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4Kテレビやスマホを介した遠隔診療~Hospital in the Home~診察室が自宅にやってくる 

4Kテレビやスマホを介した遠隔診療~Hospital in the Home~診察室が自宅にやってくる 
松本 純夫 先生

独立行政法人国立病院機構 東京医療センター 名誉院長

松本 純夫 先生

この記事の最終更新は2017年06月14日です。

皆さんのご自宅にあるテレビは、インターネット接続機能が搭載されています。通信に関わる技術は飛躍的な進歩を遂げており、今後生産されるテレビの大半はインターネットに接続できるものになるといわれています。2025年問題に対応するため、この機能を活用し、在宅医療を利用する高齢の患者さんの「遠隔診療」と「見守り」を行おうとする動きが始まっています。4Kテレビやスマートフォンなど、身近なデバイスを活用した新たな医療とはどのようなものか、内閣官房・次世代医療ICT基盤協議会の構成員である国立病院機構東京医療センター名誉院長の松本純夫先生にお伺いしました。

2025年を目前に控え、日本の高齢者医療は入院から在宅へと移行し始めています。しかし、常に医師が近くにいるわけではない在宅医療に対し、不安や心許なさを感じる患者さんやご家族も多々おられます。

このような国民の不安を取り除くために、総務省は「放送と通信を融合させた診療」の実現に向けて動き始めています。ここでいう放送とはテレビのことを、通信とはインターネットのことを指します。

テレビを見てる高齢者

在宅医療を利用している高齢患者さんの多くは、たとえ番組を視聴していないとしても、常にテレビをつけている傾向があります。

また、現在のテレビのほとんどはインターネット接続に対応しています。リモコンを用い、視聴者参加型の番組における双方向アンケートやクイズに回答した経験があるという方も多いのではないでしょうか。

この機能を活用し、テレビと病院をリンクさせることで、患者さんは自宅にいながら主治医による診療を受けることができるようになります。

患者さん側が用意するデバイスは、4K対応テレビとその上に取り付けるWEBカメラ、小型パソコンと操作用のタブレット(またはリモコン)です。

一方、病院側には在宅医療用のサーバーや、カルテなどを映し出す書画カメラも必要です。これらの設備により、患者さん側のテレビ画面には(1)主治医、(2)パソコン画面の映像、(3)医師が書いた説明などを拡大して映し出した書画カメラの映像、(4)ご自分の映像のプレビューの4つの映像が映し出されます。

まるで自宅に病院の外来が現れたかのような印象を受けることから、私はこのシステムをHospital in the Home(ホスピタルインザホーム)と呼んでいます。オーストラリアなどで使用されている本来のHospital in the Homeの意味とは異なりますが、この呼称は日本人にとって馴染みやすくイメージもわきやすいと、既に関係各所に浸透し始めています。

テレビにWEBカメラを取り付ける目的は、遠隔診療だけではありません。患者さんの容態変化を素早く検出する「見守り」もHospital in the Homeの目的のひとつです。部屋にいる患者さんの動きを察知し、いざというときには早期に医療介入できるよう、WEBカメラは旋回式のものを選んでいただくことが理想的です。

団塊の世代が前期高齢者に到達する2025年を目前に控え、放送事業を所轄する総務省は、大手電機メーカーなどに、今後生産する4KテレビにはWEBカメラを取り付けてもらえるよう動き始めています。

Hospital in the Homeは、まず在宅医療を利用する高齢者を対象にスタートする予定ですが、その次のステップとして、生産年齢人口にある労働者を対象とした遠隔診療を考えています。

就労年齢にある15歳以上65歳の国民の多くは、スマートフォンなどのデジタルデバイスを使いこなすことができます。スマートフォンを用いた遠隔診療により、これまで働く世代が抱えていた、健康や医療に関する様々な問題を解決できるようになります。

たとえば、忙しさを理由に糖尿病などの慢性疾患を放置してしまい、透析が必要になるほど重症化させてしまう若い患者さんは多々おられます。遠隔診療のみで薬剤処方が可能になれば、このような生活習慣病の患者さんの重症化を防ぐこともできるでしょう。

激務に耐える労働者

また、産業医による対面診療に時間を割けないほど仕事の拘束時間が長く、わずかな休暇も取れないという企業にお勤めの方も、現実には多数存在します。そのなかには、病院の受診が必要なほど疲労が蓄積している方も、そうではない方もいます。スマートフォンを通して産業医によるストレスチェックを受けることができるようになれば、多忙を極める労働者のなかから、早期受診が必要な人を見つけ出すことも可能になります。

また、外来診療の待ち時間がなくなることで、働く世代の労働生産性も向上するでしょう。

このように、現代の日本にとって非常にメリットの多いオンライン診療を実現させるためには、次項に挙げる種々の課題を解決するための議論が必要です。

保険診療で行われている医療行為には、それぞれ診療報酬点数という点数がつけられています。診療報酬点数は1点10円と定められており、これにより医療費が決まります。

現行の日本の制度では、原則として患者さんと医師が直接対面して行われる対面診療に対し診療報酬点数が算定されており、保険診療が認められている遠隔診療は電話による再診料(72点=720円)など一部のみに限られています。つまり、現時点ではオンライン診療を保険診療で行うことはできないということです。

診療報酬制度は2年に1度見直されます。政府は次期診療報酬改定(2018年度)において、IoTやAI(人工知能)を用いた遠隔診療の一部も適切な報酬が認められるよう、診療報酬の引き上げを目指していますが、医療財政が逼迫する現在可能でしょうか。

ただし、オンライン診療を受ける際にかかる通信費は、保険財政では賄えない可能性があります。では、どの程度の金額だったら、一般の方は負担を感じず遠隔診療を活用できるのでしょうか。私は、音楽や映画のダウンロードにかかる価格と同程度とすることが、望ましいのではないかと考えています。このような通信費の取り扱いについても、国民目線での議論が必要です。

遠隔診療ではできない対面診療ならではの医療行為のひとつに、脈や喉などに触れる「触診」があります。もしも触診を遠隔的に行える技術が生まれれば、在宅医療を利用する高齢者はもちろん、へき地に住まう方などにとっては大きな利となります。

家庭で使える血圧や脈拍の測定器具は既に普及していますが、Hospital in the Homeの完成のためには、広範囲の皮膚の硬さや厚さを測定できる器具などの開発が待たれます。腫瘍などを早期発見するためのインターフェイスの開発についても、既に複数の大手企業が積極的な姿勢を示しています。

タブレットに打ち込む人

進歩する日本のICT技術は、医療機関を受診する前の健康管理にも活用できます。現在、NECの問診システムが、有名なIBMのAI(Watson)にも匹敵する精度を有するとして注目を集めています。

タブレットやスマートフォン上に映し出される表示に従い、基礎情報や症状を入力していくと、疑われる疾患名だけでなく医療施設にすぐ行くべきか、あるいは少し様子をみてから治らなければ医療施設に受診を勧める推奨度まで提示されるよう検討が進んでいます。ご自宅でのトリアージに役立てられるというわけです。ただし、コンピュータに診断行為を任せることの是非を問う声もあります。問診システムの実用化のためには、まずこの点に関し、国民間で議論がなされる必要があるでしょう。

日本の医療を取り巻く問題のひとつに、不要不急の受診による医療費の増大があります。病院にいくべきか迷ったとき、上記の問診システムを用いて市販薬や生活習慣の是正で十分に対応できる症状なのかどうかを確認することは、体調不良により不安を抱える国民の安心感や適切な病院の受診に直結し、ひいては医療費の抑制につながるものと仮説を立てています。

今後はこのような問診システムにオンライン地図情報サービスを連動し、医療機関の受診が必要な場合はクリニックと基幹病院のどちらに行くべきか、その施設はどこにあるのかといった情報も取得できるようになることが理想です。

内閣官房・次世代医療ICT基盤協議会のメンバーを共に務める小児科医の矢作尚久先生は、この問診システムを日本の医療支援の柱として、医師が不足する地域の学校などに導入してはどうかと述べています。

実際に、外国語版(クメール語版)の本システムは、既にカンボジアで使用されています。多言語対応を進めていけば、今後は東南アジアに限らず、世界中のあらゆる地域で日本の医療技術とICT技術を役立てられるものと期待しています。

 

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