛みを軽減していこう、というものです。

かなり症状の進んだ患者さんでも、この保存療法を行うことで症状が軽くなり、手術が不要になることもあります。

*股関節症の悪化を促す原因は?

近年は変形性股関節症が悪化してしまうリスクが徐々に解明されてきました。例えば下記のようなことが股関節症の悪化を誘発します。

・体重が増える

・歩きすぎる

・重いものを持つことが多い

・激しいスポーツ  など

逆にこれらの行動を回避すれば、関節症の進行を遅らせる可能性が高くなります。

高平尚伸先生

保存療法は「患者さんの教育」ともいわれ、正しい知識でバランスよく股関節に負担のかからない生活をしてもらうための指導です。具体的には生活指導に始まり、運動療法や薬物療法、さらに細かくいうと、杖などを含む装具療法や電気を当てるなどの物理療法が保存療法として挙げられます。

現在は薬物療法も進歩しており、鎮痛剤を例にとって見ても種類が豊富になってきました。ずっと続いている痛みをとる慢性疼痛薬や、神経的なビリビリ、ジンジン、チクチクとした痛みをとる神経障害性疼痛薬など、さまざまな用途に応じた薬があります。保存療法ではそれらを有効に使いながら、股関節に負担の少ない生活環境を整え、手術をせずに関節症と付き合っていきます。

ある程度の期間、保存療法を試していただき、それでも痛みが取れず、変形があまりにひどい場合には手術に踏み切ります。北里大学病院を受診される患者さんの中には、最初から手術を受ける覚悟を決めて来る方も多いので、患者さんの希望もきちんと確認し、相談をしたうえで手術を決めています。

手術を希望する患者さんは多くの場合、痛みに耐えかねていらっしゃることが多いのですが、最近少し事情が変わってきました。QOL(quality of life:生活の質)という考え方や手術の進歩がマスコミやネットなどで周知される時代になったこともあり、痛みはそこまでひどくないけれど、手術をして今よりもアクティブに生活したいという思いを持って来院される患者さんも増えてきています。

旅行やスポーツなど活発な趣味を長く楽しめるように、手術を行うという欧米的な考え方が日本でも芽生えてきたことが伺えます。

以前私が担当した患者さんの中に、趣味のテニスを続けるために手術に踏み切った方がいらっしゃいました。彼女は近所の病院で「歩かない方がよい。股関節が悪いからテニスをやめなさい」といわれ、思い悩んで北里大学病院を受診されました。たしかに彼女の症状は日常生活には支障がなく、テニスをする際に痛むというものだったので、本人に手術の希望がなければ保存療法だけでも十分、日常生活を送れたかもしれません。しかし、「手術をすることで、またテニスができるようになるならば、ぜひ手術を受けたい」というのが彼女の希望でした。実際に彼女は手術を受け、今でも元気にテニスを楽しんでいます。このように、手術によって痛みをとるだけでなく患者さんの生活の質を向上させるのは、我々医師にとっても今後のひとつの目標になると感じました。

股関節症に対する手術方法には複数の種類があるため、それぞれの状況によって的確な方法を選ぶ必要があります。手術には自身の骨を残す「関節温存手術」と、人工物で補う「人工関節(置換)手術」の2種類があります。また、関節温存術は「関節鏡視下手術」と「骨切り手術」の2種類に大別されます。

手術の判断基準は大きく分けると「年齢」と「ステージ・病期」の2つで、これらによって手術方法の使い分けを総合的に判断していきます。北里大学病院ではチーム全体で年間200〜300件、私個人では70〜80件の手術を行っています。

子どもの股関節症では、その原因により治療方法が大きく変わります。たとえば、単純性股関節炎、化性股関節炎などから、先天性股関節脱臼ペルテス病大腿骨頭すべり症、などまで幅広く存在します。ただし、骨盤や大腿骨などの骨は成長過程ですので、手術が必要な場合には基本的には関節温存術が選ばれます。

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  • 北里大学 大学院医療系研究科臨床医療学 整形外科学 教授、北里大学 医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻 教授

    高平 尚伸 先生

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