インタビュー

オートファジー(自食作用)とは?オートファジーが体内でもたらすこと

オートファジー(自食作用)とは?オートファジーが体内でもたらすこと
猪阪 善隆 先生

大阪大学 大学院医学系研究科 腎臓内科学 教授

猪阪 善隆 先生

この記事の最終更新は2017年07月19日です。

2016年、大隅良典教授がノーベル生理学・医学賞を受賞したことでオートファジーが注目されました。みなさんはこのオートファジーが体内でどのような役割を担っているのかご存じでしょうか。オートファジーは、細胞内を正常な状態に保つために、細胞内で不要となった物質を分解する、いわばリサイクル業者のようなはたらきをしています。分解された老廃物はリサイクルされ、生きるためのエネルギーとなります。このように生命維持に欠かせないオートファジーは一体どのような仕組みで機能しているのでしょうか。オートファジーの基本的な仕組みや役割について大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科学教授の猪阪善隆先生にお話を伺いました。

細胞

オートファジーとは細胞内にある不要な物質を分解する仕組みのことです。自分で自分の細胞を包み込み分解することから「Auto:自ら」「Phagy:食べる」=自食作用ともいわれています。

オートファジーは人間などの哺乳類だけでなく、すべての真核生物(核を持つ細胞からなる生物)にみられる仕組みです。

次項では具体的にオートファジーが体内でどのように働いているのかを詳しく説明します。

オートファジーの役割のひとつは、細胞内部の状態を一定に保つこと(恒常性維持)です。

細胞内には、生命を維持するためのタンパク質やミトコンドリアなどの物質が多く存在しています。それらが古くなったり傷ついたりして細胞内に蓄積されると、細胞は障害を受け全身にさまざまな悪影響を及ぼします。

このような、不要になった物質の蓄積を防ぐために、細胞内部を浄化する働きがオートファジーによって行われます。

細胞内部に不要となった物質がみつかると、それらを包み込むための膜(隔離膜)が出現します。この隔離膜は不要な細胞質を包み込むように大きく進展し、「オートファゴソーム」という二重構造の球体のようなものになります。

その後、オートファゴソームは細胞内部にある「リソソーム」という球体と融合します。

リソソームには分解酵素が含まれており、オートファゴソームと融合することで内部の老廃物を分解します。これがオートファジーです。つまり、オートファジーは細胞内のリサイクル業者のような役割をしているのです。

またリソソーム自身が障害を受けたときにもオートファジーがはたらきます。

リソソームの分解酵素でも溶かすことができない物質として尿酸塩結晶(痛風の原因となる物質)が挙げられます。尿酸塩結晶は針状に尖った形をしているため、尿酸塩結晶に触れたリソソームは傷つき、破綻します。すると、リソソームが破れた部分から酸性の分解酵素が細胞内へ多量に流出し、細胞内の正常な物質もダメージを受けてしまいます。

そこで、リソソームの破綻を感知すると、隔離膜が現れオートファゴソームが形成されます。オートファゴソームが傷ついたリソソームを包み込み、細胞内にそれ以上の分解酵素が広がらないようにするためです。

このように、オートファジーは細胞内部の物質をあらゆるダメージや障害から守るはたらきもしています。

オートファジーは私たちが生きていくために必要な栄養素を生み出すはたらきもします。なかでも代表的な栄養素はタンパク質です。

私たちは毎日60g~80gのタンパク質を食事から摂取し、消化管でアミノ酸に分解して吸収し、これらをもとに体のタンパクを作っています。しかし、実際に体で作られているタンパクは、160g~200gとされています。食事だけでは合成するタンパクを補うことができません。実は、足りない部分はオートファジーが細胞内のタンパクを分解することにより補われています。オートファジーは、細胞内の不要なタンパク質を分解するだけでなく、それをアミノ酸にリサイクルするはたらきもしています。このアミノ酸が再合成することで、体内で新しいタンパク質が作られています。

オートファジーには細胞内のゴミを除去する役割だけではなく、それをリサイクルして栄養源を生み出す、生命維持の役割も担っているのです。

オートファジーはあらゆる細胞で不要な物質を除去したり、有害な物質から細胞を守ったりすることで、体の恒常性を保つはたらきをしています。

しかしどの臓器でも同じようにオートファジーが働くわけではなく、オートファジーの活性の度合いや重要性は臓器によって違います。

大阪大学の実験では、血管内皮細胞(全身のあらゆる血管の内面をおおう細胞)のオートファジーのはたらきを不全にさせたマウスを作成したところ、腎臓の糸球体(毛細血管が糸の玉のように集まったもの)の血管内皮細胞において最も大きな障害が起こることがわかりました。しかし、同じようにオートファジーのはたらきが低下しているはずの心血管の血管内皮細胞には特に障害は起きませんでした。

このことから、同じ血管であってもオートファジーの低下によってダメージを受けやすい場所とそうでない場所があることがわかります。

では、なぜ腎臓はオートファジーのはたらきに反応しやすいのでしょう。

記事2『オートファジーの応用とは?腎臓におけるオートファジーのはたらきと治療への応用』では腎臓におけるオートファジーのはたらきと今後の展望について解説します。