インタビュー

ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは?患者さんにより異なる初期症状や治療方法について

ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは?患者さんにより異なる初期症状や治療方法について
青木 正志 先生

東北大学 大学院医学系研究科 神経内科学分野 教授、東北大学病院臨床研究推進センター センター長

青木 正志 先生

この記事の最終更新は2017年08月15日です。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)は体を動かす際に用いられる「運動ニューロン」という神経が阻害され、それにともなって体中の筋肉が徐々に衰えていってしまう疾患です。この疾患は症状や進行が患者さんによって大きく異なるため、気になることがあれば早期に神経内科への受診することが大切です。

今回はALSの基本的な情報や今日の研究、受診される際の注意点などについて東北大学医学部 神経内科教授、青木正志先生にお話を伺いました。

バットを振る人

ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは、体を動かす運動ニューロンという神経が障害を受け、運動や呼吸に必要な筋肉が徐々に衰えていってしまう疾患です。

ニューロンとは、神経のことを指します。神経は私たちの体全域に張り巡らされ、さまざまなはたらきをしています。

ニューロンには運動ニューロン、感覚ニューロン、介在ニューロンなどさまざまな種類があり、なかでも運動ニューロンは私たちが体を動かそうとするときに使われる神経です。たとえば、バットを振ろうとするとき、腕の筋肉が運動をします。運動ニューロンはこのときに腕の筋肉に信号を届ける役割を持っています。

中年男性

ALS(筋萎縮性側索硬化症)は2017年現在、日本に約1万人の患者さんがいらっしゃいます。罹患する患者さんの年齢層は中年以降が多く、最も患者さんが多いといわれているのは60〜70歳台です。また、男女比はやや男性のほうが罹患しやすいといわれています。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)と筋ジストロフィーは全く異なる疾患です。ALSは筋肉を動かす神経が障害を受けることによって、筋肉が痩せてしまいます。一方で筋ジストロフィーは筋肉そのものの疾患で、筋肉が変性を起こすことで筋力が低下してしまいます。また罹患する年齢も大きく異なり、ALSは中年以降の患者さんが罹患することが多い一方で、筋ジストロフィーは子どもの頃から罹患し、筋肉が痩せてしまうことがあります。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)は原因がまだ明らかになっていません。しかし、患者さんのうち10%は遺伝による家族性ALSを罹患しています。残りの90%は孤発性ALSといって、遺伝の関与がなく発症します。

また、家族性ALSも孤発性ALSも症状や進行に違いはほとんどありません。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の症状は患者さんによっても千差万別です。初期症状として現れる症状も人によって異なります。たとえば、筋肉が痩せていってしまうので四肢の動きが悪くなったり、話すことや、食べ物を食べ、飲み込むといった発話・嚥下がしにくくなったりすることもあります。

疾患が進行し全身の筋肉が痩せきってしまうと、歩行、会話が難しくなり、呼吸も十分に行えなくなってきてしまいます。

上記のような症状がある一方で、進行しても目や耳はほとんど影響なく機能していることが1つの特徴です。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)は未だ治療方法が確立されていません。しかし、2つの薬を使用して症状の進行を遅らせる治療が行われています。現在使用されている薬は下記の2種類です。

<ALSの進行を遅らせる薬>

  • リルゾール
  • エダラボン

飲み薬

リルゾールは1999年よりALSの治療に用いられている薬です。この薬はグルタミン酸の量を抑えることで、ALSの進行を遅らせることができます。

グルタミン酸とは運動ニューロンが体に信号を伝える際に用いられる物質です。このように神経が情報を伝える際、使われる物質を「神経伝達物質」といいます。ALSに罹患すると、グルタミン酸が過剰になってしまうことが明らかになっています。

点滴

エダラボンは2015年にALSの治療薬として認可された、ALS治療の観点からみると比較的新しい薬です。もともとは脳梗塞で急性期の状態の患者さんを治療する際に用いられてきた薬です。

エダラボンは、フリーラジカルを抑える薬です。フリーラジカルはさまざまな疾患や老化の原因になっているともいわれています。ALSは罹患するとフリーラジカルが多く発生し、それが症状を進行させているのではないかと考えられています。

エダラボンの投与は、2週間おきに点滴で行う必要があります。そのため患者さんは2週間おきの通院が必要となります*。

*2023年4月より内服可能な製剤が発売され、自宅での投与が可能になりました。

現在は上記2つの治療薬でALSの進行を遅らせています。必ず2つの薬を使用するというのではなく、薬の効果、副作用なども視野に入れ検討し、その患者さんの容態、生活、希望に応じて治療方法を選択します。

上記でも申し上げましたように、ALSの症状やその進行は患者さんによって全く異なります。患者さんそれぞれの症状に対し、その症状を和らげる対症療法を行います。

たとえば、ALSでは筋肉や関節を動かせなくなってしまうことにより、それらが拘縮(こうしゅく)し、固くなってしまうことで痛みやしびれが生じることがあります。このような状態を防ぐため、リハビリを行います。

研究

ALS(筋萎縮性側索硬化症)は現在2つの治療薬で治療されていますが、それらを用いても進行を遅らせることができるだけで、病気の進行が完全に止まるわけではありません。そのため、より効果的な治療を開発するために世界中の医師が熱心に研究を続けています。

日本ではALSの研究がとりわけ盛んに行われており、東北大学では大阪大学とともに肝細胞増殖因子(HGF)を用いた治療の治験を行っています。この治験では、治療対象に当てはまる患者さんを全国から募集し、対象に合致した場合には実際に治療を受けてもらっています。

治験はその時期やタイミングに応じて、さまざまな医療機関で行われていることがあります。主治医の先生と相談し、最新の情報をきちんと確かめたうえで検討されるのもよいと思います。

医師

ALS(筋萎縮性側索硬化症)は初期症状に気が付きづらく、発見が遅れることがしばしばあります。しかし、より早く治療を始めたほうが治療効果も発揮されやすいことが明らかになっていますので、他の疾患同様、できるかぎり早期診断できることが望ましいといえます。

ALSは神経内科を受診しない限り、診断がつかない疾患です。しかし、筋肉が衰えていってしまう疾患なので、最初に神経内科の受診を連想しない患者さんも多く、発見が遅れてしまうケースもあります。うまく手が動かなくなってきたので整形外科を受診したり、うまく話せなくなったといって耳鼻科へ受診したりと、そのとき現れた症状に応じて受診する診療科がバラけてしまうことがあります。

もちろんその診療科の先生が、ALSを疑い、専門である神経内科医に紹介してくださる場合もあります。一方で、症状の明確な原因がわからず「様子をみる」というかたちで診療が終了してしまうケースもあります。そのようなとき、気になること、不安なことがあれば、ぜひ神経内科を受診していただきたいと思います。

また、ALSはほとんどの患者さんが中年期に罹患するため、筋肉の衰えなどの症状が見受けられても「歳のせいかな?」と考え、病院を受診しない患者さんもいらっしゃいます。このような患者さんにも、「おかしいな」と感じた段階で、ぜひ一度神経内科を受診していただきたいと考えています。

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