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小腸移植の成功率と具体的な手術方法、入院期間-移植後の拒絶反応を早期発見するために

小腸移植の成功率と具体的な手術方法、入院期間-移植後の拒絶反応を早期発見するために
和田 基 先生

東北大学 大学院医学系研究科 発生・発達医学講座小児外科学分野 准教授 、東北大学病院 小児...

和田 基 先生

この記事の最終更新は2017年07月24日です。

腸の機能や長さに問題があり、十分に栄養吸収を行えない患者さんの代表的な治療選択肢は静脈栄養法です。しかし、10年や20年といった長期間、入退院を繰り返しながら静脈栄養法を受け続けることは、患者さんのQOL(生活の質)に大きな影響を及ぼします。

患者さんの救命と社会復帰を願い、小腸移植の治療成績向上と保険適用に向けて尽力されている東北大学病院小児外科准教授の和田基(わだ もとし)先生に、小腸移植の具体的な方法やリスク、成功率についてお伺いしました。

小腸移植では、手術を2回もしくは3回にわけて行なう必要があります。というのも、小腸移植では、ドナーからレシピエントへと腸管を移植する手術のほかに、ストーマ(人工肛門)を造設する手術を行う必要があるからです。

腸管の移植とストーマ造設を一度の手術で行い、経過をみて人工肛門を閉じる場合は2回、移植腸管ともともとの自分の腸管との吻合、ストーマ造設を2回にわけて行なう場合はトータルで3回の手術が必要になります。

施設により差はありますが、ストーマを閉じるまでの期間は日本では1年ほど、海外では半年ほどです。なかにはストーマ造設を行わないという施設も最近はあるようですが、東北大学病院では次項で述べる術後管理のために、すべての患者さんに対しストーマ造設を実施しています。

ストーマをやや長い期間造設している理由は、移植後に起こりやすい拒絶反応を早期に発見するためです。外部から侵入した細菌や便などが通る小腸や大腸は、高度に発達した免疫組織です。そのため、移植直後のみならず、長い歳月が経過してから激しい拒絶反応を起こすこともあります。このような拒絶反応から患者さんを守るためには、定期的な内視鏡検査による異常所見の早期発見が肝要です。

ストーマを設けることで、内視鏡を用いた腸管の状態が観察しやすくなり、定期検査による正確な状態把握が可能になります。ストーマの造設により拒絶反応を抑えることはできませんが、拒絶反応の疑いを早い段階で発見し、早期に生検と治療を行なうことができるというわけです。

なお、小腸移植後の排泄能力は、残した患者さんご本人の大腸に運動機能障害があるかないかで大きく変わります。肛門を通した排泄が十分にできており、ごく小さなストーマを補助的に造設している患者さんもおられます。

移植直後は、飲食物の経口摂取や栄養吸収が十分にできないこともあるため、小腸に直接栄養を送り込むための胃ろうや腸ろうを増設します。特に、腸管運動機能障害の患者さんの場合は、胃ろうや腸ろうを作ったほうが、QOLが高くなる傾向があります。

短腸症候群の場合は、胃ろう・腸ろうを必要としないこともあります。)

胃ろうや腸ろうも、ストーマと同じように、患者さん一人ひとりの栄養状態をみて閉鎖します。

小腸移植とは、完成形にたどり着くまでにいくつかのステップを踏む必要がある治療であり、私たち移植医は、患者さんの状態に応じ長期的な視点で戦略を練り、治療に臨んでいます。

小腸移植のドナーは、生体ドナーに比べ脳死ドナーのほうが多くなっています。東北大学病院では、脳死小腸移植を第一選択とし、オプションとして次項で述べる生体小腸移植を行っています。

日本は世界的にみて脳死ドナーの総数が少ないことで知られていますが、小腸移植の場合は患者さんの数も少ないため、登録することで実際に提供を受けられる機会が巡ってくる確率が高いという利点があります。

ただし、脳死小腸移植もトータルの件数が少ないため、マッチングしない場合が多いという問題点もあります。

腸管は非常に面積が大きく、強い拒絶反応を起こすリスクもあるため、ドナー選択は腸管のクオリティや血液型、体型などをみて慎重に行います。小児のレシピエントに成人ドナーの腸管を移植することも、その逆も難しいことが多いです。

もしも、小腸移植が保険収載されており、日本の数多くの施設で移植が実施されていれば、脳死ドナーが生じたとき、いずれかの患者さんにご提供いただいた腸管を移植する機会は増えるでしょう。しかし、現時点では実施施設や小腸移植という選択肢を知っている患者さん自体が少なく、脳死ドナーの方の提供意思に応えられないというケースも起こっています。

レシピエントとドナーのマッチングを能率よく行い、脳死判定を受けた方と患者さん双方の想いに応えていくためにも、小腸移植の治療成績向上と保険適用に向け力を注ぎ続けたいと考えています。

緊急性が高い場合や著しくQOLが低下している場合、また、遠方にお住まいの患者さんで脳死ドナーの発生時にあわせて治療を始めることが困難なときには、生体ドナーから腸管の提供を受けることがあります。

ドナーの方には10日ほど入院していただき、小腸の一部を切除する手術を行います。

切除は小腸全体の40%を上限とし、必ず大腸側の小腸末端をドナーの方に残します。(脳死小腸移植の場合は、大腸の一部、小腸の末端も移植に使用します。)

成人の場合、小腸は5~6mほどですので、1.5m~2mを移植のために切除します。1.5m~2mとは、レシピエントの方が静脈栄養法から離脱できる下限の長さともいえます。ただし、脳死小腸移植に比べると移植できる腸管は短くなるため、夏場などには脱水を起こさないよう注意が必要になります。

ドナー手術のリスクとしては縫合不全などが挙げられますが、これまで東北大学病院で行った3例の生体小腸移植では、ドナーの方に合併症は起こっておらず、みなさん元気に過ごされています。ただし、日本でも腸閉塞(イレウス)の報告が1例あります。

レシピエント側の最大のリスクは、術後の拒絶反応です。通常の臓器移植では、急性拒絶反応は移植直後や術後1~2年のうちに起こりますが、小腸移植の場合は移植後5年や10年といった年数が経過してから急性拒絶反応が起こることもあります。

また、移植後に腹痛などの合併症が生じ、経口摂取が可能になるまでの期間が長引く方もおられます。そのため、小腸移植では移植手術そのものだけでなく、術後管理と長期のフォローが重要になります。

術後の経過が順調な患者さんのなかには2か月で退院された方もいますが、通常は数か月~1年間の入院期間を要します。また、2~3か月で退院された患者さんでも、遠方にお住まいの場合は少なくとも半年間、東北大学病院の位置する仙台市周辺に住んでいただいています。この理由は、ストーマを通した内視鏡検査など、小腸移植後の術後管理と定期検査を行える施設が多くはないからです。

当院では、これまでに9名の患者さんに対し11件の小腸移植を行っています。9名中3名は短腸症候群、6名は腸管運動機能障害の患者さんです。

このうち5名は現在点滴やストーマなどの必要もなくなり、健康に過ごされています。しかし、3名の患者さんは、移植後長期の経過のなかで亡くなられています。なかには、移植後10年経過したのちに、命を落とされてしまった方もおられました。また、グラフトをとり、2回目の移植を行っている患者さんもいます。

ただし、この数年で小腸移植の技術はさらに向上したため、今後の成績はよりよいものになっていくと考えています。

短腸症候群や腸管運動機能障害のほとんどは小児期に発症する病気であり、世界的にみると小腸移植を受けた患者さんの約6割は小児となっています。

東北大学病院で移植を受けた患者さんの多くは、乳児期や小児期など、小さな頃から10年以上にわたって当院を受診されていた患者さんであり、自己の小腸で過ごすことがいよいよ困難となったタイミングで移植に移行されました。

患者さんのなかには10歳代で移植を受け、無事に進学され元気に過ごしている方もいれば、20年近く静脈栄養法を受けた後に2回の移植を受けたものの生着には至らなかった患者さんもおられます。

10年~20年にわたり静脈栄養法を離脱できず、成長期や成人期に入退院を繰り返すことは、QOLにも大きな影響を及ぼします。

10〜20歳代などの早い段階で移植を実施し、病院に拘束される生活から離れて社会復帰することができれば、その後の患者さんの生活は彩り豊かなものとなるでしょう。たとえば、赤ちゃんの頃から当院に通われ、比較的早い段階で移植を受けた患者さんの一人は、最近になりご結婚の報告をくださいました。

こういった患者さんを増やしていくためにも、治療成績の向上と治療の保険収載のために尽力せねばならないと考えています。

小腸移植の課題点は、大きく2つあると考えています。ひとつは日本国内でほとんど知られていないこと、もうひとつは、成功した場合にはQOLが大きく改善するものの、3分の1の割合で生命に危険が及んでしまうケースがあるということです。

そのため、たとえ小腸移植が保険適用となっても、この治療はあくまで「選択肢のひとつ」として患者さんに提示されることが望ましいと感じています。

この10年間で小腸移植の技術も進歩しましたが、同様に静脈栄養法の管理もめざましく改善し、カテーテルを用いることによる感染症の頻度も減少しています。移植のリスクを考慮し、引き続き安定した静脈栄養法を続けることも、ひとつの選択肢といえます。

患者さんがご自身の人生観などに応じて、複数の選択肢から治療を選んでいける体制を構築していきたいと考えています。

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  • 東北大学 大学院医学系研究科 発生・発達医学講座小児外科学分野 准教授 、東北大学病院 小児外科 副科長

    和田 基 先生

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