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病院経営のノウハウを若い経営者同士が共有できる場を!全日本病院協会・若手経営者育成事業委員会の活動

病院経営のノウハウを若い経営者同士が共有できる場を!全日本病院協会・若手経営者育成事業委員会の活動
中村 康彦 先生

医療法人社団愛友会 上尾中央総合病院 理事長

中村 康彦 先生

この記事の最終更新は2017年10月29日です。

時代と共に病院経営に対する考え方は変わり、「医師でなければ病院経営者になることはできない」という風潮は過去のものとなりました。しかし、優れた経営センスを持つ経営者でも、医師免許を有していないために医師主体の病院という組織には参加しにくいというハードルは依然として存在し続けています。このような垣根を取り去るために、全日本病院協会には非会員でも参加できる「若手経営者育成事業委員会」が設置されています。

また、医学部を卒業し、医師として臨床を行っていた事業継承者は、病院を引き継いで初めて「自分の病院の職員にさえ気軽に相談できない経営上の悩み」に直面することがあります。こうした若手経営者たちが抱える悩みを解消するために、若手経営者育成事業委員会が行っている3つの取り組みについて、全日本病院協会副会長の中村康彦先生にお話しいただきました。

1960年(昭和35年)に設立された全日本病院協会は、民間病院を中心とした全国組織です。この時代に開設された会員病院の多くは、近年になり同じタイミングで世代交代の時期を迎え、二代目あるいは三代目の事業継承者は、初代創設者とは異なるさまざまな問題に直面することとなりました。

民間病院の事業継承者とは、私もそうであるように初代の創設者の息子・娘であることが多く、大半は医学部を卒業し、事業を承継するまでの期間、大学病院などで医師として働いています。

医学部では勉学に励み、研修期間を経て、朝から晩まで臨床を行っている事業継承者は、経営を学ぶ機会を捻出することが難しく、いざ自分の病院へ戻って初めて財務諸表などを扱うこととなります。

困っている40~50代くらいの人

私自身も、現在理事長を務めている上尾中央総合病院に戻る直前まで、循環器を専門とする医師として大学病院で診療や後輩の育成にあたっていたため、自院に戻って初めて「経営者としてわからないこと」の膨大さを知ることとなりました。

先に触れた財務諸表の見方など、病院経理の知識や医療制度の詳細は、医学部や大学病院では学びません。しかし、いわゆる「跡継ぎ」として自院に戻ってきた手前、職員に対し「入院基本料とは」「診療報酬改定とは」などと気軽に質問するのも憚られます。

このような経験から、二代目、三代目病院経営者ならではの悩みを共有できる場を設けたいと考えたことが、全日本病院協会・若手経営者育成事業委員会を設置したきっかけです。

世代交代に際しては、上述のような実務上の問題だけでなく事業継承者ならではの問題にも直面します。たとえば、相続税により病院事業の維持が難しくなってしまうケースも起こり得ます。これも、二代目、三代目だからこそ抱える特有の問題といえるでしょう。

全日本病院協会のなかに委員会を設けるときには、どのような委員会であっても必ず常任担当常任理事を委員長に選出します。若手経営者育成事業委員会設置時には、その委員会の特性から最も若い人を選ぼうという意見が集まり、結果として当時40代半ばと最年少だった常任理事の私が委員長になることとなりました。

こうして、今から約6年前に若手経営者育成事業委員会はスタートを切ったのです。

若手経営者育成事業委員会には、いくつかの画期的な特徴があります。そのひとつが、医師免許を持っていない方でも気軽に参加していただけるということです。

これまで、全日本病院協会のメンバーの中心は医師免許を持っている医師会員でした。しかし、現代は医師免許の有無に関わらず一定の条件を満たしている方が病院を引き継いでいく時代です。民間病院の経営者として最も重要な資質は経営センスであり、医師免許はあくまでそれに付随するものになりました。時代は変わり、病院経営者は医師でなければならないという風潮や考え方は、もはや過去のものとなっています。

ところが、経営センスに優れ、共有できる実例やスキルを多々有している若い病院経営者であっても、医師免許を持っていないがゆえに全日本病院協会には入りにくいという問題点があります。このような「とっつきにくさ」は、今後組織の若返りや会員増強を図るためにも変えていかねばならない全日本病院協会の弱点といえるかもしれません。

若手経営者育成事業委員会は、全日本病院協会がその歴史のなかで築いてしまったハードルを取り払うための委員会にもなり得ると感じています。実際に、以降でご紹介する活動には多様なバックグラウンドを持つ非医師、非会員の経営者の方も参加され、事業を承継した際に経験された実例を闊達に共有し合っています。

セミナー

若手経営者育成事業委員会が毎年必ず行っている活動は、大きく3つ挙げられます。そのひとつが、医療や介護の経営コンサルタントをご専門とされている公認会計士・川原丈貴先生を講師に招いて行なう病院財政の勉強会です。先述したように、臨床に携わっていた二代目、三代目の事業継承者が最初にぶつかる壁のひとつには、経理の問題があります。私自身もそうであったように、長い間医療現場にいた継承者の多くは、病院の経理や税務に関する専門的な知識を充分に有しているわけではありません。実際に、控除対象外消費税を自分の病院で負担していることを知らず、事業を継承してはじめてこの事実を知り、驚愕されたと述べられた方もおられます。

そこで、毎年2月に開催している勉強会では、「誰にも聞けない病院財務諸表の見方」をテーマとしています。病院会計準則に基づき、最低限確認すべき数字など、病院経理の初歩的な知識を獲得できるような講座内容にしているため、特に医療を畑としていた事業継承者の方からは「大変役立つ」と好評の声をいただいています。

2つ目にご紹介する活動は、経営の手本となるようなシステム導入や創意工夫を行っている会員病院への訪問見学です。詳しくは記事2『スムーズな事業継承や老朽化した病院のリニューアル-二代目ならではの悩みを解消するために』に記載しますが、初回は私が理事長を務める上尾中央総合病院に来ていただき、新棟のリニューアル時に工夫した点などをご紹介しました。

病院見学は昼間に行いますが、この取り組みをさらに意義あるものに高めているのは、訪問日の夜に開催するクローズドな懇親会です。

懇親会のなかでは、その日見学に行った病院の優れていた点や倣いたい点について、直接その経営者の方に質問し、フィードバックを受けることができます。クローズドな場だからこそ、普段はなかなか聞く機会のない直接的な質問や、ざっくばらんな回答も飛び出します。

手と手を合わせる

病院経営のあり方も時代と共に変化しており、現在では民間病院であっても自院の手技手法を隠すのではなく、共有して皆でよりよい医療を作り上げていこうとする考え方が主流となりました。もちろん、同じ地域に位置しているライバル病院同士であればノウハウを共有することでリスクが生じることもあるかもしれません。その点、全日本病院協会は全国組織という強みを持っているといえます。

たとえば、神野正博先生が理事長を務める石川県の恵寿総合病院に見学に行き、埼玉県の上尾中央総合病院にノウハウを持ち帰って活かすのであれば、経営上不利になるような問題は起こりません。これまで開催した病院見学の具体例や共有し合った情報の一例については、記事2『スムーズな事業継承や老朽化した病院のリニューアル-二代目ならではの悩みを解消するために』で詳しくご紹介します。

3つ目にご紹介する活動は、各地で年1回行われる全日本病院協会学会初日の夜に行われるナイトフォーラムです。若手経営者育成事業委員会を立ち上げる以前には、若手会員が自由に意見を出せる場として、ヤングフォーラムと呼ばれる若手の集会を学会プログラムとして行っていました。

その意味では、ヤングフォーラムは現在のナイトフォーラムの前身であるともいえます。ただし、ナイトフォーラムは学会プログラムに掲載されていないというユニークな特徴があります。

学会場や付近のホテルの一部屋を借りて開催するナイトフォーラムの詳細情報は、学会に参加される方のみに通知します。(一度でも若手経営者育成事業委員会企画の会合に参加された方には必ずお知らせしています。)

自由参加、自由解散制をとり、アルコール類の持ち込みも歓迎しているこのナイトフォーラムは、現在では若手経営者育成事業委員会屈指の活動として、大変な盛り上がりをみせています。

近年のナイトフォーラムには、若手と呼ばれる参加者が日ごろ直接話をする機会を得られないような重鎮クラスの先生方も陣中見舞いに来てくださるようになりました。オフィシャルな集まりではないというメリットが活き、こうした先生に対して若手参加者も闊達に質問をしています。これに対し、熱意を汲み取ってくださった先生方も、公式な場とは異なる口調で的確なアドバイスを行なうという、非常によい化学反応が起こっています。

昨年のナイトフォーラムのテーマは病床機能報告制度でした。テーマとプレゼンターは私たち委員会で決定しますが、ある程度の方向づけを行った後は、若い方々のエネルギーに任せられるようフリートーク形式をとっています。議論は熱を帯び、最終解散は深夜1時以降まで及びます。

普段語り合う機会のない世代の先生を近くに感じられること、全国に同じ悩みや疑問を持つ相談相手ができること。多くのメリットを得られるナイトフォーラムは大変好評を博しており、今では参加者数も100人を越えるまでになりました。

病院経理などの勉強会、病院見学、ナイトフォーラム、以上3つの取り組みが現在の全日本病院協会・若手経営者育成事業委員会の主要な活動となっています。