インタビュー

股関節の痛みの原因となる寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)とは? 症状や手術について

股関節の痛みの原因となる寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)とは? 症状や手術について
福島 健介 先生

北里大学医学部整形外科学 診療講師

福島 健介 先生

この記事の最終更新は2017年05月17日です。

寛骨臼形成不全はかつて臼蓋形成不全と呼ばれており、骨盤の「臼蓋」という部分が不完全な形をしているために、大腿骨の上端部分である「骨頭」をうまく支えられていない状態のことをいいます。今でも世間では臼蓋形成不全の名称が広く知られているかもしれません。

寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)があると、日々の生活によって徐々に痛みや疲れなどの症状が出る可能性が高く、将来的に手術が必要になる場合もあります。

寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)が進行するとどのような症状が出るのか、予防や治療などについて北里大学医学部整形外科助教(北里大学病院 整形外科) 福島健介先生にお話を伺いました。

骨盤の臼蓋(股関節の屋根にあたる部分で、通常は大腿の骨頭を覆うような形をしている)の発育が不完全なために、大腿の骨頭(骨の先端にある球状の部分)をうまく支えられていない状態を臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)といい、近年では寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)と呼ばれています。

2010年の疫学調査では、わが国においては股関節痛を主訴とする患者さんの約80パーセントが寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)に起因しているという結果が出ました。

発育不良によって臼蓋が小さいと、大腿の骨頭を十分に覆うことができないため、体重のかかる面積が小さくなり、股関節が不安定になります。そのため軟骨がすり減っていき、股関節に痛みが出たり、亜脱臼を起こしたりします。

寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)がある方にどれくらいの割合で痛みなどの症状が出るのかはわかっていません。

また、どのように痛みが出るのかというメカニズム自体も明確になっていません。しかし、臼蓋と骨頭がうまく噛み合っていないことにより、軟骨が損傷したり、筋肉部分の炎症が起こったりするのではないかといわれています。

発症年齢はだいたい20代後半から40代くらいの方が多く、妊娠や出産がきっかけで痛みが出たという方もいらっしゃいます。

痛みの出る部位は股関節だけでなく膝、腰などさまざまで、ズキンとするような痛みから鈍痛まで、人によって痛みの種類も違います。症状が進行すると、臼蓋や大腿骨頭の変形が強くなって、臼蓋から大腿骨頭が外れかかる亜脱臼の状態になることもあります。

また、寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)であると体重を骨で支える面積が少なく、周りの筋肉に負担がかかるので、痛みはないけれど脚がだるい、疲れやすいという方も多くみられます。

寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)の原因は遺伝的な要素が大きく、男女比はおおよそ1:9で圧倒的に女性に多くみられます。

お子さんがいらっしゃる女性の寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)の検査をする際に、自分の娘も検査してほしいといわれることがありますが、調べてみると娘さんも寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)であることが珍しくありません。

また、逆子だったために胎内で股関節の成長が遅れて寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)になることもあります。

その他に原因として挙げられるのは乳児期の生活習慣です。乳児期におくるみやスリング(乳児を包み込むようなタイプの抱っこ紐)などで足を閉じたまま固定する状態が続くと、寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)になりやすいので注意が必要です。

寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)は股関節のレントゲンの検査によって診断されます。

レントゲン検査では主に「CE角」と「Sharp角」のふたつの指標が用いられます。施設によってはどちらか一方しか計測しない場合もありますし、必ずしもCE角とSharp角の数値のみで、臼蓋形成不全と診断されるわけではありません。

CE角

CE角とは、大腿骨頭の中心を通る垂線と、臼蓋の外縁を結ぶ線がつくる角度のことです。

成人のCE角の正常値は25~30度くらいで、20度以下で寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)と診断されます。数値が小さいほど寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)の傾向にあります。

CE角の説明イラスト

Sharp角

Sharp角とは、骨盤にある涙痕を結んだ骨盤水平線と臼蓋の外縁を結ぶ線がつくる角度のことです。

成人のSharp角の正常値は、性差もありますが35〜40度くらいで、40度を超えると寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)と診断されます。数値が大きいほど寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)の傾向にあります。

Sharp角の説明イラスト

寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)の手術治療法は、主に骨を切って臼蓋を形成する骨切り術と、人工股関節手術のふたつがあります。左右ともに手術適応な場合、当院では人工股関節手術は両側同日に行うことが可能ですが、骨切り術は症状が強いほうから左右それぞれ間をあけて手術を行います。

骨切り術の適応は、それほど関節が傷んでいない、ある程度軟骨が残っていることが前提です。

骨を切って臼蓋を形成することによって、股関節が安定して痛みがなくなる効果が期待されます。

症状がかなり進行している場合は、股関節を人工の関節に置き換える人工股関節手術が行われます。施設や医師によっては、骨切り術と人工股関節手術のどちらを行うか、患者さんの年齢で決定する場合もあります。

寛骨臼(臼蓋)回転骨切り術とは骨盤の臼蓋のまわりを切って、引き出すように回転させて固定することで骨頭を覆う手術です。

寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)の回転骨切り術には代表的なものとして『RAO(Rotational acetabular osteotomy)』と『CPO(Curved periacetabular osteotomy)』があります。

RAO(Rotational acetabular osteotomy)

RAOとは骨盤の外側から臼蓋のまわりを切り、臼蓋を形成する手術です。広範囲にメスを入れるため、傷が大きく深くなってしまうというデメリットがあります。術後3週間くらいで、体重負荷をかけたリハビリをスタートし、杖で歩けるほど回復する5週目くらいで退院します。補助なしで歩けるようになるには一般的に3か月くらいかかります。

RAOー臼蓋を形成する手術

CPO(Curved periacetabular osteotomy)

CPOとは、骨盤の内側から臼蓋のまわりを切り、臼蓋を形成する手術です。 RAOと比較して傷が小さく、筋肉を傷つけませんが、手術にはより高度な技術を要します。

筋肉の回復が早いので、術後4か月くらいでスポーツに復帰した患者さんもいます。

 

CPO-臼蓋を形成する手術

臼蓋形成術(棚形成術)とは、自分の骨を移植することによって、臼蓋を形成する手術です。

骨盤の骨を切り取り、棚を形成するように新しい臼蓋をつくります。

臼蓋形成術

関節の損傷が激しい場合や、骨切り術で痛みが取れなかった場合には、人工股関節手術を行います。

人工股関節手術は関節を金属やセラミックでできた人工関節に置き換える術式です。痛みが改善するケースがほとんどで、安定した手術といえます。骨切り術が行える場合でも、最初から人工股関節手術を選択する医師も多くいます。しかし人工股関節手術の場合、人工関節自体の寿命や緩み、脱臼などによってもう一度手術を行うことになる可能性もあります。

骨切り術の一番の問題は、手術の結果が術者の技量に大きく依存してしまうことです。

ナビゲーションを使うなど、技術を画一化しようという動きはあるものの、骨切り術は高度な技術を必要とする難しい手術であることに変わりありません。術者は職人の世界のように、指導者の元で経験を積まなければなりません。

また、患者さんによって股関節のかたちはそれぞれ異なるので、私たちが手術を行う際には、CTを撮像して3Dプリンターを使って模型を作り、それぞれの患者さん独自の手術計画を立ててシミュレーションを行っています。

骨切り術は大きな手術なので、出血をうまくコントロールする必要があります。術後も、頻度は少ないですが移動した骨がうまく接着しないことや、神経系に影響が出て太ももの外側が痺れるといった後遺症が出るリスクもあります。

手術

寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)の手術では、患者さんと医師が手術の目的や術後経過のイメージを共有することがもっとも大事だと考えて診療をしています。

また、施設や医師によって寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)の治療方針は異なり、私自身は症状が出てはじめて手術を検討するというスタンスをとっています。なぜなら、これは簡単な手術ではなく、合併症などのリスクがあるからです。

寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)に対する手術適応の明確な基準はないため、治療については医師にしっかり相談することが大切です。

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