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JUMP・日本ユーザビリティ医療情報化推進協議会 政策提言「患者の健康・医療・安全に向けた医療トレーサビリティの確立」 報道発表レポート

JUMP・日本ユーザビリティ医療情報化推進協議会 政策提言「患者の健康・医療・安全に向けた医療トレーサビリティの確立」 報道発表レポート
メディカルノート編集部 [医師監修]

メディカルノート編集部 [医師監修]

2017年6月22日、日本ユーザビリティ医療情報化推進協議会(JUMP)の病院・薬局医療トレーサビリティワーキンググループの「患者の健康・医療・安全に向けた医療トレーサビリティの確立」の政策提言が報道発表されました。本記事では、この報道発表の内容をリポートします。

イベントの様子

はじめに、JUMP病院・薬局医療トレーサビリティワーキンググループ主査である落合慈之先生からご挨拶がありました。以下、落合先生のご挨拶の内容です。

日本は世界を代表する長寿国です。高齢化社会に伴って、医療費の増大が続き、今や医療費を含む社会保障関連費用が国家予算の3分の1を占めています。

ですから、医療費の伸びを抑えるための政策が必須であり、医療現場において経費節約・無駄の排除・業務の効率化といったことが求められています。

また、高齢の方が増えて、医療事業が増大するにもかかわらず、看護師や医師、臨床工学技師などの人材の不足が懸念されています。この課題解決のためには、IT を駆使して少人数のスタッフでも医療現場を効率的に運営させる方法を考えることが必要です。

さらに、日本の医療現場では薬剤の誤投薬・患者間違い、手術中のミスなどの医療事故が後を絶たない現状があります。この現状に対して、医療従事者の注意力を喚起するだけでは不可能であり、設備や仕組みを整える必要があります。

医療・介護・生活者の暮らしを豊かなものに変えることにおいても、ITの積極的活用を行い、国民にとって価値のあるビッグデータの利用が求められます。

日本では、疾患や治療内容に関するビッグデータは注目されていますが、医療現場で使用される医薬品・医療材料・医療機器などの「モノ」のビッグデータについてはあまり注目されていません。

医療現場で、経済的に費用対効果の見合った形が取られているかを考えるときには、治療のデータとともに、医療材料や医薬品がいつ・どのように使われているか把握することが必要となります。

世界では、この動きがすでに実現している国もありますが、現在の日本ではまだ実現にいたっていません。これを実現させるためには医療トレーサビリティ※を発展させることが重要であると考えています。

※医療トレーサビリティとは:医療トレーサビリティとは、製造・流通の過程を経て、患者・利用者に供される医薬品・医療機器・医療材料等にかかる積極的な情報開示であり、患者の知る権利を保障するとともに、メーカーから卸しを経て、医療・介護施設、薬局に至る全ての医療サービス提供者の責任を明確にするものです。

続いて、事務局長の小島謙二氏より「患者の健康・医療・安全に向けた医療トレーサビリティの確立」に関する政策提言の発表がありました。

これまで医療トレーサビリティは「医薬品・医療機器の安全性とリスク管理」という視点で進められてきました。しかし今後は、増大する医療費に対応するための「ICT活用、データに基づいた医療の効率化と効果」や「予防・健康増進」といった視点が必要です。

この視点を持つために、医薬品・医療機器に関する良質で豊富なデータを収集・利用するシステムを構築することが重要となります。これが今後の医療トレーサビリティの発展につながると考えます。2016年に発生した「ハーボニー問題」のような医薬品事故の再発防止に対しても医療トレーサビリティを活用できると考えます。

※ハーボニー問題:ギリアド・サイエンシズ株式会社が販売しているC型肝炎治療薬「ハーボニーの偽造品が、奈良県内で特定の薬局チェーンにおいて発見された

引用
医療品の自主回収、医療機器の不具合等発生時の対応(引用:平成28年度 医療トレーサビリティの提言書

上図のように、医療トレーサビリティ情報管理プラットフォーム上に医薬品や医療機器のデータを登録して、登録したデータを一元管理しながら使用現場と流通経路などを組み合わせます。それらをまとめて照合するという仕組みを作ることが、日本の偽造品の流通を防ぐ本質的な解決策になるのではないか考えています。

医療、医薬品、医療機器を日本の戦略産業として育成するために、国が打ち出している「健康・医療戦略」への実行に医療トレーサビリティが寄与できると考えます。

2017年2月に健康・医療戦略が一部改定されましたが、改定のポイントは以下のとおりです。

  1. 健康医療分野の研究開発の推進におけるデータの共有とクオリティの強化
  2. 医療介護健康に関するデジタル化、ICT化の促進における治療や検査、介護等のデータを広く収集し、安全に管理して利用に繋げていくための新たな基盤の構築
  3. 収集されたビックデータを元に、人工知能を活用した診療支援や新たな医薬品の創出

以上の内容から、健康・医療戦略と医療トレーサビリティとの関係は、非常に深いものであると捉えています。

私たちワーキンググループは、医療施設における製品バーコード利用による医療トレーサビリティについて、全国の病院4,101件を対象にアンケートを実施しました。

医療現場における製品バーコード活用のニーズについては、「処方情報と現物情報の間違いを発見するアシスト」「安全情報や副作用情報の同時表示」などの意見が多くありました。

これらのことから、製品バーコードを単なる流通目的に使用するのではなく、患者安全のためにも、人為的なミスをなくすことを目的にして使用したいという医療現場の要望が浮き彫りになったのです。

医療トレーサビリティを確立させるためには、法令による義務化など、実質的な強制力が必要であると考えています。私たちワーキンググループでは、医療現場からのアンケート調査などを踏まえて、以下のような環境整備を行っていく方針としました。

法整備

  • 患者を正確に識別する番号制度
  • 医療従事者を正確に識別する番号制度
  • 国際標準の「事業所場所識別番号」を付番する制度
  • 医薬品医療機器材料を正確に識別する制度の普及・改善(精度・正確性の向上、表示・データーベースへの登録の法令化・義務化等など)

標準化

  • 日本国内における標準化(各種識別コード、データ形式等)
  • 国際標準の採用(ISOGS1等の国際標準規格)
  • 輸出入や電子商取引を想定した越境データ連携交換への対応など

システム基盤

  • 医療分野の5W1H(どこで、いつ、誰が、誰に、何を、どうする、どうした)のデータを自動認識で正確に記録保存できる仕組み
  • 関係機関が業種業態を超えて情報連携・交換できる仕組み
  • 医療や介護等の機械情報を安全にやり取りできるセキュリティが確保された情報通信ネットワーク及びデーターベース
  • (将来的には)一包化調剤された薬を1包毎まで電子的に管理できる仕組み
  • 患者のプライバシーに配慮しつつ、薬の開封飲用を判定し、服用データを正確に収集・管理できる仕組みなど

医療トレーサビリティ推進プロジェクト委員会では、医療トレーサビリティプラットフォームの構築に向けたロードマップ案を作成しました。以下が実現へ向けたロードマップです。

今後の医療トレーサビリティの構築に向けて、国民・政府・政治に対する積極的な働きかけが必要となるでしょう。

引用
医療トレーサビリティ実現までのロードマップ(案)(引用:平成28年度 医療トレーサビリティの提言書