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大動脈解離の治療方法とは?

大動脈解離の治療方法とは?
宝来 哲也 先生

国立国際医療研究センター 心臓血管外科 元科長・非常勤、北里大学医学部 診療准教授

宝来 哲也 先生

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この記事の最終更新は2018年01月29日です。

 

大動脈解離は、大動脈が裂けることによって胸や背中に激しい痛みが生じる疾患です。

大動脈は内側から順に、内膜、中膜、外膜の3層構造になっていますが、最も内側にある内膜に亀裂が生じると、その亀裂を通して内膜の外に血液が流れ出てしまいます。その原因としては、動脈硬化の進行と高血圧が挙げられ、まれに事故等による外傷性の場合もあります。

内膜から勢いよく流れ出た血液は層構造を壊し、最悪の場合には破裂したり、臓器の血流を阻害したりする恐れがあり生命に関わる状況となります。そのため、大動脈解離が疑われる場合は、正確な診断によって速やかに治療を行うことが大切です。

本記事では、大動脈解離の分類と治療方法について、国立国際医療研究センター 心臓血管外科科長 宝来哲也先生にお話しいただきました。

大動脈解離は、解離が生じた部位や広がりによって分類されます。一般的に用いられるスタンフォード分類では、解離している部位によってA型B型の2種類に分けられ、それぞれ治療方法が異なります。

心臓から頭に向かう上行大動脈に解離がみられる場合はA型に分類されます。A型の大動脈解離は発症から時間が経過するごとに、血管破裂や心タンポナーデ*による死亡のリスクが高くなるといわれています。

そのため、緊急の開胸手術を行い、裂けている血管を人工血管に置き換える「人工血管置換術」が行われることが一般的です。また必要に応じて、血流を改善するための「人工血管バイパス術」という手術が行われることもあります。(大動脈解離の手術についてはこちら(記事2『大動脈解離の手術方法とは?』)をご覧ください。)

心タンポナーデ:心膜腔(しんまくこう:心臓と、心臓を包む膜 [心膜] のあいだ)に血液が貯まり、心臓を圧迫することで、心音微弱、形成脈怒張、低血圧、呼吸困難といった症状があらわれる状態のこと

一方、上行大動脈に解離がなく、下行大動脈のみに解離がみられる場合はB型に分類されます。

B型の大動脈解離はA型に比べると破裂と心タンポナーデのリスクが低いため、血圧を下げる薬を使った内科的降圧療法を行い、ベッド上の安静で対処できる場合があります。しかしB型のなかでも腹部臓器の血流障害や血管破裂の恐れがあると判断されれば、ステントグラフト(金属の骨組みをもつ人工血管の一種)を使った血管内治療や、A型の大動脈解離と同様の手術が必要な場合もあります。

血管に亀裂が入ると、本来の血液の通り道ではない血管壁内部に腔(隙間)ができます。これを偽腔(ぎくう)と呼びますが、A型のなかでも偽腔が固まりかけている「早期血栓閉塞型」というタイプの大動脈解離は、緊急手術を行わずに経過観察のみで対処する場合があります。

もちろん、早期血栓閉塞型の大動脈解離でも死亡リスクが高いと判断されれば手術を行います。具体的には以下の条件にひとつでも当てはまれば死亡リスクが高まると考えられています。

早期血栓閉塞型の大動脈解離でも死亡リスクが高い場合

  • 血栓の厚みが11ミリを超えている
  • 上行大動脈径が50ミリを超えている
  • 血管が完全に破裂している
  • 脳や腸、肝臓などの臓器の虚血がみられる
  • 外膜一枚で血流を抑えきれなくなり、血液が染み出して貯留し、心臓を圧迫している(=心タンポナーデ

特に心タンポナーデの状態に陥ると、血液が心臓を圧迫し、心機能を妨げてしまうため早急に対処しなければなりません。

救急車

B型の大動脈解離で、血管が破裂しかけていたり、本来の血管が偽腔に押されて狭くなることで腹部臓器(特に腸管)の血流が悪くなっていたりする場合には、ステントグラフトを使った血管内治療が行われることがあります。

ステントグラフトとは金属の骨組みをもつ人工血管の一種で、これを血管内から挿入することによって下行大動脈の内膜の亀裂を塞ぎます。内膜の亀裂を塞ぐと偽腔への血流を遮断することができるため、血管の破裂や血流障害を予防することが可能です。

ステントグラフトは、開腹・開胸せずに行えるというメリットがあります。

しかし、大動脈の状態によってはステントグラフトのみで十分に治療できないケースもあります。そうした場合には、開腹・開胸手術などが必要になることもあります。

大動脈解離の治療方法において、直接的に解離を治す薬剤はありません。ただし大動脈解離の患者さんは、A型・B型の分類や、手術を受ける・受けないにかかわらず、薬剤を使って血圧をコントロールします。これは、大動脈解離では、血管内の圧力が高いほど内膜が引き裂かれる力が大きくなると考えられているためです。そのため大動脈解離に対しては、血圧を100〜120mmHg以下にすることを目指した「内科的降圧療法」が行われます。

薬

大動脈解離は一般的に、診断がついたら、早急に緊急手術を開始します。手術時間は、治療の内容によって異なります。術後は入院して、経過観察・リハビリを行います。

一方、前述の通り大動脈解離には緊急手術の必要がない場合もあります。その場合には約2週間、入院しながら血圧をコントロールするための内科的降圧療法を行います。

臓器の虚血や合併症が認められない大動脈解離の治療成績は、改善傾向にあります。これは手術の際の人工心肺の使用方法の改善や、手術手技の向上、あるいは麻酔科医の施行する術中の経食道心エコーの画質の向上などが要因であると考えられます。さらに、診断技術が向上し、発症から手術開始までの時間が短くなったことが患者さんの生存率向上に大きく関わっていると考えられます。
 

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