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インタビュー

子どもの悪性リンパ腫の診断と治療方法-症状が多彩な血液のがんはどのように治療する?

子どもの悪性リンパ腫の診断と治療方法-症状が多彩な血液のがんはどのように治療する?
三井 哲夫 先生

山形大学 医学部小児科学講座 教授

三井 哲夫 先生

この記事の最終更新は2017年07月10日です。

小児リンパ腫は、小児がんのなかでも頻度の高い、注意すべき疾患の一つです。山形大学医学部附属病院の三井 哲夫先生によると、小児リンパ腫の治療は近年、大きく進歩しているそうです。では、小児リンパ腫の診断や治療はどのように行なわれるのでしょうか。解決すべき課題も残されているとおっしゃる同病院の三井 哲夫先生に、小児の悪性リンパ腫の診断と治療、治療法確立に向けた取り組みなどをお話しいただきました。

小児リンパ腫の治療方針を決定する­ためには、病型を適切に診断するとともに疾患の進行度(病期)を確定するため、様々な検査が行われます。さらに、診断においては、発症時の合併症の程度や治療に耐えられるかどうかを確認することも重要になるでしょう。

検査

リンパ腫の診断と病型分類を決定するためにリンパ節生検や腫瘍(しゅよう)生検を行います。これは、腫れたリンパ節あるいは腫瘍の一部を切り取り、顕微鏡で観察する検査を指します。加えて、切り取られた組織の一部は、染色体検査や遺伝子検査をすることで組織を決定したり、その悪性度を評価します。

記事1『子どもの悪性リンパ腫とは? リンパの腫れなどの症状がみられる小児がんのひとつ』でお話ししたようにリンパ腫の組織型は多岐にわたる上にその頻度が限られているため、施設での診断を受けるとともに、日本小児がん治療研究グループのような臨床研究グループにおける中央診断で施設診断を確認することも確定診断のために有効でしょう。

小児リンパ腫の進行は早く、合併症も重症化する可能性が高いので、この組織生検は悪性リンパ腫が疑わしい時点で早期に実施することが重要になります。たとえば、私が所属する山形大学医学部附属病院では、休日に関係なく早期に準備して検査を行なうようにしています。

悪性リンパ腫は、進行するに従い腫瘤(しゅりゅう:かたまりのこと)が増大するとともに、全身に広がっていきます。さらに、胸部や腹部に液体が異常に溜まる胸水や腹水を伴うケースもあり、どの程度疾患が進行し全身に広がっているか確認することが重要になります。また、治療が可能な全身状態かを正確に診断するためにさまざまな検査を行います。

以下は主な検査の種類になります。患者さんの状態に合わせ、これらの検査を組み合わせ、疾患の進行や全身状態を判断していきます。

血液検査・尿検査

血液検査や尿検査が行われます。血液検査では、主に肝臓や腎臓の機能、造血機能の状態、これからの治療に耐えられるかなどを判断します。

X線検査

一般的なレントゲン(X線)写真により胸部、腹部、四肢の骨等をみていきます。

超音波(エコー)検査

体内における超音波の反響で、腫瘤の位置や大きさ、分布などを調べます。心臓や腎臓・尿路系の状態を把握するためにも用いられます。

CT検査、MRI検査

CTはX線を、MRIは磁気を使い、体の内部を描き出し病変の大きさや広がりを確認します。

PET検査

放射性物質を含んだブドウ糖液の薬剤を注射し、全身への薬剤の取り込みの分布を撮影します。小児のホジキンリンパ腫では病期や治療効果の判定に用いられます。小児は正常の細胞でも代謝が早いため、疾患に罹患していない場合であっても薬剤の取り込みが起こることがあります。そのため、非ホジキンリンパ腫では陽性が必ずしも悪性腫瘍を示すわけではなく、まだ有用性が明確になっていません。

骨髄検査

リンパ腫が骨髄(こつずい)のなかにまで浸潤(しんじゅん:広がること)していると疑われる場合に行います。腰や胸の骨に針を刺し骨髄液を吸引する骨髄穿刺(こつずいせんし)、少量の組織を採取する骨髄生検で、骨髄中の細胞や組織の検査を行います。

脳脊髄液検査

脳や脊髄(せきずい)へ浸潤が疑われる場合、腰椎(ようつい)の間に細い針を刺して脳脊髄液を採取する検査です。

2003年に組織された日本小児白血病リンパ腫研究グループ(Japanese Pediatric Leukemia/Lymphoma Study Group:JPLSG)は、小児血液がん領域における標準治療を確立するため様々な臨床試験に取り組んでいます。その結果、近年では以下のように日本人小児における悪性リンパ腫の標準治療、すなわち現時点における最善の治療法が確立してきました。

薬

バーキットリンパ腫とびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫といった成熟B細胞性リンパ腫ではビンクリスチン、プレドニゾロン、ドキソルビシン、大量メトトレキセートといった薬剤を併用し、短期の集中ブロック型の治療を行います。患者さんの進行度に合わせて、量や組み合わせ、投与回数を変え、それぞれの進行度に最適と考えられる形で治療を行います。こうした治療により、4年目の無再発生存率は、進行度の低い例では95%前後、進行度の高いものでも80%前後という結果になっています。

リンパ芽球性リンパ腫の治療は、急性リンパ球性白血病と同様の方法でビンクリスチン、プレドニゾロン、L-アスパラギナーゼの3つの薬剤にアルキル化剤、アントラサイクリンを加えた寛解導入に続き、強化治療、中枢神経予防治療を行なった後、維持治療と進み2年程度の治療を行う方法です。これにより、5年の無病生存率は、77.9%と良好なものになっています。

未分化大細胞型リンパ腫は、全身型のものに対し、アルキル化剤、メトトレキセート、プレドニゾロン・デキサメサゾンにシタラビン、エトポシドなどの薬剤を組み合わせ、3〜7コースの短期の多剤併用治療を行なう方法が、ほぼ標準治療として確立しました。これにより、欧米を含め無再発の5年生存率は70%前後という成績になっています。

ホジキンリンパ腫は、ビンクリスチン、プレドニゾロン、アントラサイクリンなどの多剤併用化学療法を進行度に応じて2〜6コース程度行い、最初に腫瘍が存在していた部位に放射線治療を施す方法が標準的治療になっています。これにより、5年の無病生存率は90%を越えるまで向上しました。近年では、化学療法の効果が高いケースにおいては、放射線治療をなくす試みもなされています。

小児リンパ腫の治療成績はこの20年で飛躍的に改善しましたが、初期治療で抵抗性の患者さん、あるいは再発の患者さんの予後は、必ずしも良好ではありません。全体の20%ほどの例は、再発し状態が悪化したり、標準治療をしても効果が得られないケースということになります。このような症例を早期に抽出し、いかに効果的な治療を実施していくかは、重要な課題になっています。

病室で横になる小児患者さん

現状では、再発難治の患者さんの場合には、初発時とは異なる抗がん剤の組み合わせで化学療法を行ったり、造血幹細胞移植(強い治療の後に正常な造血機能を構築できる造血幹細胞を移植する治療)を行うこともあります。

私は、こうした救済的な化学療法における最適な薬の量や組み合わせ、造血幹細胞移植治療の効果などを明らかにするため、注力しています。その取り組みの一つが、臨床試験です。お話しした日本小児がん治療研究グループでは、より効果的な治療を確立するため、現在でも様々な臨床試験に取り組んでいます。私も同グループにおいて、再発難治リンパ芽球性リンパ腫の効果的な治療を明らかにするための臨床試験の研究代表を務めています。

より効果的な治療を確立し重篤な患者さんを防ぐため、今後も努力していきたいと考えています。

小児リンパ腫は、治療が終了したとしても再発の有無や他の腫瘍性疾患を含め様々な障害がでてこないかなど、経過を診ていくことも重要です。治療終了後年月が経っている場合であっても、定期的に診療を受けるなど、自分の体調について相談できる医師の存在が重要です。

三井先生

現状では、再発を完全に防ぐ方法は見つかっていませんが、治療や治療後のフォローは日々進歩しており、疾患を抱えながらも元気に過ごしている方もたくさんいらっしゃいます。

小児リンパ腫では、治療のために入院や外来に通うことで通学が困難になり、同年代の人と比べ遅れてしまうと心配する方もいるかもしれません。

しかし、同じ病院に入院や通院をしている仲間とともに、前向きに過ごして欲しいと思っています。難しい病気を乗り越えてきたということを誇りにして、何かあっても一つひとつ乗り越えていくことが、結果として合併症や再発を防ぐことや人としての成長にもつながっていくでしょう。

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