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がん教育はなぜ重要か?がんを正しく理解してもらうための林和彦先生の試み
東京女子医科大学がんセンター長の林和彦先生は正しいがんの基礎知識を一般の方に伝えるべく、教員免許を取得して日本各地の教育機関で授業・講演を行なっています。先生は今までもイベントの開催や、医療ドラ...
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がん教育はなぜ重要か?がんを正しく理解してもらうための林和彦先生の試み

公開日 2017 年 07 月 21 日 | 更新日 2017 年 07 月 22 日

がん教育はなぜ重要か?がんを正しく理解してもらうための林和彦先生の試み
林 和彦 先生

東京女子医科大学 がんセンター長 化学療法・緩和ケア科 教授・診療部長

林 和彦 先生

東京女子医科大学 がんセンター長の林和彦先生は正しいがんの基礎知識を一般の方に伝えるべく、教員免許を取得して日本各地の教育機関で授業・講演を行なっています。先生は今までもイベントの開催や、医療ドラマの監修などさまざまな分野からがん啓発に取り組んでいました。

本記事では林先生が医師としてどのようなキャリアパスを歩まれ、今までどのような取り組みをされてきたのかについて伺います。

「がんを治す」その信念のもと邁進した30年間

医師

私は物心ついたときから医師を志しており、中学生のとき、父を胃がんで亡くしたことをきっかけにがんを治す医師になることを決意しました。以来私の医師としてのキャリアは、がんとともにあるといっても過言ではありません。

手術、内視鏡検査、抗がん剤、そして緩和ケア

私は医師になってから、手術、内視鏡、抗がん剤、緩和ケアとさまざまな側面からがん治療に従事してきました。

まず医師になった当初は手術によりがんを切って治すことを目指し、東京女子医科大学の消化器外科に入局しました。しかし、がんが進行してしまい手術のできない患者さんや、手術では治らない患者さんもいるということに気づき、早期発見の重要性を実感します。

そこで内視鏡検査による早期発見、また内視鏡による早期がんの治療にも従事しました。しかし、内視鏡検査でみつけた時には、手術もできないような進行がんであることも多く、抗がん剤やがんの遺伝子について勉強するため、アメリカに留学しました。

そして最終的にはがん患者さんを最期まで見守ることも医師として大切な役目であると感じ、緩和ケアを学び、従事してきました。緩和ケアは1人の力ではできない医療です。医師だけでなく、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーなど、さまざまな職種のプロフェッショナルが必要です。がん患者さんに常に最適ながん医療を提供するため、さまざまな診療科、職種が手を取り合い、10年かけて院内にがんセンターを作りました。

私は医師になって30年あまり、さまざまな角度からがん患者さんやそのご家族に向き合ってきました。そのなかで記事1『知っておきたいがんの基礎知識-6割の患者さんはがんを克服できるようになってきた』でもお話ししたように、日本はこんなにもがんの罹患率が高いにもかかわらず、がんのことを正しく理解できていない方がとても多いということを痛感しました。

あまりにも知られていない、がんの現状

患者さんにがんを告知するのは、私たち医師にとっても辛い瞬間です。がんを告知された患者さんは精神的にショックを受け「なんで私が」と悲嘆します。なかにはがんを告知されたショックで自ら命を絶とうとする方すらいらっしゃいます。

確かにこの先の生活や治療のことを不安に思い、「なんで私が」と感じてしまうことも無理はないと思います。しかし今は診断・治療・緩和の技術が向上し、がん患者さんの60%以上はがんを克服しています。それなのに多くの患者さんはその事実を知りません。私はがんに対する知識不足、情報不足が不安を煽り、患者さんやご家族を必要以上に不安にさせている部分もあるのではないかと危惧しています。

また今や日本国民の2人に1人ががんに罹患する時代であり、いつどなたががんに罹患してもおかしくない状況です。がんがこんなに身近な疾患になっているにもかかわらず、みんな「まさか私ががんになるわけない」と根拠なく信じ込んでいるように思います。

病気・死を受け入れられない風潮

終末期

このように日本人ががんの告知を受け入れられない国民性になってしまった原因として、私は日本人が「疾患」や「死」を自身から遠ざけ、それらを医療施設に一任してしまっていることが挙げられると思っています。

戦前の日本は自宅で家族の最期を看取るのが一般的でした。しかし、高度経済成長とともに医療施設で最期を看取るケースが増え、近年はほとんどの方が病院で亡くなるようになりました。そのため、今の日本人はご自身やご家族が病気にならない限り、疾患や死と直接向き合うことがありません。病や死へのシミュレーションが欠如してしまっているのです。

私は長らく東京女子医科大学の大学病院で患者さんやご家族と対峙してきましたが、「大学病院に行けばどんな病気も治る」と錯覚している方もいらっしゃるのではないかと感じます。しかし、人は誰でも病気にかかる可能性を持っていますし、いつか亡くなる日もやってきます。これを受け入れられないままにご自身やご家族ががんに罹患してしまうことは、実に不幸なことだといえるでしょう。

このような経験を受け、一般の方にがんを正しく理解してもらい、万一ご自身やご家族ががんを罹患してしまった際に落ち着いて万全の状態で治療に励んでほしいと思い、「がんを啓発しよう!」と決意をしました。

啓発の難しさ

がんに限らず、大学病院などでは市民公開講座やセミナーなど、一般の方を対象とした啓発運動が定期的に行われています。そこで、私も初めは市民公開講座など講演を行うことで啓発運動を行いました。

しかし、実際に市民公開講座を行なって課題に感じたのは、本当に啓発すべき人のところにはなかなか届かないということです。いかにがんに詳しい優秀な先生を集め、内容豊かなスライドやプログラムを作っても、実際の動員数は思うように伸びません。また、講座に参加し熱心に聞いてくれる方のほとんどはすでにがんを経験された方や、そのご家族など、疾患に理解のある方ばかりでした。「がんについて知っている方だけではなく、がんを正しく知らない方にも伝えたい」と考えていましたので、もっと他の手段を考えなければならないと思いました。

駅前の啓発イベントは大成功!

新宿駅

「大学病院で一般の方を待っているだけではダメだ、自ら街へ出て届けに行こう」と考え、次に取り組んだのが「オレンジバルーン・フェスタ」というイベントの開催です。2013年6月に新宿駅西口の地下広場で開催されたこのイベントでは、がんの基礎知識や、以前とは大きく変わったがんの緩和ケアの現状について、地域の医療従事者とともに、新宿駅を通りかかった一般の方々にミニ講演をしたり、介護体験をしていただいたりしました。

このイベントは大成功を収めました。医療従事者のべ250名が参加し、2日間で5,800名ほどの市民が集まりました。集まった一般の方の80%はたまたまその日に新宿駅を通っていた、がんについて特別関心があったわけではない一般の方でした。私はまさにこのような方々に、がんを正しく理解してほしいと思っていたのです。またNHKの番組で放映されたため、実際にその場には来られなかった方にもがんについて知っていただけるよい機会となりました。

このオレンジバルーン・フェスタは今でも年に1回開催されています。セミナーやポスターセッション、ウィッグの体験コーナーなどさまざまな催しが行われ、さまざまな側面からがんを知ることができます。

また私はこのほかに、安楽死を扱ったテレビドラマの医療監修にも協力しました。

安楽死や在宅医療、医療麻薬はまだまだ認知度が低く、国民に正しく理解されていない分野でもありますが、それをドラマのなかで有名な俳優さんに演じてもらうことで、一般の方にも関心を持っていただけるのではないかと思ったのです。このドラマでは、非常に多くの反響をいただきましたが、メディアを通じてがん治療について知ってもらうことで、実際、それらの医療が必要になった際に思い出してもらうことができるのではないかと思っています。

啓発では届かない若い世代にどのようにがんの知識を届けたらよいか

このようにさまざまな啓発活動をしても、やはり限界はあります。実際に啓発活動を行ってみて、特にがんについて正しく理解してほしい、これからご自身やご家族ががんに罹患するかもしれない若い世代の方に届けることは非常に難しいと感じました。私は「がんに対する正しい知識を日本国民みんなが持てる環境にしたい」と思い、啓発ではなく学校教育に目を向けるようになりました。

啓発と学校教育の違いは歴然です。啓発は強制できないため、本当に届くべき相手へ届けることがなかなか叶いません。しかし学校教育であれば、学習指導要領には法的拘束力がありますから、全国の子どもたちががんについて必ず学ぶことになります。私はそのことに気づき、「学校でがん教育をしよう!」と思い立ったのです。

 

知っておきたいがん知識 (林 和彦先生)の連載記事

1986年千葉大学医学部卒業。東京女子医科大学 がんセンター長として患者さんの診療を行っている。長年がん患者さんやそのご家族と触れ合うなかで、国民ががんについて正しい知識を持つことが大切であると感じ、がん啓発やがん教育に傾注するようになった。2017年には教員免許を取得した。小中学校や高等学校でのがんの授業だけでなく、医師や教員対象の講演も積極的に行っている。