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鼠径ヘルニア(脱腸)の手術――種類や入院期間、再発の可能性はある?

鼠径ヘルニア(脱腸)の手術――種類や入院期間、再発の可能性はある?
三原 史規 先生

国立国際医療研究センター病院  肝胆膵外科

三原 史規 先生

目次
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鼠径ヘルニアは、自然治癒する可能性は期待できず、治すためには手術が必要となります。手術の種類には、鼠径部を直接切開する方法や腹腔鏡を使用する方法などがあり、患者さんの体の状態に合った方法で行われます。

記事1『鼠径ヘルニアとは?――脚の付け根に違和感や痛みを生じる病気』では、鼠径ヘルニアの概要と原因を中心にご説明しました。今回も引き続き、国立国際医療研究センター病院外科医師三原(みはら) 史規(ふみのり)先生に、後天性の鼠径ヘルニアの手術方法や、術後再発する可能性についてのお話を伺いました。

鼠径ヘルニアの手術の基本的な概念は、100年以上前から変化していません。まず、筋肉や靱帯(じんたい)の隙間であるヘルニア門から飛び出してしまったヘルニア嚢(腹膜が伸びてできた袋状の膜)を、周囲の組織からヘルニア門の裏側まで十分に剥離(はくり)します。そして、剥離したヘルニア嚢を切除、または還納(元の場所へ戻す)し、ヘルニア門を閉鎖ないし縫縮します。

鼠径ヘルニア

鼠径ヘルニアの状態

以前は、ヘルニア門を縫い閉じていましたが、縫合により筋肉の組織に緊張がかかり、再発をしてしまうというケースが少なくありませんでした。そこで、現在広く行われている、メッシュ*という人工の膜をヘルニア門にあてがうメッシュ法が登場しました。その結果、鼠径ヘルニアの手術での再発率や合併症発症率は減少しました。

*メッシュはポリプロピレンというプラスチック容器などと同様の素材で作られています。

当院では、鼠径ヘルニアの手術としてメッシュ法を用いており、鼠径部切開法と腹腔鏡下修復術の2種類の手術を行っています。

鼠径部切開法には、鼠径部を3~4cmほど切開し、ヘルニア門の裏側を剥離してメッシュを裏打ちする腹膜前修復法、または、ヘルニア門の表側(皮下組織側)からメッシュを(前から蓋をするように)あてがう前方切開法などがあります。

腹膜前修復法と前方切開法とでは再発率などで成績上の差は証明されていません。しかし、理論上は、ヘルニア門の表側からメッシュをあてがう前方切開法よりも、しっかりとした筋膜の内側であるヘルニア門の裏側からメッシュで蓋をする腹膜前修復術のほうが、強度が高く、外鼠径ヘルニア内鼠径ヘルニア大腿ヘルニアの3種類全ての鼠径ヘルニアに同時に対応することが可能である点などでメリットがあります。技術的には、腹膜前修復法がより高度と考えられますが、当院の鼠径部切開法は腹膜前修復法を第一選択としています。

腹膜前修復法

腹膜前修復法

前方切開法

前方切開法

ただし、前立腺全摘出術(前立腺を全て摘出する手術)を行ったことのある患者さんや、一度腹膜前修復法を行った患者さんなどは、癒着のためヘルニア門の裏側にメッシュを入れる空間を作ることができない場合があり、そういった場合は、前方切開法などのメッシュを表側からあてがう手術を行います。

当院では、これまで3,000例を超える鼠径部切開法を行っています。

腹腔鏡下修復術は、おへそと左右の下腹部に5~10mm程度の、合計3か所の穴を開け、腹腔内に腹腔鏡(腹腔内を調べる内視鏡の一種)を挿入します。そして、ヘルニア門の裏側から過不足のない大きさのメッシュをあてがい、隙間を閉鎖します。術後の傷も小さいため、社会復帰がしやすいというメリットもあります。

ヘルニア腹腔鏡修復術

鼠径ヘルニアの腹腔鏡下修復術

しかし、腹腔鏡下修復術の場合は全身麻酔が必要となります。そのため、呼吸機能などに問題がある患者さんなどは、全身麻酔をかけることが難しく、腹腔鏡下修復術が行えない場合もあります。また、下腹部の手術を行ったことのある方の場合、腸の癒着のため十分に操作ができないことがあり、安全性を考慮して腹腔鏡下手術を回避することもあります。いずれにせよ高度な技術が必要となります。

 

病院のベッドに横たわっている人

当院での手術時間は、鼠径部切開法は30~40分程度、腹腔鏡下修復術は1時間半程度で終了します。入院期間は、鼠径部切開法、腹腔鏡下修復術どちらの手術でも2泊3日となります。嵌頓(かんとん)状態など、急いで手術をする必要がある方以外は、ご都合に合わせた日程調整が可能です。

退院した直後から、基本的には普段どおりの生活を送っていただくことが可能です。入浴もできます。しかし数日の間は、過激な運動や重い物を持つ行為は控えたほうがよいでしょう。また、腹腔鏡下修復術に比べ、鼠径部切開法の場合は1週間程度切開をした傷跡の痛みを強く感じることがありますが、1週間を過ぎると強い痛みは消失し、1か月でほとんどの方は若干の違和感程度、長くても3~6か月でその違和感もなくなります。

鼠径ヘルニアの術後再発のリスク要因は、患者さんだけに要因があると証明されているものはありません。鼠径ヘルニアを再発しやすい体質なども証明されているものはないといえます。つまり、しっかりと丁寧で確実な手術を行うことができれば、再発するリスクは非常に低いと考えられます。

ヘルニアの治療法は現時点では手術しかありません。そのため、今後の展望としては鼠径部切開法、腹腔鏡下修復術ともに、手術の質を上げていくことが重要です。また、より体の負担にならないメッシュの素材の開発も期待されています。

三原先生

鼠径ヘルニアの手術は、がんなどの悪性疾患の手術に比べ、ほとんどの方が1回の手術で治療が完結します。そのため、無事に手術が終わり合併症なども起こさないまま時間が経過すると、患者さんの中には、鼠径ヘルニアを患い困っていたことや、手術を受けたことさえも忘れてしまっている方もいらっしゃいます。しかし、それこそが真に健康な医療の提供だと思います。

私は、診察から手術まで丁寧で確実であることをもっとも大切にしています。当院では、再発率0%、合併症0%を目指して今後も丁寧で質の高い鼠径ヘルニアの手術を行っていきます。
 

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