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第29回日本内分泌外科学会-予後とQOLを考慮した専門的診療を実現するために

第29回日本内分泌外科学会-予後とQOLを考慮した専門的診療を実現するために
メディカルノート編集部 [医師監修]

メディカルノート編集部 [医師監修]

この記事の最終更新は2017年06月08日です。

内分泌外科に関連する外科医、泌尿器科医、頭頸部外科医、病理医、放射線科医など多くの領域の医師が集う日本内分泌外科学会。その第29回となる学術総会が2017年5月18・19日に神戸国際会議場にて開催されました。

本学会の会長は医療法人神甲会隈病院 副院長の宮章博先生、総会事務局を隈病院が担い、各会場で内分泌外科に関する数多くの議論が交わされました。本総会ではどのようなテーマが取り上げられ、議論されたのでしょうか。第29回日本内分泌外科学会の概要をレポートします。

学会のポスター写真

本総会のテーマは「予後とQOLを考慮した専門的診療」です。

内分泌疾患の治療は適切な外科療法の選択によって内分泌症状の劇的な改善が期待されますが、その反面で場合によっては手術後に合併症が現れ、患者さんのQOLを大きく低下させてしまうリスクもあります。そのため内分泌外科の医師には手術の適応、手術手法の選択をより適切に判断し、患者さんの予後やQOL維持をも考えた診療を進めていくことが求められています。

さらに近年では放射線治療や薬物治療が向上し、手術療法以外の治療選択肢が広がっています。そのため内分泌疾患の診療にあたる医師にはそれぞれの症例を見極め、どういった治療を選択すべきかを適切に考えていく能力が求められています。

こうした背景から、本総会のテーマを「予後とQOLを考慮した専門的診療」とし、内分泌疾患の治療において、外科療法を選択すべきか、どのような外科療法が行われるべきか、術後にはどのような治療を進めるべきかなど、よりよい予後を考えるための内分泌外科診療に関する数々の演題項目が選ばれ、それぞれの会場で発表が行われました。

そして本総会では近年における新たな薬物療法の登場なども踏まえ、内分泌外科以外の他部門の専門家も登壇し活発な議論を重ねました。こうした幅広い分野の専門家を招致した背景には、内分泌疾患診療の最新治療について様々な視点からの論議を交わすことで今できる治療法を見直し、日本のどこにおいても最高の診療法を提供できる情報を発信していこうという、本総会の会長 宮章博先生のお考えがあります。こうして6つのシンポジウム、10の要望演題、その他多数の一般演題の発表が2日間にわたって行われました。

宮内先生お写真

会長講演では宮章博先生より「短期・中期・長期的予後を考えた診療」と題して、隈病院における手術実績に基づく研究結果をもとに、内分泌疾患治療のあり方に関する講演が行われました。

近年、医学の進歩に伴い様々な治療法を選択することが可能になり、どの診療領域においても様々な観点から検討を重ね、短期・中期・長期的予後を考えた診療を行うことが求めれています。そうした診療のニーズは、特に内分泌疾患治療の領域で重要視されています。なぜならば内分泌疾患は疾患特徴を捉えながら、それぞれの病期に応じて、予後をより改善させる治療を検討していくことが非常に重要であるためです。

たとえば、甲状腺がんのひとつ「乳頭がん」はリンパ節への転移が高率で見られる一方で、死亡率は極めて低いという疾患特徴を持っています。そうした疾患に対してどういったタイミングで治療介入を行うのか、手術療法を適応すべきか、という点は今も議論が続いているところです。そうしたそれぞれの疾患特徴をよく理解したうえで、どの治療方法がより予後の改善に繋がるのかを考えていくことが内分泌疾患の治療では非常に大切になります。

さらに近年では分子標的薬の登場によって治療選択肢の幅は大きく広がり、外科的療法ではなく内科的治療法を適応すべきではないか、内科療法を行う場合には、いつ、どのような症例に対して、どの期間投与していくべきかという検討も数多く重ねられるようになりました。こうした背景からも、まずは患者さんがもつ疾患の特徴を明らかにし、その病態に対してどの治療方法を選択するのかを、様々な視点をもって予後改善を考えた治療を行っていくことがより重要視されてきています。

これまで隈病院では、内分泌疾患における多数の手術症例より、手術療法による内分泌疾患治療のメリットや、外科手術による身体への影響を研究してきました。そして多領域の医師が関わりチームで診療を進めていくことで、多方面からの視点を取り入れたより適切な内分泌疾患治療の実現を目指してきました。

こうした隈病院の診療データや近年発表したエビデンスを踏まえ、本講演では手術療法と薬物療法それぞれの有用性の検討や、無症候性の原発性副甲状腺機能亢進症に対する手術療法のメリット、手術療法における骨密度や精神症状への影響など、について発表が行われました。

宮章博先生は「ガイドラインを参考にすることはとても重要であるが、症例によっては積極的な手術適応を考えていいものもある。専門医の先生方には様々な視点から検討を重ねるための知識をしっかりと持つことが求められている。」と多角的な視点を充実させていくことの重要性を訴求しました。

Gregory氏

また特別講演1では「Major changes in 2015 ATA management guidelines for adult patients with thyroid nodules and differentiated thyroid cancer」と題し、ハーバード大学医学部甲状腺外科腫瘍学教授のGregory W. Randolph先生が講演を行いました。

Gregory W. Randolph先生は米国耳鼻咽喉科頭頸部外科学会(AAO-HNS)の学会長であり、米国甲状腺学会(ATA)ガイドラインの改訂にも携わられた方です。 Randolph先生の登壇は、隈病院 院長であり本講演の座長をつとめる宮内昭先生が、本学会の開催に向けじきじきに出演をオファーしたことで実現しました。

本公演では2015年に改訂されたATAガイドラインの改訂ポイントと術中神経モニタリングの最新エビデンス(2017)についての発表が行われました。

本ガイドラインでは術前の超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)の評価、術後の悪性腫瘍に対するTNM分類や再発に対する評価など、外科的手術前・手術後双方の治療指針に関する新たなレコメンデーションが新たにつくれたとRandolph先生は解説します。こうした新たなレコメンデーションによって、甲状腺がんのリスクをより低く抑え、かつ侵襲性の大きい手術方法の選択を除外していくことに繋がることが期待されます。

また Randolph先生からは甲状腺がんの外科療法で用いられる神経モニタリングに関する最新エビデンスについての解説もありました。こうした神経モニタリングの応用も、より確実で低侵襲な外科療法の実現に役立っていくでしょう。

講演後には、講演へのお礼として本総会会長の宮章博先生より Randolph先生へ表彰状が送られました。グローバルの視点からみた内分泌疾患治療の新たな指針は、本邦においてよりよい内分泌外科治療を行うための手掛かりとなります。今後もこうした内分泌疾患領域に関する国内外のディスカッションが活発に行われていくことが期待されます。

表彰のお写真

こうした演題のほかにも、内分泌疾患の臨床像、適切な診断指針、手術の工夫、薬物療法の使い分け、さらには将来導入される可能性がある治療法など、内分泌外科に関する充実した演題が設けられ、各会場で活発な発表と議論が進められました。

こうした学術知識の共有・議論が活発に進んでいくことで、大きく変化している内分泌疾患治療の最善の形が浮き彫りとなり、予後とQOLをさらに高めていくメソッドが確立されていくことが期待されています。

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