インタビュー

ライソゾーム病とは 代表疾患の症状や治療法について詳しく解説

ライソゾーム病とは 代表疾患の症状や治療法について詳しく解説
大橋 十也 先生

東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター センター長

大橋 十也 先生

この記事の最終更新は2017年10月12日です。

ライソゾーム病とは、ライソゾーム内にある酵素の欠損により起こる疾患の総称であり、約30種類が存在します。根本的な治療法はまだありませんが、酵素補充や、造血幹細胞移植、基質合成抑制療法といったものと対症療法を組み合わせた治療が実施されています。また、新たな治療法の研究も進んでいます。

今回は、東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター センター長の大橋十也先生に、ライソゾーム病の代表疾患であるファブリー病、ムコ多糖Ⅱ型、ゴーシェ病の原因や症状、治療法についてお話をうかがいました。

ライソゾームとは、細胞小器官の一つであり、体内でいらなくなった物質(蛋白質・脂質・糖質)をさまざまな酵素によって分解しています。そして、ライソゾーム病とは、その不要となった物質を分解する酵素などが、遺伝子の異常により欠損してしまっている疾患の総称です。

ライソゾーム病は、欠損する酵素の種類により分類されており、全部で約30種の疾患が含まれています。全種類の疾患の患者数を合計すると、日本では約千人の患者さんが存在すると推定されています。

上記でも述べたように、ライソゾーム病には約30種類の疾患が存在します。以下はその一部です。

  • ゴーシェ病
  • ニーマン・ピック病A型、B型
  • ニーマンピック病C型
  • クラッべ病
  • 異染性白質ジストロフィー(MLD)
  • ムコ多糖Ⅰ型
  • ムコ多糖Ⅱ型
  • ムコ多糖Ⅲ型
  • ファブリー病

ライソゾーム病のなかでも、患者数が多いものとして、ファブリー病、ムコ多糖Ⅱ型、ゴーシェ病が挙げられます。(MLD(異染性白質ジストロフィー)とクラッべ病についての詳しい説明は、『ライソゾーム病の一種であるMLD(異染性白質ジストロフィー)とは 原因から治療法まで』をご参照ください)

ファブリー病とは、αガラクトシダーゼという酵素が欠損することにより発症するライソゾーム病です。遺伝形式はX連鎖性劣性遺伝形式のため、患者さんの多くが男性ですが、女性でも発症するケースがあります(症状の重症度は、女性のほうが軽度です)。症状が現れる年齢は、平均的に男性の場合、4~5歳で、女性の場合は10歳頃です。

症状は、子どものころは、手足が痛くなる、汗をかかないなどといったものがあり、成人してからは、心臓の肥大化や腎不全脳梗塞といったものが現れます。

ムコ多糖Ⅱ型はイズロン酸―2―スルファターゼという酵素の欠損により起こるライソゾーム病です。ムコ多糖Ⅱ型の症状が生じる年齢は患者さんにより個人差が大きく、4~5歳のときに診断される方もいれば、成人になってから障害が出てくるという方もいます。主な症状としては、骨の変化、肝機能障害、知的障害、関節の拘縮(動きが制限される)、心臓の肥大などがあります。

ムコ多糖症について詳しくはこちら

ゴーシェ病とはグルコセレブロシダーゼという酵素の欠損により発症するライソゾーム病です。ゴーシェ病は、Ⅰ型、Ⅱ型、Ⅲ型にわかれています。Ⅰ型は成人で発症する成人型、Ⅱ型は乳児期に発症する乳児期型、Ⅲ型は乳児期と成人の中間で発症するものです。日本人は、Ⅱ型とⅢ型の患者さんが多いといわれています。症状は、中枢神経症状や、肝臓・脾臓の肥大、骨の変化、出血傾向になり貧血を起こすといったものがあります。

ライソゾーム病では、酵素などが欠如している状態にあるため、検査としては酵素の活性を測ります。血液検査のため、何歳からでも受けることが可能です。また、最近では遺伝子検査も行われています。

兄弟にライソゾーム病の患者さんがいる場合は、ライソゾーム病であることが多いため、早めに検査を受けることをお勧めしています。

点滴

2017年現在、ライソゾーム病を根本的に治す治療法は存在しません。しかし、症状の軽減や進行を遅らせる治療としては、酵素補充療法、造血幹細胞移植、基質合成抑制療法の3種類が本邦では行われています。そして、こういった治療法に加え、出てきた症状に対して治療を実施する対症療法を組み合わせています。

酵素補充療法とは、不足している酵素を点滴により補充するという治療法です。1~2週おきに病院へ通い、酵素を補充します。この治療を行うことにより、症状が軽くなったり進行速度をゆるめたりすることが可能となります。酵素補充は、ファブリー病、ムコ多糖Ⅱ型、ゴーシェも対象となっています。

造血幹細胞移植とは、一度患者さんの造血幹細胞をすべて破壊し、健康なドナーからの新しい造血幹細胞を移植するという治療法です。ライソゾーム病のなかでも、ファブリー病、に対しては行われておらず、ムコ多糖やその他のいくつかの疾患に対して実施されています。

移植した造血幹細胞が患者さんの体内に生着しなかったり、免疫反応が起こり合併症を引き起こしたりする危険を伴う治療法です。

ライソゾーム病は、ライソゾームのなかにいらなくなった物質が蓄積してしまう疾患です。そのため、基質合成抑制療法では蓄積する物質を作り出す酵素(基質)の活性を抑制します。基質合成抑制療法では経口薬(口から飲む薬)を使用し、対象となる疾患は、ゴーシェ病とニーマンピック病C型です。

シャペロン療法とは、酵素の安定化を図る治療法です。世界では、すでに承認されている国もあり、日本でも近々承認されるのではないかと期待されています。現在はファブリー病に対してのみ行われています。

遺伝子治療とは、欠損している酵素を作り出す遺伝子を、患者さんの細胞内に注入するという治療法です。現在はいくつかの疾患に対して治験が実施されています。遺伝子治療は一度の治療で済むため、頻繁に病院に通う必要はありません。そのため、学校に通っている患者さんでも、普段の生活に支障をきたさずに受けられる治療法です。

大橋十也先生

ライソゾーム病は非常に珍しい疾患であるため、ライソゾーム病専門の医師がいない医療機関ではなかなか検査・診断に至らず見逃され、症状が進行してしまうケースも少なくありません。そのため、ライソゾーム病を疑う症状があった場合は、早急に専門の医療機関へ紹介をしてもらい、検査と早い段階での治療を受けることが重要です。

  • 東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター センター長

    大橋 十也 先生
    • 小児科
    • 先天性代謝異常症
    • ライソゾーム病

    先天代謝異常症が専門。現在は主にライソゾーム病の診療並びに、治療法開発の基礎研究をマウスなどで行なっている。

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