インタビュー

多系統萎縮症の治療 多職種チーム医療の早期介入が大切

多系統萎縮症の治療 多職種チーム医療の早期介入が大切
髙橋 祐二 先生

国立精神・神経医療研究センター病院 脳神経内科診療部長

髙橋 祐二 先生

この記事の最終更新は2017年10月04日です。

多系統萎縮症の治療は、基本的に対症療法やリハビリなどが行われています。そして、それらの治療を早期に行うことで、患者さんの状態がよくなるということがわかっています。今回は多系統萎縮症の治療法や最新の研究について、前回に引き続き、国立精神・神経医療研究センター病院神経内科診療部部長の高橋祐二先生にお話しいただきました。

提供:PIXTA

多系統萎縮症は、疾患そのものを治す根治療法はまだありません。そのため、対症療法とリハビリが中心となります。

小脳失調症状、パーキンソン症状、自律神経障害共に、でてきた症状に対して薬物療法などの治療を行います。たとえば、起立性低血圧の症状がある場合は、血圧をあげるような薬を投与します。パーキンソン病の治療薬が一定の効果を呈することがあり、パーキンソン症状のある方には積極的に治療を行います。

多系統萎縮症の治療として、バランス機能を向上させる、歩く、起き上がるといった動作のリハビリも重要です。私たち国立精神・神経医療研究センターでも、多系統萎縮症の患者さんのリハビリは積極的に行っています。早期にリハビリをすることで、症状が緩和され、患者さんのQOL(生活の質)を保つことが可能となります。

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多系統萎縮症は進行すると、嚥下障害睡眠時無呼吸症候群、声帯の外転不全などさまざまな合併症を発症する可能性が高くなります。そして、そういった合併症への介入が遅れ、突然死を起こすケースも少なくありません。そのため、合併症に対する早期からのリスク評価と、医師を中心とした多職種チーム医療の介入が重要となります。

嚥下障害が起こった場合は、誤嚥しにくい食事の形態に変更することや、胃瘻(いろう)*

を作ることもあります。また、声帯の外転不全は呼吸障害につながるため、気管切開といった処置が必要となります。

胃瘻(いろう)…腹部に穴をあけ、直接胃に栄養を入れるもの。

多系統萎縮症の患者さんのなかには、COQ2という遺伝子の変異を持っている方が、一般の方と比較すると多い傾向にあります(多系統萎縮症の原因については記事1「多系統萎縮症とは 原因と症状、検査方法まで」をご参照ください)。COQ2とは、コエンザイムQ10を合成する酵素です。そして、COQ2の変異によりコエンザイムQ10の値が低下していることが、多系統萎縮症の発症に関係しているといわれています。そのため、2017年現在、コエンザイムQ10の大量投与療法の治験の準備が行われています。

コエンザイムQ10の大量投与療法が多系統萎縮症の根治療法になるのかはまだわかりません。COQ2だけで、この疾患のすべてが説明できるわけではないからです。しかし、この治験が成功すれば、症状の進行を遅らせたり緩和したりすることが可能になると期待されています。

現在、多系統萎縮症脊髄小脳変性症のガイドラインを、厚生労働省の運動失調班が中心になって作っています。このガイドラインには、多系統萎縮症と脊髄小脳変性症の、疫学、原因、症状、検査、対症療法、リハビリといった項目が網羅されており、今後の診療に活用できる内容となっています。

ガイドラインを出すことで、より多くの医師たちに、多系統萎縮症の症状には、どういった治療を行うことが推奨されるのかを示す1つの指針になるのではと、完成に向けて作業を進めています。

医師が並んでいる画像

国立精神・神経医療研究センターには、パーキンソン病を中心に、ジストニア脊髄小脳変性症である多系統萎縮症といった疾患に対して、適切な治療の提供と研究を行うパーキンソン病・運動障害疾患センター(Parkinson disease & Movement Disorder Center:略してPMDセンター)があります。

パーキンソン病・運動障害疾患センターでは、神経内科、リハビリテーション科、脳外科、精神科といったさまざまな診療科と共に、看護部や検査部などがそれぞれの特徴を活かし協力をしながら、患者さんに最も適した診療を行っています。

多系統萎縮症を含む、脊髄小脳変性症の患者さんは、上記でも述べたとおり、早期にリハビリテーションを行うことで症状が改善しうるということがわかっています。そのため、パーキンソン病・運動障害疾患センターでは、脊髄小脳変性症の患者さんに対しての、リハビリテーションのプログラムをリハビリテーション科の方々と考案し実践しています。多系統萎縮症の患者さんも参加してくださっており、このリハビリテーションの効果から、退院し自宅で生活を送れるようになった方もいらっしゃいます。

また、多系統萎縮症の患者さんのなかには、うつ病を併発される方もいらっしゃいます。そういった場合、神経内科医だけでは、専門的にうつ病の治療を行うことはできません。そのため、パーキンソン病・運動障害疾患センターでは、精神科の医師と神経内科の医師が協力し、多系統萎縮症とうつ病の両方から専門的な治療を行っています。

パーキンソン病・運動障害疾患センターでは、上記の疾患の治療を行うだけではなく、隣接している神経研究所と連携しながら、基礎研究や臨床研究を進めています。たとえば、最近、神経研究所の研究により、脊髄小脳変性症の治療薬となりうるのもが発見されました。そのため、2017年現在、その精神研究所の研究成果に基づきながら、パーキンソン病・運動障害疾患センターで治験を行うプロジェクトの準備が始められています。

研究所とセンターが同じ施設内にあることで、研究から治験までの流れが非常にスムーズになります。日本国内では、これほど大きな規模で、神経難病の患者さんを診ながら、同じ敷地内に研究所があるという施設は、なかなかありません。

高橋祐二先生

多系統萎縮症は、未だ原因のわかっていない疾患です。しかし、さまざまな症状に対して、私たちのような専門の神経内科医師が中心となって、多職種チーム医療を実践し、定期的な評価、対症療法やリハビリテーションといった介入を早めに行うことで、症状を軽減させたり、合併症を予防したりすることができます。決して、治療法のない疾患ではありません。

そして、技術の進歩に伴い、多系統萎縮症の原因に関係するものがわかりはじめてきました。多系統萎縮症解明の兆しは見えてきています。これからの研究にぜひ期待していただきたいと感じています。

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