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胃がんの症状と原因――胃がんの基礎知識と治療における化学療法の役割とは?

胃がんの症状と原因――胃がんの基礎知識と治療における化学療法の役割とは?
榎本 直記 先生

国立国際医療研究センター病院 食道胃外科 医師

榎本 直記 先生

胃がんは、日本人に多く見られるがんの1つです。早期に見つかれば、内視鏡治療や手術で切除することにより根治できる可能性が高いですが、進行がんでは、手術で腫瘍(しゅよう)が取り切れたとしても術後に再発することも少なくありません。

術後の再発予防に有効である治療法として、抗がん剤を用いた補助化学療法があります。また、手術で切除することができない進行がんや再発がんにも化学療法が適応されます。このように、化学療法は胃がんの治療において大きな役割を担っています。今回は、国立国際医療研究センター病院の榎本 直記(えのもと なおき)先生に、胃がんの原因や治療法、特に化学療法の種類や抗がん剤についてお話しいただきました。

胃がんとは、胃の粘膜の細胞が何らかの刺激や炎症によってがん細胞になり、無秩序に増殖を繰り返すことで生じる病気です。かつてはピロリ菌感染が主な原因であり、胃の下部付近に発生することが多かったのですが、近年では食生活の欧米化などの要因により食道と胃のつなぎ目など、胃の上部に発生するがんが徐々に増加しています(2020年10月時点)。

最近ではピロリ菌の除菌が進み、胃がん全体の数は減ってきていますが、その一方でピロリ菌感染とは関係のない胃がんが増えてきています(2020年10月時点)。

胃がんは胃壁(胃の壁のこと)の一番内側の粘膜から発生しますが、大きくなると胃壁の深いところに広がり血管やリンパ管を介して肺や肝臓、リンパ節に転移したり、胃壁を貫通して近くの膵臓(すいぞう)や大腸などに食いついたり(浸潤)、お腹の中にがん細胞をばらまいたり(播種)(はしゅ)します。

胃がんは、ピロリ菌という細菌の感染が原因の1つになることが分かっています。もちろん、ピロリ菌に感染している方が皆、胃がんになるわけではありませんが、胃がんが発生するリスクが高まるといわれています。そのため、ピロリ菌に感染している場合、除菌療法を受けることで胃がんになるリスクを軽減することができるでしょう。

また、塩分の多い食生活や喫煙など生活習慣との関連が指摘されています。世界の中でも、胃がんは特に日本を始めとする東アジアに多いというデータもあるため、40歳以上では検診を毎年受けることが望ましいでしょう。胃がんそのものは遺伝しませんが、ご家族に胃がんの方がいらっしゃる場合には注意が必要です。

胃がんの初期には症状はほとんどありません。さらに、進行しても症状がでない場合もあります。したがって、症状だけから胃がんを疑うことは難しいのですが、以下のような症状が見られる場合には、かかりつけ医や近くの医療機関に相談してください。

まずは、上腹部(みぞおち)に痛みや違和感がある場合です。上腹部に痛みが頻繁に現れるときは、胃がんだけでなく胃潰瘍(いかいよう)胃炎の可能性もあるので、一度内視鏡検査(胃カメラ)を受けていいただいたほうがよいと思います。ゲップや胃もたれ、腹部膨満、吐き気などの症状が長く続く場合も医療機関への受診をおすすめします。

さらに、貧血血便の原因が、胃がんや胃潰瘍を含む消化管の病気からの出血である場合があります。特に貧血がどんどん進行する場合や、見た目に明らかな赤い便・黒い便がある場合は、可能な限り早い受診が望まれます。また、急激な体重の減少や、背中の痛みなど胃とは直接関係ないように思われる症状が、がんの影響である場合もあるので要注意です。

胃がんの診断でもっとも重要なものは内視鏡検査(胃カメラ)です。病変の場所、大きさ、深さなど多くの情報を得られるほか、腫瘍が疑われる病変の組織を採取(生検)することができます。採取した組織は顕微鏡で詳しく観察して、がんかどうかの判別や悪性度を判定します。最近では光の波長を制御した画像強調内視鏡や、拡大内視鏡などの導入により、これまで分かりにくかった病変も発見しやすくなってきています。

胃カメラで胃がんと診断された場合、次に重要なことは、がんの広がりや肺や肝臓、リンパ節にがんが転移しているかどうかを調べることです。胃カメラでは、胃がんの場所や大きさ、予想される深さなど多くの情報が得られます。ただし、胃の外のことは分かりません。

CTは、X線を利用して人体の断面図が得られる検査です。進行したがんの場合、がんの広がりや深さがCTでもある程度把握できるようになります。そのほか、肺や肝臓などの臓器やリンパ節に転移があるか、お腹全体にがんが散布されていないか(播種)についても、ある程度の情報が得られるためCTは非常に有用な検査です。追加の検査として、超音波検査(エコー)やMRI、PET(陽電子放出断層撮影)が行われることがありますが、目的はCTとほとんど同じです。

胃がんの治療法には、主に内視鏡治療、手術(外科治療)、抗がん剤を用いた化学療法があります。治療法は、胃カメラやCTから推定される、がんの深さや転移の状況に基づいて決定します。

大まかには、粘膜にとどまるような深さの早期胃がんでは内視鏡治療が選択されることが多く、粘膜より下にがんが入り込んでいる場合やリンパ節転移が疑われる場合では外科治療が選択されることが多くなります。内視鏡治療が行われた場合、切除した組織を顕微鏡で詳しく調べます。その結果、がんが残っている場合や再発リスクが高いと考えられた場合は、追加治療として外科治療を行うことがあります。

肺や肝臓など、胃から離れた臓器にがんが転移している場合や、お腹に腫瘍が散布されている状態である腹膜播種(ふくまくはしゅ)が疑われる場合には、治療の中心は化学療法になります。腹膜播種の診断のためには、お腹にカメラを入れて中を観察する審査腹腔鏡(しんさふくくうきょう)という検査を行うことがあります。

下の図は、胃がん治療ガイドラインに基づいた、治療方針のおおまかな流れ(フローチャート)です。実際には、がんの進行状況だけでなく、症状や栄養状態、併存症など多くの側面を加味して、患者さん一人ひとりに合わせて治療方針を決めていくことになります。

胃がん治療ガイドラインに基づいた、治療方針のおおまかな流れ

化学療法とは、抗がん剤を用いてがん細胞の増殖を抑制し、生存期間の延長や、症状の緩和を目指す治療です。胃がんの治療においては、主に次の3つのパターンで化学療法が適応されることがあります。

進行した胃がんでは、手術で腫瘍を完全に切除しても術後にがんが再発することがあります。再発の原因としては、CTなどの検査で捉えきれなかった微小な転移や目に見えないようながん細胞が術後に増加することが考えられています。こういった“再発の芽”を摘み取る目的で、術後に化学療法を行うことがあります。これを“術後補助化学療法”といいます。

ステージⅡ・Ⅲの進行がんでは、術後に化学療法を行うことで再発率が減少することが大規模な臨床試験の結果で示されています。

この補助化学療法には3種類あります。1つ目はエスワンという内服薬を飲む方法です。4週間内服のち2週間休薬するというサイクルを術後1年間続けます。

2つ目は、カペシタビンという内服薬とオキサリプラチンという点滴薬を組み合わせて行うものです。3週間を1つのサイクルとして、その間にカペシタビンを2週間内服・1週間休薬していただき、オキサリプラチンの点滴を1回行います。点滴治療は外来通院で可能です。術後約半年間続けていただきます。

3つ目は、ステージⅢの進行胃がんに対して、エスワンという内服薬とドセタキセルという点滴薬を組み合わせたものです。最初の約5か月はドセタキセルの点滴を併用しますが、その後はエスワン内服だけとなり、これを術後1年目まで続けます。

腫瘍が大きくほかの臓器まで及んでいる場合、肝臓や肺などの離れた臓器に転移している場合、腹膜播種が明らかになった場合には、がん細胞の増殖を抑えることで症状を抑え、長く生きられるようにすることを目的として化学療法を行います。

これまでに行われたさまざまな臨床試験の結果を踏まえて、より治療効果が高いと考えられる順番に、一次・二次・三次化学療法という分類がされています。基本的には一次化学療法から開始していきますが、患者さんそれぞれの状態やほかの病気(併存症)・副作用の出方によって抗がん剤の種類や量を調整していきます。

HER2陽性の場合

HER2(ハーツー)は、細胞の増殖にかかわるたんぱく質です。このHER2がたくさん出ているタイプの胃がんでは、HER2をブロックすることで腫瘍の増殖を抑えることができるため、化学療法の開始前にHER2検査を実施し、その結果により使用する薬剤を決定します。たとえば、HER2検査の結果、陽性の場合には、分子標的薬(がん細胞の持つ特異的な性質を分子レベルでとらえ、それを標的として効率よく作用するようにつくられた薬)のトラスツズマブと抗がん剤を併用した化学療法が行われます。

HER2陰性の場合

HER2陰性の場合には、一次化学療法としてエスワンまたはカペシタビンという内服薬にシスプラチンまたはオキサリプラチンという点滴薬を組み合わせた化学療法が選択されます。内服ができない場合はフルオロウラシルとオキサリプラチンという点滴薬の併用療法が行われることがあります。

二次化学療法として行われることがあるのは、パクリタキセルという点滴の抗がん剤とラムシルマブという点滴薬の組み合わせです。ラムシルマブは、血管の発達をブロックすることでがん細胞の増殖を抑える分子標的薬の1つです。二次化学療法で治療効果が得られなくなった場合や、副作用などで続けられなくなった場合は三次化学療法に移ります。イリノテカンは点滴の抗がん剤ですが、消化管が閉塞(へいそく)している場合は使えません。また分子標的薬であるニボルマブを用いることもあります。 トラスツズマブデルクステカンはHER2陽性胃がんに保険適応となった点滴薬です。HER2タンパクをブロックするトラスツズマブという薬剤にデルクステカンという抗がん剤を結合させた新しい分子標的薬になります。

一次化学療法・二次化学療法・三次化学療法

これまでに紹介した化学療法は、臨床試験の結果で有効性が確認された標準治療です。標準治療という言葉は誤解されやすいのですが、多くの患者さんにおいて推奨される治療という意味です。

実際には、腎臓や肝臓の機能が落ちている患者さんや肺疾患を持っている患者さん、腹膜播種などで内服薬が飲めない患者さんもいらっしゃいます。全身状態や併存症、副作用の出方によって、薬剤の組み合わせや量を調節して、それぞれの患者さんに合った化学療法を行っていきます。

抗がん剤や分子標的薬の開発は日進月歩しており、数年後には標準治療薬がガラリと変わっている可能性もあるでしょう。適応となる化学療法の種類や副作用については、担当の医師から詳しく説明を受けたうえで選択することが重要だと思います。

切除をしても腫瘍が残ってしまう可能性がある進行胃がんや、リンパ節転移が多く術後再発のリスクが高いと考えられる進行胃がんに対して、手術前に行われる化学療法です。2〜3回の治療が施行されることが多いです。

メリットとしては、体力があるうちに強力な化学療法を行うことができること、CTやPETなどの画像検査では分からない微小な転移に対する縮小効果が期待できること、腫瘍を小さくして完全な切除ができる可能性が高まることです。一方で、化学療法が効かなかった場合、腫瘍がさらに大きくなり切除のタイミングを逃すことがあるというデメリットもあります。

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