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インタビュー

肺がんの薬物療法(抗がん剤治療・分子標的薬治療・がん免疫療法)—適応や副作用について

肺がんの薬物療法(抗がん剤治療・分子標的薬治療・がん免疫療法)—適応や副作用について
長瀬 清亮 先生

国際医療福祉大学医学部 呼吸器内科 准教授、三田病院  呼吸器センター

長瀬 清亮 先生

この記事の最終更新は2017年09月05日です。

肺がんは、発見された時点で手術が困難で、進行あるいは転移のある割合がおよそ3分の2と、進行しているケースが多くみられます。肺がんに対する薬物治療は、どのように行われるのでしょうか。抗がん剤治療、分子標的薬治療、がん免疫療法の選択や治療の副作用について、国際医療福祉大学三田病院の長瀬清亮(ながせ せいすけ)先生にお話を伺いました。

これまでは薬物療法や化学療法といえば、長期の入院が必要かつ副作用の大きい、従来の抗がん剤治療(細胞障害性抗がん薬によってがん細胞を破壊する治療)をイメージされることが多くありました。しかしがんに対する薬剤研究が進むにつれて、抗がん剤治療だけではなく、狙ったがん細胞だけを標的にして破壊する分子標的薬による治療、ブレーキがかかっていた免疫機能を解除し本来の免疫担当細胞の力でがん細胞を排除するがん免疫療法などが登場しました。現在、薬物治療には以下の3つの種類があります。

【薬物治療】

  • 抗がん剤治療
  • 分子標的薬による治療
  • がん免疫療法

遺伝子変異による肺がんは、おもにその変異により生じる異常なタンパクの恒常的な増殖シグナルを特異的に阻害する分子標的薬が有効とされます。そのため多くの場合、第一に分子標的薬による治療を検討し、それらの対象でないケースでは、抗がん剤治療を選択します。

一方、記事1『肺がんの原因・症状とは? ステージ分類・治療選択について』でご説明したように、喫煙などの環境因子による肺がんも存在します。それら環境因子による肺がんの場合、ブレーキがかかっていた免疫機能を解除し本来の免疫担当細胞の力でがん細胞を排除するがん免疫療法が有用な場合があります。

記事1『肺がんの原因・症状とは? ステージ分類・治療選択について』でお話ししたように、肺がんの要因には、大きくわけて環境因子と遺伝子変異の2つがあります。現在、遺伝子変異を要因とする肺がんの研究が進み、多々ある遺伝子変異の種類に応じて、さまざまな治療薬が使われています。

日本で検査が可能、かつ陽性だった際に治療薬が存在する遺伝子変異は3種類あります。

【検査で陽性だった場合に治療薬の存在する遺伝子変異】

  • EGFR(上皮増殖因子レセプター)遺伝子変異
  • ALK(未分化リンパ腫キナーゼ)遺伝子転座
  • ROS1(c-ros oncogene 1)遺伝子転座

遺伝子変異の治療薬はおもに、非小細胞肺がん、かつ非扁平上皮がんのうち、腺がんでステージ4である場合に使用します。そのため、がんの薬物療法では、まずがん細胞の組織型を調べ、それに応じて遺伝子検査を行い、治療薬を選択します。

肺がんの種類と発生部位

EGFR(上皮増殖因子受容体:Epidermal Growth Factor Receptor)遺伝子変異の発現は、肺がんの発症、進展に関与します。EGFR遺伝子の変異が認められた場合、その働きを阻害する作用を持つゲフィニチブや、エルロチニブ、アファチニブなどの分子標的薬を用いて治療を行います。最近では、上記3剤で効果が十分でなくなった(耐性といいます)場合、特定の遺伝子変異が新たにみられるようになると、オシメルチニブを用いることがあります。

ALK(未分化リンパ腫キナーゼ:Anaplastic Lymphoma Kinase)遺伝子の転座が認められた場合には、細胞増殖を抑制する作用を持つクリゾチニブや、アレクチニブ、セリチニブなどの分子標的薬を用いて治療を行います。

近年新たにROS1(c-ros oncogene 1)遺伝子の転座による肺がんに対して、2017年5月、細胞増殖を抑制する作用を持つクリゾチニブの使用が承認されました。

上記の3種類の遺伝子変異のある場合の分子標的とは別に、非小細胞肺がんに対して2015年12月にがん免疫療法薬の一つが承認されました。

EGFR、ALK、ROS1が陰性かつPD-L1(プログラム細胞死リガンド-1:Programmed Cell Death-1)の発現が50%以上のケースにおいては、初回の薬物療法において免疫チェックポイント阻害薬(ブレーキがかかっていた免疫機能を解除し、本来の免疫担当細胞の力でがん細胞を排除する薬)であるペムブロリズマブを用いてがん免疫療法を行うことができます。この治療法は、同じタイプの肺がんに対する初回の抗がん剤治療(プラチナ併用療法と呼びます)よりも、増悪(腫瘍の悪化)までの期間と生存期間について、良好な治療効果が得られています。

また、何らかの初回治療後に再発を来したケースに対して、PD-L1の発現が50%未満であった場合にはニボルマブを、PD-L1の発現が1%以上50%未満の場合はペムブロリズマブを使うことができます。

がん剤による治療の副作用には、以下のような症状があります。また副作用は抗がん剤の投与開始の日から数日間単位で段階的に症状となってあらわれることがあります。なかでも間質性肺炎は、生命にかかわることがあるため特に注意が必要です。

【自覚症状】

発熱、吐き気・嘔吐、食欲不振口内炎、下痢、便秘、全身の倦怠感、末梢神経障害(手足のしびれ)、湿疹、脱毛、間質性肺炎(肺胞と毛細血管を取り囲む間質に生じる炎症)など

【他覚症状(臨床検査値異常)】

白血球減少、貧血、血小板減少、肝・腎・心・肺機能障害など

吐き気・倦怠感のある患者さん

分子標的薬による治療の副作用としては、上記のような抗がん剤治療の副作用とは別に、皮膚の乾燥、湿疹、爪囲炎(爪周辺の皮膚に起こる感染症)などがあります。

皮膚障害は、EGFR遺伝子変異の治療で起こるリスクがあります。なぜならEGFRはがん細胞だけでなく正常な皮膚細胞にも発現し、皮膚細胞の分化・代謝に寄与しているので、EGFRを阻害する分子標的薬の効果によって、その機能が障害されるためです。

がん免疫療法の副作用としては、甲状腺機能障害、肝機能障害、大腸炎間質性肺疾患1型糖尿病、副腎機能障害、心筋炎、腎障害、皮膚障害、重症筋無力症(筋力の低下などを呈する病気)などがあり、一部は不可逆な変化をきたすものもあります。ただしがん免疫療法は副作用の頻度は多くはなく、甲状腺機能障害で10%ほど、そのほかは数%以下といわれています。

がん免疫療法は日常診療で使用され始めて間もない(2017年現在、1年半ほど)ため、まだ副作用の詳細について明らかになっていないこともあります。がん免疫療法は非小細胞肺がんのほかにも、悪性黒色腫、腎がん、頭頸部がんなど、複数のがん種に用いられています。今後、副作用の詳細についてもさらに明らかになっていくでしょう。

現在日本で検査可能、かつ有効な治療薬のある遺伝子変異は限られています。しかしがんの要因となる遺伝子変異はいくつも発見されており、今後はそれらの遺伝子変異に関する診断技術、新薬の開発が進んでいくでしょう。

現在の分子標的薬は、1年ほど使い続けることで、約半数の患者さんが再発します。今後は、再発したケースに対しても有効な新たな治療薬の開発が期待されています。

また、現在のがん免疫療法ではニボルマブやペムブロリズマブという薬をそれぞれ単剤使用していますが、細胞障害性抗がん薬あるいは他のがん免疫療法薬の併用によって治療効果を向上させる研究が進められています。このように現在、がんの薬物治療は日々進歩しており、今後さらに有効な治療法・治療薬が登場してくるでしょう。

肺がんの薬物治療を受けている患者さんには、先に述べたような副作用のリスクがあります。そのため発熱や下痢など症状に注意し、異変を感じたらすぐに担当医師の指示を思い出し、病院に連絡する、あるいは病院を受診しましょう。しかしながらあまり病気や治療を気にして、家にこもることや、人とのコミュニケーションを避けることは、患者さんの心身によい影響がありません。治療に際しては、患者さん本人ができるだけ通常に近い日常生活を送り、ご家族が近くでサポートできる形が理想的です。

長瀬清亮(ながせ せいすけ)先生

これまで「薬物治療」といえば、長い入院期間を要し、重い副作用が伴う治療をイメージされる方が多かったように思います。しかし以前に比べて、新たな薬剤が登場し、さまざまな状況の患者さんに合わせた治療の選択が可能になりました。

進行したステージの肺がん患者さんであっても、仕事や余暇などの日常生活と両立をしながら、希望を持って、治療に臨んでいただきたいと考えます。私たちは、患者さんとそのご家族のサポートを続けていきます。

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