インタビュー

細菌性髄膜炎の症状・原因・予後

細菌性髄膜炎の症状・原因・予後
亀井 聡 先生

上尾中央総合病院 神経感染症センター センター長

亀井 聡 先生

この記事の最終更新は2017年11月28日です。

脳のまわりを覆う髄膜に炎症が起こる髄膜炎のうち、細菌の感染を原因とするものを「細菌性髄膜炎」といいます。細菌性髄膜炎は1〜2日で症状が急激に悪化し、早期に適切な治療を施さない場合、死亡するケースや、重篤な後遺症を残すケースにつながります。細菌性髄膜炎の症状、原因、患者さんの予後について、日本大学医学部 神経内科学分野の亀井聡(かめい さとし)先生にお話を伺いました。

髄膜炎とは、脳のまわりを覆う髄膜という部分に起こる炎症をさします。(一方、脳そのものに起こる炎症を、脳症といいます。)髄膜炎の原因の一部に、ウイルスやカビ、細菌などの感染があり、細菌性髄膜炎は、そのうち細菌によって起こる髄膜炎をさします。

日本における細菌性髄膜炎の発症頻度は、年間に1,500名ほどです。そのうちおよそ7割が小児に、3割が成人に起こります。(髄膜炎全体でみると、新生児から高齢者まで特に好発年齢はなく、すべての年齢層に発症します。)

細菌性髄膜炎は基本的に、早期に適切な治療を行うことがもっとも重要なポイントになります。なぜなら、細菌性髄膜炎は早期に適切な治療をしなければ命を落とす、もしくは後遺症を残すことがあり、神経系の救急疾患といえるからです。

そこで私たちは2014年に、日本における細菌性髄膜炎の診療ガイドラインを作成し公表しました。この診療ガイドラインは小児科と神経内科の医師が集まり、日本神経学会、日本神経感染症学会、日本神経治療学会の3学会合同で作成したものです。

※細菌性髄膜炎の検査と治療、診療ガイドラインについては記事2『細菌性髄膜炎の検査・治療』でご説明します

細菌性髄膜炎では、まず頭痛が起こり、加えて急激に悪化する意識障害も高確率で起こります。通常、1〜2日という短い間に症状は悪化します。また脳まで髄膜の炎症が達して脳が腫れてくると、頭蓋内の圧力が上がり吐き気や嘔吐を起こすこともあります。これを、頭蓋内圧亢進(こうしん)症状と呼びます。

細菌性髄膜炎は、細菌感染によって起こる髄膜炎であるとご説明しましたが、原因となる細菌にはさまざまな種類があります。また、年齢階層別に市中感染(医療機関以外の一般環境で起こる感染)を起こす主たる細菌には、以下のような傾向があります。

【1か月未満】
B群溶連菌(50〜60%)
大腸菌(20〜30%)
インフルエンザ菌(5%)
肺炎球菌(5%未満)
クレブシエラなど腸内細菌(10%)
その他

【1か月〜3か月】
B群溶連菌(40〜50%)
大腸菌(5〜10%)
インフルエンザ菌(10〜20%)
肺炎球菌(5〜10%)
クレブシエラなど腸内細菌(5%)
その他

【4か月〜5歳】
肺炎球菌(60%以上)
インフルエンザ菌(20〜30%)
その他

【6〜49歳】
肺炎球菌(60〜65%)
インフルエンザ菌(5〜10%)
髄膜炎菌(5%以下)
その他

【50歳以上】
肺炎球菌(80%)
インフルエンザ菌(5%)
黄色ブドウ球菌(5%以下)
菌(5%以下)
大腸菌(5%以下)
その他

成人と50歳以上に起こる細菌性髄膜炎の原因としてもっとも多いのは、肺炎球菌です。小児の細菌性髄膜炎については、以前はインフルエンザ菌が非常に多かったのですが、ワクチン接種の普及により徐々に減少し、現在では4か月〜5歳の細菌性髄膜炎の原因として肺炎球菌がもっとも多くなっています。

細菌性髄膜炎はウイルスによる感染と異なり、飛沫感染(感染者の咳・くしゃみなどによって空気中に飛び散った病原菌を吸い込んで感染する)はしません。基本的には、副鼻腔炎中耳炎などによって菌を保有していると、菌が頭蓋内に入り込むことで感染します。そのため、副鼻腔炎や中耳炎になった場合にはきちんと治療を行うことが大切です。

上記のような市中感染のほかに、院内感染や、脳外科の手術後に二次的に起こる髄膜炎もあります。脳外科の手術後に起こる二次的な髄膜炎の原因は、ブドウ球菌が圧倒的に多いことが知られています。

日本では、肺炎球菌に耐性菌(抗菌薬に対する抵抗性が著しく高く効果を示さない菌)が多いことや、インフルエンザ菌に多剤耐性菌(複数の抗菌薬に対して抵抗性を獲得した耐性菌)が増加していることが問題になっています。ある菌のうち耐性菌になっている割合を「耐性率」といい、日本ではさまざまな菌の耐性率が高いことがわかっています。

耐性菌が増加する要因の一部には、日本の風土や抗菌薬の使い方が影響していると考えます。たとえば風邪を引いたとき、患者さんは「抗生物質(抗菌薬)をください」と要望することが頻繁にあり、要望に応じて抗生物質(抗菌薬の一種)を処方する医師が多いのです。風邪の原因はウイルスですから、抗菌薬は効果を示しません。しかし患者さんは抗菌薬を欲しいと訴え(日本の風土)、医師は処方できる(抗菌薬の使い方)というサイクルが成立してしまうのです。欧米では風邪に対して抗菌薬はあまり使われません。日本では、このような抗菌薬の不適切な処方・使用によって、耐性菌や多剤耐性菌が増えている可能性があります。

細菌性髄膜炎を発症した患者さんの予後は、年齢や状態、菌の種類によってケースごとに異なるため一概に申し上げることは難しいです。傾向として、高齢者が髄膜炎を発症した場合は死亡例も多く、予後がよいとはいえません。一方で、小児の髄膜炎は治療によって完治するケースも多々あります。また先述した多剤耐性菌を原因とする細菌性髄膜炎の場合は、治療が困難であるため、予後が悪くなる可能性があります。

転帰不良となる(通常の生活に戻れなくなる)最大の要因は、患者さんの年齢が高いことと、適切な治療を開始した時点の意識障害の程度が重い場合です。意識障害が軽ければ、治療によって回復する可能性は十分にありますが、たとえば治療を開始した時点で昏睡状態に陥っているケースなどは、治療後に重篤な後遺症が残ることが予期されます。

【細菌性髄膜炎によって残りうる後遺症】

  • 耳の機能障害
  • 目の機能障害
  • 歩行機能障害
  • 遷延性(せんえんせい)認識障害:重度の昏睡状態
  • 社会生活を営むうえで問題となるほどの認知機能の低下や判断力低下
  • 症候性てんかん(脳の障害などを原因とするてんかん)  

など

皮膚や肺などのあらゆる臓器には再生能力があるため、怪我や病気で損傷しても時間経過とともに細胞が再生していきます。しかし、脳の細胞は再生能力が極めて乏しく、損傷した場合、もとに戻ることが非常に難しいです。後遺症を残さないためにも、細菌性髄膜炎に対しては早期に適切な治療を行うべきであると考えます。

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