インタビュー

血尿やたんぱく尿が出るIgA腎症のメカニズムと症状、治療 扁桃摘出が治療の鍵となる

血尿やたんぱく尿が出るIgA腎症のメカニズムと症状、治療 扁桃摘出が治療の鍵となる
堀田 修 先生

堀田修クリニック 院長

堀田 修 先生

この記事の最終更新は2017年05月23日です。

IgA腎症とは、糸球体(腎臓の皮質にあり、毛細血管が毛玉のように球状に集まったもの)のメサンジウムという部分に、免疫グロブリン(体液中に存在し、抗体としての機能・構造を持つたんぱく質)の一種であるIgAが沈着し、糸球体の血管が炎症を起こしている(血管炎)状態です。IgA腎症は血尿以外の目立った症状が出にくく、気がつかないまま治療をしないと腎不全へ至る可能性がある難病ですが、早期段階でしっかりと治療を行えば寛解(症状が出なくなった状態)を目指すことも可能となりました。現在IgA腎症に対する標準治療として用いられている方法が、扁桃を摘出したうえでステロイドパルス療法(ステロイドを短期的に集中投与する方法)を行う「扁摘パルス」です。今回は、世界で初めて扁摘パルスを提唱された堀田修クリニックの堀田修先生に、IgA腎症の原因、症状、扁摘パルスによる治療についてお話しいただきます。

IgA腎症は腎臓の糸球体にIgAが沈着し、糸球体に血管炎が起こっている状態です。IgA腎症の病態を考えるとき、糸球体にIgAが沈着することと、血管が炎症で破れること(糸球体血管炎)は分けて考える必要があります。

IgAは液性免疫を担うBリンパ球が産生する免疫グロブリンの一種で、糖鎖(複数の糖が結合してつながり合った化合物)を持っています。IgA腎症の患者さんではこの糖鎖の一部が何らかの原因で欠損した、糖鎖不全のIgAが産生されます。糖鎖不全のあるIgAは接着性が亢進しており、糸球体のメサンギウムに容易にくっつきます。このようにIgAが糸球体のメサンギウムにくっついている現象(IgA沈着症)は、日本人の場合は10人に1人のくらいの割合で生じていることが知られていますが、IgA腎症を発症するのはそのうちの一部です。つまり、IgA沈着症のみで血尿やたんぱく尿が生じることはなく、IgA沈着症の状態に糸球体血管炎が加わったものがIgA腎症です。

糸球体の血管炎は、細胞性免疫を担うTリンパ球の異常によって起こります。Tリンパ球は炎症を起こす実行犯ではなく、糸球体の血管を攻撃しろと命令する司令塔としての役割を果たします。実行犯として健常な糸球体を攻撃するのは、Tリンパ球の指令を受けたマクロファージや好中球などの別の種類の白血球です。これらの免疫担当細胞である白血球が誤って自らの糸球体の血管を攻撃することで、糸球体の血管炎が生じると考えられています。

そして、血管炎が生じたあとは瘢痕(分節性硬化)となり、最終的にはその糸球体が荒廃して機能が失われます(球状硬化)。糸球体には代償機能があるのでIgA腎症が発症してもすぐに腎機能は低下しませんが、代償機能が失われる段階まで糸球体の荒廃が進むと、その後は進行性に機能低下が起こります。

このように炎症と瘢痕を繰り返すことで、IgA腎症は進行していきます。

Iga腎症の病理と臨床

IgA腎症の臨床像はふたつの病態によって規定されます。

ひとつ目の病態は糸球体血管炎(上図の赤鬼に相当)です。これは、糸球体血管に炎症が起こっている状態で、糸球体の血管壁が破綻する(血管の壁が破れる)ことで赤血球が尿中に漏れ出て、その結果として血尿がみられます。

赤血球とともに破れた糸球体血管壁からはたんぱく粒子もボウマン嚢内に漏れ出ますが、たんぱく粒子は分子量が大きい赤血球と異なり、ボウマン嚢に続く尿細管で再吸収されるため、初期段階のIgA腎症の場合、糸球体血管炎を起こしているのは全体の糸球体の一部にすぎません。そのためタンパクは陰性です。しかし、稀に最初から多数の糸球体で血管炎が生じることがあります。この場合は糸球体から漏れ出るたんぱく粒子の量が多いために最初から尿たんぱくも陽性になります。

IgA腎症の臨床像を規定するもうひとつの病態は巣状分節性糸球体硬化(focal and segmental glomerular sclerosis, FSGS)(上図の青鬼に相当)です。

IgA腎症のFSGS病変は糸球体血管炎の瘢痕病変として生じます。FSGS病変はIgA腎症の他にも様々な原因で形成されますが、IgA腎症のFSGSは糸球体血管炎の瘢痕病変なので二次性FSGSと呼びます。

FSGSでは糸球体係蹄壁の機能が障害されてザル状態になるため、たんぱく粒子が糸球体から漏れ出ます。しかし、血管炎のような係蹄壁の断裂はないので分子量の大きな赤血球が漏れ出ることはなく、FSGS病変は尿潜血のないたんぱく尿の原因となります。

それゆえ、糸球体血管炎を扁摘パルスなどの治療で消滅させた後に残ったタンパク尿の程度は、二次性FSGSに陥った糸球体の多さを反映します。

つまり、扁摘パルス等により尿潜血が消失した状態では、タンパク尿の程度が高度→FSGSの糸球体が多い→腎症の予後が悪いということになります。

そして腎症が進行するにつれて、以下に解説する、IgA腎症に非特異的で、なおかつ進行する腎臓病に共通して認められる進行因子が関わってきます。

代謝性糸球体過剰濾過

代謝性糸球体過剰濾過とは、球状硬化に陥って潰れた糸球体が増えて正常な糸球体の数が減少し、残った糸球体に過剰な負荷がかかってしまう状態です。

IgA腎症の患者さんに限らず、進行性の経過をたどる慢性腎臓病では腎症の進行により糸球体の荒廃が進行すると、徐々に正常な糸球体が少なくなっていきます。糸球体には代償機能があるので、残った糸球体は減った糸球体の仕事量をカバーしようとして過剰に働き、一つの糸球体に対して過剰な負荷がかかってしまいます。そして、過剰な負担に耐えられなくなった糸球体はやはり二次性FSGSに陥り徐々に荒廃してしまいます。

こうして生き残った糸球体の仕事量がどんどん増え、代償能力が限界を迎えると糸球体が次々と潰れ、進行性に腎機能が悪化して行きます。

蛋白負荷性尿細管・間質障害

尿細管から大量のたんぱく粒子が再吸収されることで尿細管が傷つき、間質(尿細管と尿細管の間の組織)が障害されます。

虚血性尿細管・間質障害

IgA腎症が進行すると腎臓が徐々に萎縮し、間質の線維化により腎臓全体が硬くなって血流が悪くなり、虚血状態に陥ります。そして虚血自体が腎症の悪化を加速します。

この3つの腎症を進行させる機序(メカニズム)は血尿とは無関係に起こり、二次性FSGSは代償性過剰濾過と蛋白負荷性尿細管・間質障害と関連し、糸球体血管炎が消滅して尿潜血が陰性化した後も進行性に腎症を悪化させます。

糸球体血管炎が起こっている「赤鬼」が主役の段階であれば、治療によって寛解(血尿とたんぱく尿が消失した状態)する見込みがあります。しかし、二次性FSGSである「青鬼」へ進行すればするほど、寛解は難しくなっていきます。IgA腎症の初期症状は血尿以外に目立ったものがないので、気がついたときには腎機能が著しく低下していたというケースも少なくありません。だからこそ、IgA腎症では検診をしっかりと受けることが重要です。

糸球体血管炎があるIgA腎症に対しては、扁桃を摘出(扁摘:へんてき)したうえでステロイドパルスを行う、扁摘パルスという治療法が有効です。

扁桃が細菌感染等により慢性的に炎症を起こしていると、扁桃で活性化されたリンパ球が誤作動を起こし、血流に乗って全身を巡り、マクロファージや好中球に攻撃の指令を下します。指令を受けたマクロファージと好中球は糸球体に到達し、糸球体の血管を攻撃します。

扁桃はいわばIgA腎症の設計図のような存在で、扁桃で教育されたリンパ球がテロリストの司令官として体内を駆け巡り、テロリストの実行犯であるマクロファージや好中球に攻撃命令を出し、体の中で最も血流が豊富で犠牲になりやすい糸球体を次々と破壊し、糸球体血管炎が広がっていくのです。

ですからIgA腎症の治療では、まずはリンパ球に誤った教育をする扁摘を取り除く必要があります。

扁摘後は既に体内を巡っている白血球(リンパ球、マクロファージ、好中球)による炎症を抑制するため、ステロイドパルス療法(ステロイドを短期的に集中投与する方法)を行います。

早期段階のIgA腎症であれば、扁摘パルスの治療によって寛解が期待できます。

上図の”Point of no remission”とは、治療で糸球体血管炎が消失した時に尿たんぱくが陰性となる限界ポイントです。このポイントを過ぎてしまうと、たんぱく尿の原因となる二次性FSGSのために、糸球体血管炎の消滅に成功しても尿たんぱくが陰性になることはありません。

二次性FSGS(上図の青鬼)の数が増えるほど、腎症の進行因子が増えて腎機能は悪くなるので、可能な限り二次性FSGSがまだ少ない段階から治療をすることが求められます。

では、”Point of no remission”を過ぎてしまっているIgA腎症の患者さんにはもはや扁摘パルスをしても全く無駄なのかというと、決して無意味ではありません。二次性FSGS(青鬼の数)が増えてしまった段階でも、まだ糸球体血管炎が残存する(赤鬼がいる)状態であれば、扁摘パルスで糸球体血管炎を治療できますから、さらなる糸球体硬化への進行の勢いを抑制することができます。つまり、”Point of no remission”を過ぎた場合でも、血尿がみられるようであれば扁摘パルスによってIgA腎症の進行を遅らせる効果を期待できるということです。

巣状分節性糸球体硬化に進行した「青鬼」の部分に対しては、扁摘パルスなどの炎症に対する治療は効果がありませんが、たんぱく尿の値を下げる治療法はあります。

たんぱく尿が出ている場合、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)やアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬などの降圧薬を用いて糸球体圧を下げます。IgA腎症で糸球体硬化が進行した場合、人の体は血圧を上げて糸球体濾過量を保とうとしますが、それが糸球体に更なる負担をかけてしまうのです。

IgA腎症の患者さんの場合、血液中の尿たんぱくの数値が0.3g以下になることを目標にしていきます。尿たんぱくが0.3g以下に抑えられていれば、多少血圧が高めであっても大きな心配はいりません。

降圧薬を用いたたんぱく尿への効果については、十分なエビデンスがあります。

IgA腎症の治療のゴールは治療介入のタイミングにより下記の3つに集約されます。

1. 血尿・たんぱく尿ともに陰性となる、IgA腎症の寛解/治癒を目指す(早期IgA腎症)

2. 寛解はもはや困難だが、腎症の進行を遅らせ、生涯にわたり透析導入を回避する(中期IgA腎症)

3. 将来の透析導入は回避できないが、透析になる時期を遅らせる(後期IgA腎症)

なお、欧米では扁摘パルスの実績がないためIgA腎症の寛解/治癒を目指すという考え方が認知されておらず、いまだに「腎症の進行を遅らせる」が唯一の治療目標です。

これまで私は1000人を超すIgA腎症の患者さんのセカンドオピニオンに対応して来ましたが下記のふたつが患者さんの抱える扁摘パルスに関する主要な問題点です。

  • 将来のことが不安なのに「もっと腎症が進行してから扁摘パルスをしましょう」と担当医にいわれている。
  • 「扁摘パルスをするにはもう手遅れ」と担当医に説明されたが納得がいかない。

ここまで述べてきたように、IgA腎症には糸球体血管炎と二次性FSGSというふたつの病態があります。これらの関係を医師がしっかりと把握し、適切な評価を下すことができれば、一人ひとりのIgA腎症の患者さんに合わせた最適な治療方針が定まってきます。

ですから、たとえ腎症が進行していてもあきらめず、しっかりと専門医のもとで治療を受けてください。また、医師の説明に納得がいかなければ、扁摘パルスの実績がある医師にセカンドオピニオンをお受けになることをお勧めします。

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