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インタビュー

転移性肝がん(肝転移)の治療─転移は健診ではみつからない?

転移性肝がん(肝転移)の治療─転移は健診ではみつからない?
山本 雄造 先生

秋田大学医学部附属病院消化器外科  科長・教授

山本 雄造 先生

この記事の最終更新は2018年01月29日です。

肝転移は原発巣のがんが肝臓に転移をしているため、がんのステージ分類ではステージ4と診断されます。(肝転移をきたしている場合のステージ分類については記事1『転移性肝がん(肝転移)とは─肝臓に転移したがん』を参照してください。)肝転移をきたしていても治療は可能なのでしょうか。肝転移の検査や治療について、前回に引き続き秋田大学医学部附属病院、消化器外科教授の山本雄造先生にお話を伺いました。

カルテ

がん剤による治療と、手術による切除で肝転移の治療は可能です。抗がん剤治療もがんの種類によってはかなりの効果を期待できるようになりましたが、2017年現在でもすべてのがん細胞を死滅させてしまうことは困難なため、肝切除による手術治療が大きな役割を果たしています。

肝臓は再生能力のある臓器ですので、部分的に切除しても時間が経てば元の大きさに戻ることができます。そのため、肝転移病巣をすべて手術で除去してしまえるかどうかかが予後に大きく影響します。

肝転移は超音波検査やCT検査を行わないと発見することが難しいです。健康診断では超音波検査やCT検査を行うことは少ないため、発見は遅れてしまいます。

また、肝転移は、患者さんが自分の肝臓は病気によって変化が起きているかもしれないと疑って検査を受けないとみつけることは困難です。

転移性肝がん(肝転移)の治療は、そのがんがどの臓器を原発としたがんなのかによって治療に違いが現れます。かつては肝転移があると手術の適応はないといわれていましたが、大腸がんの場合には効果的な抗がん剤の開発により、近年では原則として抗がん剤を使用した化学療法と手術治療の併用が検討されています。

その一方、膵臓がん胃がんなど、大腸がん以外で肝転移をきたしている場合はいまだ手術治療は困難といわれています。

たとえば、膵臓がんで肝転移をきたしている場合に、手術を行うことは可能です。しかし、肉眼では視認できない小さいがんが取り切れず残ってしまうことが多くあり、患者さんが手術の恩恵を得られることが少ないです。

以下の項目では大腸がんの肝転移をきたしている場合の治療について解説します。

大腸がんの肝転移の治療では肝切除や抗がん剤治療を主に行います。がんの大きさや広がりによって、肝切除を行うか決めます。肝切除を行った場合でも、手術をしてから再発を予防するために一定期間、抗がん剤治療を行うのが一般的です。

一方、肝切除ですべての病巣が取りきれない場合には抗がん剤治療が選択されます。肝切除の適応がないと判断されて抗がん剤治療が選ばれた場合でも、その効果が良好で、肝切除が可能になった場合に再度肝切除が検討される場合もあります。

肝切除による治療が可能であると判断された場合でも、肉眼的にみえないがんが術後に再発としてあらわれる場合があります。特に、肝切除の場合には残った肝臓を再生させようとする因子が放出、それにより残されたがん細胞も増殖することがあります。

これを防ぐために、まず、抗がん剤治療を先に行って肉眼的にみえないがんを治療した後に肝切除を行うことがあります。

また、がんを小さくするために先に抗がん剤治療を行うこともあります。肝は切除量が大きくなると術後に肝不全をきたす場合があるため、切除量を減らす目的でがんを小さくしてから手術を行うという戦略です。

一般的にはがんが最初にできた原発巣である大腸のがん切除を行います。原発巣を治療できたことが確認できた後に2期的に転移先である肝臓の切除などの治療に移ります。2回に分けて手術を行う理由としては、肝切除を同時に行うことで大腸の手術で縫合不全などの合併症が増加することを防止することと、肝転移巣がさらに増えてこないかを見極めるための時間を置くこととされています。

しかし、近年では肝切除手術に習熟している施設では1期的に同時切除を行うほうがトータルの合併症量も少なく、医療費も抑えられるという報告もあります。

この治療方法は一例です。治療方法は患者さんの意志と、がんの進行状態で決定していきます。

近年では、同時性に肝転移がみつかった場合に転移巣(てんいそう:転移した部位)から先に治療をする考え方もあります。

たとえば、大腸がんの手術後になんらかの合併症がでると、肝転移の治療より先に合併症の治療をしなくてはなりません。その間に、肝臓でがんが大きくなってしまい腫瘍を取ることができなくなってしまうことがあるからです。

大腸がんがすぐに命にかかわる腸閉塞が間近に迫っているような場合には大腸がんの治療を優先します。しかし、肝転移のほうがすぐに命にかかわる場合には上記のように、肝臓の治療を先行します。

肝臓は再生能力のある臓器ですが、一気に大量に切除してしまうと残った肝臓が小さすぎて肝不全という機能不足の状態に陥り、命にかかわる場合があります。

このような場合には切除する側の肝臓の門脈をカテーテル治療で閉塞させることにより、栄養が行かないようにして3週間~8週間待ちます。そうすると門脈の血流が絶たれた切除予定側の肝臓は小さくなり、門脈血流が保たれている残存予定側の肝臓が大きく再生肥大します。これを門脈塞栓術といいます。

肝切除を行ったあともすでに肝臓が増大しているため、肝機能を保持できる方法といえます。肝転移をすべて取り除くために大量の肝臓を切除する必要がある場合には手術を安全にするためにこのような準備をしてから肝切除をすることがあります。

ALPPS手術(アルプス手術)とは、2012年に発表された術式です。

門脈塞栓術は低侵襲で効果的な方法ですが、多数の転移病巣が肝臓のあちこちに分散して広がっている場合には3~8週間の待ち時間の間に病巣が大きくなったり、増加して切除が不能になってしまう場合があります。そこで、現在、期待されているのがALPPS手術です。

この術式では手術を2回に分けて行います。1回目の手術では肝臓の大きな部分を切り取ることをせずに、肝臓の左側部分に存在する病巣だけをくりぬいて切除し、肝臓の右側に向かう門脈を結紮※2(けっさつ)します。

これだけでは左側の肝臓が大きくなるためには門脈塞栓術と同様に3週間以上を要するのですが、同時に肝臓の右側と左側の間に切れ目だけを入れておきます。

切れ目を入れるだけで肝臓は取り除きませんからこの時点では肝不全は生じません。1回目の手術はここまでとして1週間待ちます。

そうすると、1週間で肝臓の左側は1.5倍から2倍にも急速に大きくなります。1週間後に2回目の手術として肝臓の右側を切除することによって残されたすべてのがん病巣を取り除くという手術です。

どうして門脈の結紮だけでなく、切れ目を入れることによりこんなに急速に肝臓が増大するのかのメカニズムは未だわかっていませんが、門脈塞栓術で肝臓の増大を待っている間に手術の機会を逃してしまわないようにする術式として注目を浴びています。

※1門脈……門脈とは、腹部消化器と脾臓から血液を集め肝臓に運ぶ静脈のこと

※2結紮……結紮とは、くくってしまうこと

山本先生

肝転移が再発などでみつかった場合でも、治療が可能なことがあります。手術は不可能だといわれてしまった際にも、あきらめずに治療の模索を行ってほしいと私は考えています。

たとえば主治医以外の医師の意見を聞くことができるセカンドオピニオンの利用を検討するのもよいでしょう。ここでお話したように、治療の方法は一通りではありません。抗がん剤治療と手術の組み合わせもいろいろあります。

また、手術の方法も進化していますし、どこまでの手術ができるかについても施設や外科医の経験によってさまざまです。別の病院の医師や、専門医がみることで、手術が可能になることもあります。

肝転移の手術や治療が行える施設や専門医を探して、治療の選択肢広げましょう。

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