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大動脈解離の手術方法とは?
 大動脈解離とは全身への血液循環の大本となる大動脈が何らかの原因によって裂けてしまうことで、血管破裂や血流障害の危険性がある生命にかかわる疾患です。大動脈解離は大きくA型とB型の2種類に分けられ...
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大動脈解離の手術方法とは?

公開日 2018 年 01 月 30 日 | 更新日 2018 年 06 月 15 日

大動脈解離の手術方法とは?
宝来 哲也 先生

国立国際医療研究センター 心臓血管外科 科長/北里大学医学部 診療准教授

宝来 哲也 先生

目次

 

大動脈解離とは全身への血液循環の大本となる大動脈が何らかの原因によって裂けてしまうことで、血管破裂や血流障害の危険性がある生命にかかわる疾患です。大動脈解離は大きくA型とB型の2種類に分けられ、それぞれで治療方法が異なります(詳しくはこちら記事1『大動脈解離の治療方法とは?』をご覧ください)。

A型の早期血栓閉塞型の大動脈解離、B型の大動脈解離の場合は、保存的に経過をみることが可能なこともありますが、A型の大動脈解離の場合、一般的に手術によって裂けている血管を人工血管に置き換える手術治療が行われます。

本記事では、主にA型の大動脈解離で用いられる「人工血管置換術」や、途絶している血流を改善するための「人工血管バイパス術」といった、大動脈解離の手術方法や適応、術後などについて国立国際医療研究センター 心臓血管外科科長 宝来哲也先生にお話を伺いました。

大動脈解離の手術方法−人工血管置換術と人工血管バイパス術

大動脈解離の治療方法は、大動脈の亀裂や血流の状態によってさまざまです。上行大動脈が解離しているA型の大動脈解離の場合は人工血管置換術という手術によって、解離した大動脈を人工血管に置き換える治療が行われます。

また、解離によって大動脈から分岐する血管に血流障害があり、臓器の虚血がみられる場合には人工血管バイパス術を行うこともあります。

人工血管置換術

大動脈解離の手術では、解離した大動脈を人工血管に置き換える「人工血管置換術」を行うことがほとんどです。ただ、どの部分を人工血管に置き換えるかは解離の進展具合で決まるため、人それぞれとなります。

上行大動脈のみ人工血管に置き換える場合もありますし、心臓の出口の弁から頭に向かう血管すべてを置き換えることもあります。大動脈内膜の亀裂の場所や血流などさまざまなことを総合的に考慮して、人工血管に置換する範囲を決定します。

人工血管は感染などの問題が起きなければ、メンテナンス不要で永続的に使用することができます。

人工血管置換術
宝来先生よりご提供:人工血管は置換する部位に応じて形状や分岐の数が異なる

人工血管バイパス術

人工血管バイパス術とは、細い人工血管を使用し、バイパス血管をつなぐ手術です。たとえば足の血流が途絶している場合には、足の血管と、血流が障害されていない肩の血管を人工血管でつなぐことで血流を改善することもあります。

大動脈解離による血流障害が起こり、脳や腸など臓器への血流が途絶し全身状態が悪化している場合は、患者さんの体への負担が大きい開胸・開腹の人工血管置換術を行うのは困難な場合があります。

しかし人工血管バイパス術によって血流を改善させた後に、人工血管置換術を行うことが可能になる場合もあります。

大動脈解離の手術時間

人工血管置換術は人工心肺装置を使って一時的に心臓の動きを止め、体温を25度くらいに低下させて実施する大規模な手術です。人工血管に置き換える範囲にもよりますが、手術時間は4〜8時間くらいかかります。

また患者さんの状態によっては、人工血管置換術を行う前に、滲み出ている血液を吸い出したり、血流を改善させたりする治療を行わなければならない場合もあり、その際には手術がさらに長時間に及びます。

手術

大動脈解離で手術できない・手術しない場合とは

高齢の患者さんでもADLに問題がなければ手術適応となる

A型の大動脈解離、B型のなかでも腹部内臓の血流障害や血管破裂の恐れがある大動脈解離の場合は、まず人工血管置換術を行います。

一般的に高齢の方への手術は懸念されることがあります。しかし大動脈解離の場合、80代後半の患者さんでもご自身で歩いたり、ご自宅でトイレに行ったりするなどADL(日常動作)に問題がなければ手術を行います。高齢の患者さんに手術を行う場合、長時間に及ぶ開胸・開腹での手術となるため合併症が起こりやすく、入院期間が長くなる可能性があります。

高齢者

手術できない場合とは

救急搬送されてきた時点で、解離による脳への血流障害により患者さんの意識がない場合には手術が難しいことがあります。ただし、血管の裂け目が不安定で血流が良くなったり悪くなったりを繰り返しているため、意識がなかった患者さんが意識を回復することがあります。その場合、意思疎通が行える程度に意識が回復すれば手術に踏み切ります。また、自力での歩行が難しいなどADL(日常動作)が低い患者さんも手術後に適切なリハビリを行うことができず、手術からの回復が難しいと考えられる場合は、保存的に経過観察を行う場合があります。

手術しない場合とは

記事1『大動脈解離の治療方法とは?』でも述べたように、B型の大動脈解離やA型の早期血栓閉塞型の大動脈解離の場合は、例外をのぞいて手術を行わずに保存的な治療を行います。

その他にも、ジャパンスコア(Japan SCORE)の手術リスクの解析結果によっては手術を行わない場合があります。ジャパンスコア(Japan SCORE)とは、データベースに基づいて、患者さんのおおよその手術リスクを解析する機能で、解析の結果、術後死亡リスクが50%を超える患者さんには経過観察をすすめることがあります。

大動脈解離の手術で起こりうる合併症・後遺症とは

大動脈解離の手術により起こる可能性が考えられる合併症には、以下のようなものが挙げられます。

大動脈解離の手術で起こりうる合併症・後遺症

  • 脳の合併症
  • 心臓・肺の合併症
  • 脊髄麻痺
  • 反回神経麻痺

脳の合併症

大動脈解離の患者さんの手術では、頭に分岐する血管付近の大動脈を人工血管に置換するため、脳への血流が不安定となります。一般的に脳を保護するため、25度くらいの低体温で、脳につながる血管に直接血流を送りながら手術を行いますが、脳梗塞や失神などの後遺症をきたすような合併症を起こす可能性があります。特に解離によって脳への血管にも裂け目がある場合は、そのリスクが高くなります。

心臓・肺の合併症

人工血管置換術は、胸を大きく開く手術であるため、心機能の低下や肺炎など、心臓や肺に合併症が起こる可能性があります。特にもともと心臓や肺の機能が弱い患者さんは、心臓や肺の合併症が起こることがあります。

脊髄麻痺

脊髄へ血液を送っている動脈が閉塞すると血流障害が起き、脊髄麻痺を起こす可能性があります。脊髄麻痺は、背骨付近にある下行大動脈の手術で起こりやすいと考えられており、下半身不随のような重大な後遺症を引き起こすことがあります。

反回神経麻痺

声帯を動かす反回神経の、手術による損傷あるいは炎症によって反回神経が麻痺すると、嗄声(させい:声がかすれる)や誤嚥(ごえん:食べ物が誤って気管内に入る)などの症状が起こります。

嗄声の症状がある患者さんのなかには、半年から1年くらい経つと元通りに発声できる方もいらっしゃいますが、耳鼻科で治療が必要な方もいらっしゃいます。誤嚥はリハビリで訓練したり、ゆっくりよく噛んで食事したりすることで改善していきます。

喉を抑える人

大動脈解離の予後

リハビリ

リハビリでは、まず少しずつ体を起こす、歩く、そして自転車を漕ぐといった動作を段階的に行います。リハビリのゴールとしては、最終的には階段の上り下りができるようになるなど、患者さんご自身で問題なく日常生活を送ることを目指します。

ただしリハビリが完了してご自宅に戻られてからも、炊事・洗濯・買い物などの日常生活を1人で行うことは、患者さんにとって大きな負担になると考えられます。可能であれば、術後1か月くらいはご家族など身近な方にサポートしていただくことが望ましいでしょう。

手術後の痛み

大動脈解離の手術は開胸あるいは開腹で行うため、患者さんの体への負担が大きく、手術後も数か月痛みが残る場合があります。このような痛みへの対策として、痛み止めの薬を内服していただくことがあります。痛み止めの薬を内服すれば、ほとんどの患者さんは日常生活に支障がないくらいに痛みを抑えることが可能です。

手術後の生活の注意点

患者さんには大動脈解離の手術後、ゴルフや釣り、筋力トレーニングなども含め激しい運動を行わないように指導しています。なぜなら人工血管置換術を行う際に胸の真ん中にある胸骨を縦に切開するため、手術後2、3か月は骨折したときと同じ状態にあるからです。

また大動脈解離の治療では、血圧のコントロールが非常に大切です。そのため塩分制限を行うなど食事内容に気をつけていただきます。さらに食事内容だけでなく、ゆっくりとよく噛んで食事することに気をつけていただき、手術の合併症で起こりやすい反回神経の麻痺による誤嚥を防ぎます。

食事している人

人工血管の感染を防ぐために

人工血管置換術の手術の場合、わずかではありますが、人工血管による感染が起こる可能性があります。特に術後から人工血管に膜が張って定着するまでの数か月間は感染を起こしやすいので注意が必要です。たとえば人工血管に内膜が定着するまでの間に歯の治療を行う場合は、歯科医に申告し、抗生剤を内服するなど少しでも感染を防ぐように気をつけることが大切です。

宝来先生からのメッセージ

定期的に経過観察をし、必要に応じて治療する

大動脈解離の治療後、患者さんは、後遺症がなければ日常生活に戻ることができます。

しかし人工血管置換術では、心臓から頭に向かう血管周囲のみを人工血管に置き換えるため、手術後でも下行大動脈には解離が残存し、B型の大動脈解離の状態になる患者さんもいらっしゃいます。

B型の大動脈解離の場合、血圧のコントロールを行えば手術が必要ない場合がほとんどですが、残存解離が広がっていないかどうかCT検査を行って定期的に経過をみていかなければなりません。そして残存解離が大きくなり、5.5cmを超えると、下行大動脈を人工血管に置き換えたり、ステントグラフトでの治療を行ったりします。

宝来先生

前向きに治療に臨んでいただきたい

大動脈解離は、救命のために緊急手術が必要であることが多いため、生命にかかわる非常に深刻な病気であるといえます。しかしあまりネガティブにならずに、担当の医師と相談しながら前向きに治療に臨んでいただきたいと思います。

手術後も残存解離がある患者さんはいらっしゃいますが、基本的には急速に進行するような病気ではありませんので、専門知識のある医師のもと、「大動脈解離と付き合っていく」という気持ちをもって、必要に応じて治療を受けることが大切です。

大動脈解離 (宝来 哲也 先生)の連載記事

東京大学卒業後、東京大学医学部附属病院および関連病院などでの勤務を経て、2006年に渡米。
2016年からは、北里大学医学部 診療准教授
国立国際医療研究センター 心臓血管外科 科長 を務める。
豊富な臨床経験で心臓血管外科分野のあらゆる手術に対応している。

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