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リンパ浮腫の治療法−スーパーマイクロサージャリーを駆使した手術治療とは

リンパ浮腫の治療法−スーパーマイクロサージャリーを駆使した手術治療とは
山本 匠 先生

国立国際医療研究センター病院  形成外科・診療科長 国際リンパ浮腫センター・センター長、リンパ...

山本 匠 先生

この記事の最終更新は2018年02月23日です。

リンパ浮腫の治療では弾性ストッキングなどによる圧迫療法をしっかりと行ったうえで、症状の進行具合に合わせて手術治療を行います。リンパ浮腫の手術治療では非常に細かな縫合を行うため「スーパーマイクロサージャリー」という0.5mm以下の血管やリンパ管をつなぎ合わせる難易度の高い技術を要する場合もあります。今回は国立国際医療研究センターの形成外科・診療科長で国際リンパ浮腫センター・センター長である山本匠先生にリンパ浮腫の治療法についてお話を伺いました。

リンパ浮腫の原因や症状については記事1『リンパ浮腫の原因や症状、合併症について』リンクをご覧ください。

リンパ浮腫の治療法は、患者さんの症状の進行程度に合わせて以下から選択されます。

<リンパ浮腫の治療法>

  • 保存療法…圧迫療法・リンパドレナージ・運動療法・スキンケア
  • 手術治療…リンパ管細静脈吻合術・血管柄付きリンパ節移植術・脂肪吸引術

一般的には、まず患部の圧迫療法を中心とした保存療法を行います。しかし保存療法を行っても効果がみられない場合には、圧迫療法を継続したうえで手術治療を行います。

次項からは、それぞれの治療法や適応について詳しくご説明します。

リンパ浮腫の保存療法には「圧迫療法・リンパドレナージ・運動療法・スキンケア」があり、これら4つの治療を合わせた複合理学療法が行われるのが一般的です。

山本先生 提供写真
写真提供:山本匠先生 弾性包帯による圧迫療法(装着するのに15分ほどかかります)

保存療法のなかで特に重要なものが、弾性包帯や弾性着衣(ストッキング・スリーブ・グローブなど)などによる患部の圧迫療法です。むくんでいる部分を圧迫することで、停滞しているリンパ液が上流へと移動していき、むくみの症状が緩和されます。

ただしリンパ節摘出が原因のリンパ浮腫の場合、リンパ液の通路が遮断されていることには変わりはないため、圧迫を解除すると間もなく元のむくんだ状態に戻ってしまいます。基本的に、圧迫療法は毎日行う必要があります。

このように、圧迫療法は根本的な治療ではなく、あくまでも対症療法です。しかし、圧迫療法を中断するとリンパ浮腫はどんどん進行していくため、リンパ浮腫の進行速度を遅らせるために圧迫療法の継続は必要不可欠です。

リンパドレナージとは、リンパの流れに沿って特殊なマッサージを行いリンパ液の排液を促す治療です。リンパ浮腫のリンパドレナージは、一般的に美容目的などで行われているリンパドレナージやマッサージとは異なります。美容目的などで用いられるリンパドレナージやマッサージはリンパ浮腫が悪化するリスクがあるためむしろ避けなければなりません。

リンパの解剖学とリンパの流れ方に基づいて行われるため、リンパドレナージのあとはむくみが改善します。しかし、効果は一時的で一日ほどで元のようにむくんでしまうことがほとんどです。

リンパドレナージが効果的なのは、弾性着衣が着用できないほどむくんでいる患者さんに対して行われたときです。この場合は、2〜3週間入院し毎日リンパドレナージをしてむくんだ部位を弾性ストッキングが着用できる細さまで細くします。圧迫療法がきちんとできている患者さんがリンパドレナージを月数回程度の通院で行う場合、持続的な効果は期待できません。

山本先生 提供写真
写真提供:山本匠先生

リンパ管細静脈吻合術(以下、LVA)とは、リンパ管(0.3〜0.5mm程度の大きさ)と同程度の大きさの細い静脈をつなぎ合わせてリンパ液の鬱滞(うったい)を解除する手術で、スーパーマイクロサージャリー(超微小外科技術)という0.5mm以下の血管やリンパ管を縫合する技術を用いて行います。(スーパーマイクロサージャリーについては後述で詳しく解説します。)

もともとリンパ管は頸部で静脈に合流しているので、閉塞している場所より末梢でリンパ管を静脈にバイパスするLVAは、うっ滞したリンパを直接的に静脈にドレナージさせる根本的な治療(リンパの流れを根本的に治療する方法)となります。LVA後にリンパの流れが正常になった場合は、圧迫療法が不要になる「治癒」となることもあります。

LVAは通常、局所浸潤麻酔(手術を行う場所にだけに麻酔を注射すること)で行います。患者さんに意識がある状態で行うので、私がLVAを行う場合は患者さんに手術のモニターを見てもらっていて、説明をしながら行っています。もちろん、手術画面を見ないでお話しするだけのこともできますが、手術を見ていただくことで手術内容や術後の注意点も理解しやすくなります。

1か所あたり30分程度かかりますが(皮膚を切ってリンパ管をつないで皮膚を閉じるまで)、通常は複数箇所を治療するので2〜3時間程度の手術になることが多いです。

つないだリンパ管の一部は詰まってしまうので、何本かつないでおくことでより高い効果を持続させます。一般的には1〜2泊程度の短期間の入院で行うことが多いですが、適切な圧迫療法が行われている患者さんの場合は日帰りで行うことも可能です。

LVAが適応となるのは比較的早期のリンパ浮腫で、リンパ管硬化(リンパ管の内壁が厚くなり閉塞する状態)のみられない患者さんが対象となります。ICGリンパ管造影でリンパ管硬化をある程度は予測できますが、実際にはLVAをしてみないとリンパ管硬化を確認できないため、ほとんどのリンパ浮腫の方で第一選択の手術となります。

LVAはリンパ浮腫の手術のなかで低侵襲(体の負担が少ない)な治療で、まず検討されるべき手術治療になります。特に、高齢者やがんの末期などで全身状態が良くない患者さんの場合、後述の血管柄付きリンパ節移植術や脂肪吸引術は生命のリスクがあるので、行うことができません。そのため、LVAが唯一のリンパ浮腫外科治療の選択肢となります。

残念ながら全員にLVAの効果があるわけではありませんので、効果が不十分な場合は追加のLVAを行ったり、このあとご説明する血管柄付きリンパ節移植術を行います。

血管柄付きリンパ節移植術は、患者さんご自身からリンパ節やリンパ管を血管と一緒に採取し、リンパ浮腫の原因となっている部分に移植する手術です。LVAと同様にリンパの流れを改善させる根本的治療です。

たとえば足のリンパ浮腫の場合、腋窩部(えきか:脇の下)などからきちんと機能しているリンパ節を採取して移植します。LVAではリンパ管硬化が重症な例では効果が見込めませんが、リンパ節移植術では正常のリンパ組織を移植するので重症例でも効果が期待できます。

リンパ節移植術は通常、全身麻酔下に行います。正常な部位からリンパ節とまわりの脂肪組織・リンパ管を、栄養血管(組織に栄養を送っている血管)をつけて採取し、リンパ浮腫の患肢で血管吻合およびリンパ管吻合をして移植し機能させます。

ひとつの移植に2時間程度かかりますが、複数のリンパ節を移植したほうが効果的なので、通常は何か所かに移植します。

全身麻酔で半日から一日かかる手術で、移植する部位にもよりますが、3〜10日程度の入院期間が必要になります。

適応となる患者さんは、先述のLVAでは改善が見込めないほど、リンパ管硬化などでリンパ管に強いダメージがある方です。実際にはLVAを受けたものの効果が不十分だった方に行われることがほとんどです。また全身麻酔で行うため、全身麻酔を安全に行うことができる患者さんに限られます。リンパ浮腫は基本的には生命にかかわる疾患ではありませんので、手術による生命のリスクが考えられる方には行うことができません。

リンパ浮腫が進行していくと、水分だけでなく脂肪も増えていきます。一度増えた脂肪はLVAや血管柄付きリンパ節移植術では減少しないので、患部を細くするために脂肪吸引術を行うことがあります。脂肪吸引術では、全身麻酔や静脈麻酔下に小さな皮膚切開部から細い管を皮下に挿入し、脂肪を吸引し除去します。

脂肪吸引術は直接的に増えた脂肪を除去する手術です。そのため手術直後から患肢が細くなり効果は実感しやすいですが、脂肪と同時にリンパ管も除去・破壊されてしまうので、リンパの流れがさらに悪化します。そして術後継続的に、より強い圧迫療法が必要になります。また技術的には簡単ですが、出血や感染、まれですが血栓・脂肪塞栓などのリスクがあり、体の負担はLVAよりも大きくなります。

脂肪吸引術は基本的に、すでにリンパの流れがまったくない重症患者さんに対する「最終手段」の治療法です。外来で診察していると「美容外科などで脂肪吸引をしたあとにリンパ浮腫が悪化した」といって来院される患者さんもいらっしゃいますが、脂肪吸引を一度受けてしまうと残念ながらLVAによりリンパの流れを改善させることが困難なこともあります。リンパ浮腫を専門的に行っていない施設で脂肪吸引術を行うことはとても危険です。LVAなど他のリンパ浮腫治療も行っている施設であれば問題ないかと考えますが、脂肪吸引術のみを行っている施設でリンパ浮腫治療を行うことはおすすめできません。

山本先生 提供イラスト
イラスト提供:山本匠先生

「細静脈」とは0.2mm以下の静脈を指しますが、リンパ管細静脈吻合術では0.2mm以上の静脈を使うがほとんどです。本来ならば「リンパ管静脈吻合術」とよばれるべきなのですが、「リンパ管静脈吻合術」と名付けられています。では、なぜこのような名称となったのでしょうか。

1980〜1990年代頃「リンパ管静脈吻合術」という名称の手術が外科医・整形外科医・血管外科医・形成外科医により行われていました。これは太い静脈の中にリンパ管を挿入する手術でした。当時は0.5mmほどのリンパ管をつなぐ技術がなかったため、このような方法でしかリンパ液を静脈にバイパスすることができませんでした。

しかし血管内にリンパ管とそのまわりの脂肪組織が挿入されるため、血液がそれら血管内に本来存在しないものに接触すると血栓ができてしまいます。エコノミークラス症候群でみられるような静脈血栓症・肺塞栓症が、この古典的「リンパ管静脈吻合術」の術後に報告され、また治療効果もそれほど高くなかったことから「リンパ浮腫外科治療(=リンパ管静脈吻合術)は禁忌」とされる時期が続きました。

2000年頃になると、文字通り0.5mmほどのリンパ管を同じくらい細い静脈につなぎ合わせる手術ができるようになりました。もちろん0.2mmより細い「細静脈」を使うこともありますが、多くの場合は0.2mmより太い「静脈」を使っているので、本来ならばリンパ管静脈吻合術とよばれるべきなのですが、かつての古典的「リンパ管静脈吻合術」と区別するために、術式名にを加え「リンパ管細静脈吻合術」とよばれるようになりました。

写真提供:山本匠先生
写真提供:山本匠先生

スーパーマイクロサージャリー(超微小外科技術)とは、50ミクロン=0.05mm程度の針を用いて太さ0.5mm未満の血管やリンパ管、神経などを顕微鏡下で縫合したり剥離したりする技術のことです。リンパ管は0.5mmより細いことも多いので、LVAでは必須の技術になります。

血管柄付きリンパ節移植術で健常なリンパ節を採取する際、剥離する範囲が大きくなってしまうと、採取した部分に新たにリンパ浮腫を発症するリスクがあります。このような場合にスーパーマイクロサージャリーを用いることで、剥離範囲を小さくし、移植の際のリスクを低減させることができます。

また、スーパーマイクロサージャリーはリンパ浮腫治療だけではなく、切断指の再接着やさまざまな部位の再建などにも用いられます。特に爪レベルの指の先端をつなぐためには、0.1〜0.3mmの血管・神経を縫合することも多く、スーパーマイクロサージャリーの技術が必要不可欠となります。

2018年現在、保険適用で3割負担の患者さんの場合、LVAでは吻合部1箇所の手技代が約10万円です。また、通常一度の手術で複数箇所の吻合を行うのですが、同じ患肢の吻合であれば複数吻合しても1箇所分の約10万円になります。(ex:右足3箇所の吻合…約10万円、右足3箇所と左足2箇所の吻合…約20万円)また、血管柄付きリンパ節移植術の場合は1箇所の手技代が約30万円で、こちらもLVA同様に右足と左足に移植した場合などは約60万円になります。このほか、検査・入院・麻酔の料金がかかります。

しかし2018年現在、高額療養費制度で、患者さんの年齢や収入によって1か月に負担する医療費の上限金額が定められています。つまり、保険診療内でどれだけ高額な治療を受けても限度額を超えた部分は支払う必要はありません。(70歳以下の方の場合は通常、限度額適用認定証の提示が必要です。)

限度額ついては患者さんごとに異なりますので、詳細はご自身が治療を受ける医療機関にお問い合わせください。

薬剤

2018年現在、有効性が確かなリンパ浮腫の薬物治療はありません。以前は利尿薬などが用いられたこともありましたが、現在では副作用しか認めないことがわかっており、用いてはならないことになっています。一部の漢方薬がリンパ浮腫治療に用いられることがあり、こちらは禁忌ということはありませんが、有効性が明らかにはなっていません。そのほかに、さまざまな治療薬の研究開発がすすめられています。

2018年現在、リンパ管新生療法(リンパの流れを促すために新しいリンパ管を作り出す薬物治療や遺伝子治療)が開発中です。ただしがん手術後の患者さんのリンパ管が新生されてしまうと、リンパ節転移を促す可能性があります。そのためこの治療法に関しては開発がうまく進んだとしても原発性リンパ浮腫の方のみが対象となり、日本において大部分を占めるがん治療後の二次性リンパ浮腫の患者さんには使用できないのではないかと考えられます。

またリンパ管硬化によるリンパ管内の閉塞を予防して、リンパ浮腫の進行を遅らせる治療薬の研究も行われています。この治療薬についてはがん手術後の患者さんにも使用可能と考えられますのでより実用性が高いと考えられます。

リンパ浮腫の患者さんにとって大切なことは弾性着衣をきちんと着用し患部の圧迫を継続的に行うことです。特に術前と術後の圧迫療法は念入りに行う必要があり、それを怠ると手術の効果が期待できなくなります。

リンパ浮腫ではリンパ液を押し流すためのポンプ機能が弱くなっているため、LVAでリンパ液の通り道がつくられても、そのままではなかなかリンパ液は静脈へ流れていきません。術後リンパ液を静脈に流すためには、弾性着衣などにより圧迫でリンパ液が静脈に流れていくようにすることが重要です。圧迫することによりリンパ液の圧力のみが上昇するため、効果的にリンパ液を静脈にドレナージさせることができます。

術後も圧迫療法を続けてリンパがドレナージされていくと、ぱんぱんに膨れ上がっていたリンパ管がしぼんでリンパ管への負担が減り徐々に自力のポンプ機能が回復してくることがあります。むくみが改善し、リンパ管造影検査などでリンパ管のポンプ機能が改善してきていることも確認できたら、徐々に圧迫を弱めていくことも可能になります。

弾性着衣を着用しながらウォーキングなどの運動を行うことはリンパ浮腫の改善に有効です。ただし、疲れを溜めない程度に無理なく行うことが大切です。疲れの感じ方は患者さんによって違いますので、患肢に張りや重たい感じがしたら休憩を挟みましょう。

また、リンパ浮腫の患者さんは蜂窩織炎などの合併症などを防ぐためにも、皮膚を清潔に保ち、怪我や風邪の予防にも努めていただきたいと思います。

山本先生

リンパ浮腫は基本的には完治はしない疾患で、生涯付き合っていく必要がある疾患です。しかし私の経験上「完治」といえる患者さんは何人もみてきています。それは圧迫療法をまったく行っていなくてもむくみが悪化せず、さらにリンパ画像検査でも異常な所見がみられない状態の患者さんです。

「完治」状態にまで改善した方のほとんどの方は、がん治療後すぐからICGリンパ管造影でリンパの流れを定期的に検査していた方です。乳がん子宮がんなどリンパ浮腫発症リスクが高い治療を受けた後に、リンパ浮腫発症前からICGリンパ管造影をすることで、極めて早期の状態でリンパ浮腫を診断して治療を行うことができます。

繰り返しになりますが、やはり大切なことは早期の状態で治療を受けることです。記事1『リンパ浮腫の原因や症状、合併症について』でも述べましたが、むくみなどの症状が出ていない段階からICGリンパ管造影検査などのリンパ画像検査を受け(リンパ浮腫スクリーニング)、早期診断・早期治療によりリンパ浮腫を予防・完治させることが重要と考えられます。
 

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  • 国立国際医療研究センター病院  形成外科・診療科長 国際リンパ浮腫センター・センター長、リンパ超微小外科臨床修練プログラムディレクター

    山本 匠 先生

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