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インタビュー

陰茎がんの検査や治療方法は?日常生活への影響もある?

陰茎がんの検査や治療方法は?日常生活への影響もある?
高本 大路 先生

横浜市立大学附属市民総合医療センター 泌尿器・腎移植科 助教

高本 大路 先生

湯村  寧 先生

横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター 泌尿器科部長・准教授、田園都市レディ...

湯村 寧 先生

この記事の最終更新は2017年11月06日です。

陰茎がんは希少がんであるために抗がん剤治療などの効果に関するエビデンスがはっきりと出ておらず、現在は手術による治療が有効であるとされています。しかし、手術では陰茎の切除を行うため、日常生活へ支障がでてしまうことが心配されます。陰茎がんの治療方法や、手術後の日常生活での注意点について、前回に引き続き、横浜市立大学附属市民総合医療センターの高本大路先生にお話を伺いました。

陰茎がんの検査は視診(目でみて診断する)で病変部の確認をします。記事1『写真でみる陰茎がん─初期症状や性感染症との違いとは?』でもお話ししましたが、尖圭コンジローマとの鑑別が難しい場合があります。また、尖圭コンジローマのほかにも陰茎に潰瘍を形成する性感染症や、亀頭が腫れる梅毒や陰茎での感染症の場合も陰茎がんとの鑑別をする必要があるため、組織生検(そしきせいけん:疾患が疑われた病変部を顕微鏡などで調べ、どういった疾患なのか診断する)を行います。

また、リンパ節転移や遠隔転移の有無を診断するためにCT検査を行うこともあります。さらに陰茎がんが進行している状態で受診された患者さんにはMRI検査を行い、骨盤のリンパ節の腫れを確認します。

陰茎に突然腫瘍ができた場合、患者さんはそれが感染症なのか、がんなのか悩んでしまうかもしれません。ご自身で陰茎がんに気づくためには、定期的に陰茎の状態をチェックしておくことが大事です。陰茎に腫瘍が発生して、心当たりがない場合には泌尿器科への受診を推奨しています。感染症の治療も重要でしょうし、陰茎がんの早期発見にもつながるのではないでしょうか。

陰茎がんの主な治療方法は、陰茎の部分切除あるいは全摘手術です。腫瘍切除(腫瘍だけを切除する術式)も行うことは可能ですが、この術式ではがんが残ってしまうリスクがあるため、横浜市立大学附属市民総合医療センターでは部分切除または全摘手術を推奨しています。

2017年現在、陰茎がんの治療に放射線を行っている施設はかなり限られています。陰茎は、通常やわらかく曲がっているので、形を保ったまま放射線をあてることが難しいからです。また、陰茎のみに放射線をあてることも現実的に難しいとされています。

欧米では陰茎に放射線を出す金属を挿入し、内部から放射線をあてる小線源療法や、陰茎を温存する手術が行われています。これらの方法は性機能やセクシャリティを考慮して行われていると考えられますが、日本ではセクシャリティよりがんの根治性を優先する傾向にあり、手術療法以外の治療はあまり普及していないのが現状です。

陰茎がんの患者さんは足の付け根が腫れた状態で受診される方が多くいます。足の付け根が腫れている場合は、がんがリンパ節に転移しているか、あるいは感染を起こしているサインです。この場合、抗生物質を処方し、腫れがひくかを確認します。腫れがひかなかった場合はリンパ節への転移が考えられるので、切除術の際にリンパ節郭清術(かくせいじゅつ:手術の際にがんだけではなく、がんの周りのリンパ節も切除する)を行う場合があります。しかし、海外のガイドラインでは推奨されていません。現在はリンパ節に針を刺し、組織を確認していますが日本で行っている施設は限られています。

陰茎の部分切除を行う際、横浜市立大学附属市民総合医療センターではがんの大きさによりますが、病変部から5ミリ~1センチ離して切除しています。2017年現在、がんから1センチ離して切除すれば陰茎にがんの断端が残らない(がんがすべて取り除かれる)といわれています。横浜市立大学附属市民総合医療センターで5ミリから切除している理由は後ほどお話いたしますが、日常生活への影響を少なくするためです。陰茎を短く切除してしまうと、排尿機能に影響がでてしまうからです。

3期までは手術療法が第一選択となります。術式は、腫瘍の発生した場所や、大きさなどで部分切除を行うか全摘になるかを検討します。

しかし、遠隔転移のみられる4期以降は陰茎にある腫瘍を切除することはできますが、遠隔転移したがんをすべて切除することは難しくなります。

陰茎がんのステージについては記事1『写真でみる陰茎がん─初期症状や性感染症との違いとは?』を参照)

4期の患者さんに対しては、すぐに緩和療法を始めるのではなく、抗がん剤治療を行い、がんやリンパ節の縮小などがあれば治療を行う場合もあります。また、排尿に支障がでないように陰茎から腫瘍だけを切除し、患者さんのQOL(クオリティオブライフ:人間らしい生活や自分らしい生活を送り人生に幸福を見出しているかとらえる概念)を維持するようにしています。

私たちは、陰茎がんが発見時点で4期であっても治療は可能であり、できることがあるのではないかと考えています。

陰茎がん 手術

陰茎を完全に切断し会陰部に尿道を植え替えた手術直後  高本大路先生よりご提供

陰茎がん 手術

陰茎がん手術直後、陰茎切除後縫合部分 高本大路先生よりご提供

陰茎がんの1期、2期の場合、5年生存率は90%ほどといわれています。また、抗がん剤治療を積極的に行うようになってから、3期の鼠径部(そけいぶ:左右の太腿の付け根部分)のリンパ節転移がみられる場合でも成績がよくなってきています。ですから、3期でも5年生存率が40%程度はあるといわれています。しかし4期になると予後は大変厳しくなっています。陰茎がんのステージ分類は記事1『写真でみる陰茎がん─初期症状や性感染症との違いとは?』を参照してください。

陰茎がんの手術後の再建は患者さんに要請されることは少ないですが基本的に形成外科の医師が行います。日本で陰茎の再建を行う場合は性機能のためではなく、主に切除した陰茎が短く排尿のコントロールが困難で、それを是正するという目的や周囲の人々から違和感をもたれないように尿道のない陰茎をつくるといった目的で行います。

部分切除を行った場合は陰茎自体が短くなりますが、長さがある程度残されているので立位での排尿が可能です。しかし、全摘を行った場合は尿道が上を向いてしまっている状態です。その状態で排尿をすると、睾丸に尿が伝わってしまい、性器を清潔に保てなくなり日常生活に影響を与えることがあります。

そのため陰茎を全摘する場合には、睾丸の後ろに尿道の出口を植え替えます。これにより、尿は睾丸の真下から出るようになります。この状態での立位での排尿は難しいため、座位での排尿になります。

また、部分切除を行った際には性機能が低下します。亀頭がなくなるので、勃起機能にも支障が生じ、性行為自体が難しくなります。先ほども述べましたが、放射線治療であればある程度は性機能が維持できると考えられます。日本で治療実績がないので、どの程度の性機能が維持できるかは不明です。しかし放射線を陰茎全体に当てるので、性機能障害は必発すると考えられます。手術では性機能が完全になくなりますが、放射線だと多少は望みがあるのではないでしょうか。しかし、陰茎がんの放射線治療を行える施設が少ないこともあり放射線治療はあまり普及していないのが現状です。

さらに鼠径部リンパ節郭清(そけいぶリンパせつかくせい:手術の際にがんだけではなく、がんの周りのリンパ節も切除する)を行った場合はリンパの流れが遮断されるために足のむくみが強くなる他、鼠径の皮膚が突っ張ってしまい歩行しにくくなることがあります。当科では極力足がむくまないような郭清を心がけており、術後社会復帰される方も数多くいらっしゃいます。

陰茎がんの早期発見で重要なことは、陰茎に違和感を覚えたらすぐに泌尿器科へ受診することだと考えます。繰り返しになりますが、陰茎がんは陰茎に腫瘍が発生するので患者さんは誰にも相談できずに長期間放置してしまい、がんが進行してから受診されることが多い疾患です。また、陰茎にがんが発生することがあまり知られていないことも受診が遅れる要因だと考えます。

そのため、陰茎に異変を感じたらすぐに泌尿器科に受診してください。陰茎には陰茎がんのほかにも、性感染症などさまざまな疾患が生じる可能性があります。泌尿器科が早期発見、加療を行っていくので、一人で悩まずに受診してほしいと考えます。

2017年現在、日本では陰茎がんの啓蒙活動などが行われていないのが現状です。しかし、陰茎がんのガイドライン作成に向けた取り組みは動き始めています。

陰茎に何らかの異変がある場合や、陰茎に腫瘍ができた場合にはすぐに泌尿器科への受診をするよう呼びかけることが、陰茎がんの啓蒙にもつながるのではないでしょうか。

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  • 横浜市立大学附属市民総合医療センター 泌尿器・腎移植科 助教

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    湯村 寧 先生

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