インタビュー

機能性ディスペプシアの治療—胃の痛みや胃もたれを和らげる薬物療法や食事療法とは?

機能性ディスペプシアの治療—胃の痛みや胃もたれを和らげる薬物療法や食事療法とは?
中田 浩二 先生

川村病院 外科 、東京慈恵会医科大学 客員教授

中田 浩二 先生

機能性ディスペプシア胃潰瘍胃がんといった明らかな原因がないにもかかわらず、慢性的に胃の不調が続く病気です。機能性ディスペプシアの症状は胃の運動機能障害、知覚過敏、うつや不安などの気分の不調、食生活、日常的な悩みやストレスなど患者さんによって様々で、こうした症状が続くことで患者さんのQOL(生活の質)を大きく低下させてしまいます。症状を改善させるためには、原因に合わせた治療や生活習慣の改善が大切です。今回は機能性ディスペプシアの治療法や対処法について、記事1『機能性ディスペプシアとは? 約10人に1人がかかる胃痛や胃もたれの原因となる病気』に引き続き、川村病院 外科/東京慈恵会医科大学 客員教授である中田浩二先生にお話を伺いました。

記事1『機能性ディスペプシアとは? 約10人に1人がかかる胃痛や胃もたれの原因となる病気』でも述べましたが、機能性ディスペプシアの症状が起こる原因は「胃の運動機能障害、知覚過敏」と「心理社会的要因」の2つに大きくわかれます。

ですから、治療の方法は機能性ディスペプシアがどのような原因で発症しているのかによって異なります。

まず、症状に合わせた薬剤の処方と食事生活指導を行います。心理社会的要因の関与が大きい場合には心療内科医や精神科医と協働して診療を行うこともあります。

このように、機能性ディスペプシアの治療は多面的に行われます。

薬

機能性ディスペプシアと診断したら、まず第一に患者さんの胃の症状を取り除いてあげることが重要だと考えています。そこで、患者さんの症状に合わせて以下のような薬剤を処方します。

酸分泌抑制薬:胃酸の分泌を抑え、胃酸による胃の痛みや胸焼けの症状を抑えます。

消化管運動改善薬:胃の動きを促す働きがあり、胃もたれや早期飽満感(食事開始後すぐに胃がいっぱいになってそれ以上食べられなくなること)の症状を抑えます。

上記のような薬で改善せず、悩みやストレスなどの心理的な負担や、不安やうつなどの気分の不調の要因が強いと考えられる場合には、抗不安薬や抗うつ薬を処方することもあります。

機能性ディスペプシアの症状が重く、患者さんのQOL(生活の質)を大きく低下させてしまっている場合には、一つの薬を処方するのではなく、最初から複数の薬を併用してまずは十分に症状をコントロールした後に、徐々に薬を減らしていく処方をしています。

一般的には効果が見込めそうな薬を一定期間投薬して効果が不十分な場合に治療薬を上乗せしてゆく「ステップアップ」治療が主流ですが、この方法だと最初の薬が効かない場合に患者さんはその期間中つらい症状のためにQOLの低下が続くことになってしまいます。

そこで私は、とくに症状が重い患者さんに対しては、異なる機序を持つ複数の薬を併用して処方し、症状が十分にコントロールされてから徐々に薬を減らしていく「ステップダウン」治療を行うようにしています。

機能性ディスペプシアなどの機能性消化管障害では、治療が有効でないと同じ病院にはかからずに他の医療機関を受診するいわゆる「ドクターショッピング」を行う患者さんが多いと言われており、初期治療が有効でないと治療の効率を悪くしてしまう懸念があります。

これを防ぐうえでも「ステップダウン」治療は有効であると考えます。

胃の調子は悪いが、病院を受診するほどではないときの対処法として、ご自身が飲み慣れている市販の胃腸薬を服用することは問題ないと考えます。

市販薬をしばらく飲んでも胃の症状が持続する場合には、医師の診察や内視鏡などの検査を受けるようにしましょう。

機能性ディスペプシアの症状の出現は、食生活とも密接な関係があります。ですから、何をどのように食べるかを意識するだけでも、症状が軽くなることも少なくありません。

揚げ物

胃の症状があるときには脂肪分の多い食事は避けましょう。たとえば、揚げ物、炒め物、生クリーム、クッキー、ナッツ類などです。

脂質には胃の動きを止めてしまう作用があります。脂質はすべての栄養素のなかで最もカロリーが高く、糖質やタンパク質は1gあたり4kcalですが、脂質は1gあたり9kcalあります。胃には、摂取カロリーに応じて胃からの排出速度を調整する働きがあり、低カロリーの食事は早く、高カロリーの食事はゆっくりと排出されます。ですから、脂質を多く摂ることで胃の動きが止まり胃の症状が出やすくなります。また、脂質には胃と食道のつなぎ目の筋肉(下部食道括約筋)を緩める作用もあり、逆流が起きやすくなる原因にもなります。

そのほか、胃酸の分泌を刺激するコーヒーやアルコール、香辛料、炭酸飲料、冷たいものの摂取も控えるようにしましょう。

食事をするときには、よく噛むことを意識しましょう。

食事を摂る際に胃の働きを促進するメカニズムには、脳相(のうそう)・胃相(いそう)・腸相(ちょうそう)の3つがあります。脳相では、食べ物をみる、匂いを嗅ぐ、味わうことやよく咀嚼(そしゃく)することで迷走神経が刺激されて胃の運動や分泌を促すため、胃が食べ物を受け容れたり、排出したりする働きが活発になります。

また、食べ物はゆっくり胃の中に入れることも大事です。

食べ物を摂取すると、胃がそれに合わせて徐々に膨らむ適応性弛緩(てきおうせいしかん)が起こります。

適応性弛緩は食事開始から約15〜20分で強まるといわれており、早食いをして膨らんでいない状態の胃に一気に食べ物を入れると、胃に大きな負担となりますが、ゆっくり食べることで胃も合わせて膨らむので、胃が食べ物を負担なく受け容れられます。

食べる量や回数は、自分のお腹に合うように調節しましょう。

必ずしも1日3食にこだわらずに、一度に十分な量を食べることができない場合には少なめの量を、回数を増やして摂るなど工夫するようにしましょう。

中田浩二先生

機能性ディスペプシアの症状を改善するために大切なことは、胃の症状をあまり気にしすぎないことです。

患者さんの多くは、「ひょっとしたら自分は深刻な病気なのかもしれない」「この症状がずっととれないのではないか」という不安を持つことで、神経が過敏になりさらに胃の不調が強まる傾向があります。このような思い込みは胃の症状をますます悪化させる原因になります。

この悪循環に陥らないようにするためにも、症状がつらい場合には病院を受診するようにして、不安を膨らませないことが大事です。実際に、内視鏡検査で「異常なし」と診断され安心するだけで症状が改善する患者さんも3〜4人に1人の割合でみられます。

食べるときに胃の症状が出ることを心配したり悩み事を考えたりすることも、症状を悪化させる原因になります。

先にも述べたように、食べる内容や食べ方も大切ですが、不安を抱かずに楽しく食事をすることは最も重要です。食事をするときには胃のことは忘れて、人と話をしたり好きな音楽を聴いたりするなどして、気持ちを他のことに向けて楽しく食べることをおすすめします。

胃の痛み・胃もたれなどの症状に対処できるような考え方や習慣を身につけることで、日常生活を快適に送りましょう。

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