インタビュー

慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)の原因や症状とは

慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)の原因や症状とは
木村 宏 先生

名古屋大学 大学院医学系研究科ウイルス学 教授

木村 宏 先生

この記事の最終更新は2017年08月08日です。

慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)は、ほとんどの人が持つEBウイルスが何らかの要因で活性化し、発熱や蚊刺過敏症、悪性リンパ腫など多彩な症状を引き起こす疾患です。まれな疾患であることもあり、その発症のメカニズムなど、詳しいことはまだ明らかではありません。日本では小児慢性特定疾病に指定されています。今回は慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)の概要や原因、症状について、名古屋大学大学院医学系研究科 総合医学専攻 微生物・免疫学講座 ウイルス学 教授の木村 宏先生にお伺いしました。

EBウイルスとは、皮膚症状などを起こすヘルペスウイルス科の一種で、私たちの身近にいるウイルスです。EBウイルスは成人した日本人の約90%が感染しているといわれています。その多くは小児のころに親から子へ、子ども同士の接触により、唾液を媒介して感染します。体内に侵入したEBウイルスは、主にリンパ球のひとつであるB細胞に潜伏します。一度感染すると生涯EBウイルスは体内に潜み続けますが、普段はEBウイルスが活性化することはなく、何の症状も現れません。

このように普段は体のなかでおとなしくしているEBウイルスが、何らかの理由で活動を増やしてしまうことがあります。普段潜んでいるB細胞だけでなくT細胞またはNK細胞という別のリンパ球にまで感染・増殖すると慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)を発症します。しかしながら、どのようなメカニズムで普段おとなしいEBウイルスが活性化し、慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)を引き起こすかはまだ明らかになっていません。

また、原因ウイルスであるEBウイルスは人から人へと感染しますが、慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)そのものが他の人へうつることはありません。

慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)は非常にまれな疾患です。慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)を新たに発症する方は年間約数十名、多くても100名程度といわれています。子どもに発症することが多い疾患ですが、成人で発症することもあります。

理由は明らかではないものの、地域性も指摘されています。慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)は日本・中国・韓国といった東アジアに患者さんが集中している点も特徴です。実際、人種や民族ごとに異なるHLAという白血球の型に特異的な変異がある人が慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)なのではないかとの示唆があります。慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)を好発する人についても、解明が待たれるところです。

同じEBウイルスを原因とする感染症に、伝染性単核球症があります。伝染性単核症はキスを通して感染することから、別名「キス病」とも呼ばれます。伝染性単核症は急性に高熱やリンパ節の腫れ、肝機能障害といった症状が発現しますが、一過性で自然治癒します。一方、慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)は、原因ウイルスは同一であるものの伝染性単核症よりもさらに症状が重く、持続します。自然治癒することもありません。

また両者の違いとして、EBウイルスに感染する細胞も異なります。先に述べたように、慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)がT細胞あるいはNK細胞にEBウイルスが感染・増殖する点に対し、伝染性単核症ではB細胞にEBウイルスがとどまっています。

子どもの発熱

慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)は大きく1.炎症症状 2.腫瘍症状のふたつにわけることができます。

1.炎症症状―発熱、リンパ節の腫れ、倦怠感、蚊刺過敏症、種痘様水疱症血球貪食症候群など

初期によくみられる症状に、発熱や全身倦怠感(だるさ)、リンパ節の腫れが認められます。これは風邪やインフルエンザなどの症状に似ていますが、1か月以上続くようであれば医療機関を受診しましょう。

蚊刺過敏症(蚊アレルギー)や種痘様水疱症(しゅとうようすいほうしょう)という皮膚症状が現れることがあります。蚊刺過敏症は蚊に刺された箇所がひどく腫れあがり、高熱や時には潰瘍を伴います。種痘様水疱症では、日光にあたるとその箇所がただれや水疱といったような、やけどに似た症状を呈します。これらの皮膚症状は小児に多い点が特徴です。

症状が進行すると、38度以上の高熱の持続や、肝臓や脾臓の腫れがみられます。血球貪食(どんしょく)症候群に陥ることもあります。血球貪食症候群にかかると重度の血球減少(赤血球、白血球、血小板の減少)が生じ、血が止まりにくい、ほかの感染症へかかりやすいといった症状のほか、多臓器不全に進行することがあり、注意が必要です。

2.腫瘍症状

慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)は進行すると、ウイルスが感染した細胞をがん細胞に変えてしまい、悪性リンパ腫白血病といった血液のがんを発症します。

EBウイルスに感染したリンパ球が臓器に浸潤すると、臓器障害を起こします。例として肝機能障害や心不全、神経障害が挙げられます。ほかに、消化管潰瘍、冠動脈瘤、間質性肺炎、血管炎なども合併症として報告されています。

このように、慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)は全身に多彩な症状を呈し、その程度もさまざまです。血球貪食症候群や多臓器不全、悪性リンパ腫、白血病といった重篤な疾患を引き起こすと、早期に適切な治療を行わない場合、命にかかわることがあります。

先ほどお伝えしたように、慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)の初期症状は風邪やインフルエンザに似ています。しかし慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)はその名のとおり慢性疾患であるため、自然治癒することなく、症状が持続したり何度も繰り返したりします。

もし、今回ご紹介したような症状がみられ、1か月以上の長期に及ぶ場合は医療機関を受診してください。その際は内科か小児科、特に中規模以上の病院の血液内科や感染症内科がよいでしょう。

慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)はときに命にかかわる疾患であるものの、早期発見し、適切な治療を受ければ完治の可能性も期待できます。

記事2『慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)の治療―完治は可能?』では、慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)の検査と診断、治療や予後についてお伝えします。

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