インタビュー

子どもの肺炎予防―予防接種の重要性

子どもの肺炎予防―予防接種の重要性
小川 英輝 先生

国立成育医療研究センター 生体防御系内科部 感染症科 元フェロー、あいち小児保健医療総合セン...

小川 英輝 先生

石黒 精 先生

国立成育医療研究センター 教育センター センター長/臨床研究センター 副センター長/臨床研究教...

石黒 精 先生

目次
項目をクリックすると該当箇所へジャンプします。

この記事の最終更新は2018年06月04日です。

 

2018年現在、子どもの肺炎予防に有効な薬はありません。普段からの風邪予防に加えて、予防接種を適切に行うことが重要です。

今回は、子どもの肺炎予防法について、国立成育医療研究センター感染症科の小川英輝先生に詳しくお話を伺いました。

ワクチン

肺炎の原因になる微生物による感染を予防できるワクチンは以下の5種類です。(2018年2月現在)

子どもがかかる肺炎の原因は、ウイルスが最も多いです。

気道に感染するウイルスで特に有名なのは、インフルエンザウイルスです。インフルエンザウイルスワクチンを接種することで、肺炎での入院を減少させることが報告されています(注1)

また、細菌が原因になる肺炎に関しては、肺炎球菌とインフルエンザ菌b型によるものが多いです。肺炎球菌ワクチンやインフルエンザ菌b型(Hib)ワクチンを接種することで髄膜炎や菌血症が減りますが、肺炎も減ることが報告されています(注2)

まれですが、百日咳菌や結核菌による肺炎もあります。同様に四種混合ワクチンやBCGワクチンを接種することで、これらの感染症が予防することできます。

しかし、残念ながらこれらのワクチンの効果は一生涯続くものではありません。百日咳菌に対する抗体は5年程度で減弱し、BCGワクチンで結核を予防する効果も10〜15年間程度といわれています。

注1:JAMA. 2015,314:148801497

注2:Cochrane Database Syst Rev. 2009;4:CD004977, Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2006:25:90-97

ウイルスによる肺炎の場合は抗菌薬が無効ですが、ほとんどの場合は自然に治ります。根本的な治療法がないため、対症療法(症状を和らげる治療)で様子をみることが唯一の方法です。

一方で小児では、肺炎球菌やインフルエンザ菌b型による肺炎の場合は抗菌薬が有効ですが、ウイルスによる肺炎ほどかかる頻度は高くありません。

また、マイコプラズマ、クラミジア、インフルエンザ、百日咳などの特定の病原体に対しても、抗菌薬や抗ウイルス薬を投与することがあります。

これらの治療を受けることで、症状が緩和されたり、これらの病原体の伝播(でんぱ)を防いだりする可能性があります。

ワクチン以外で、肺炎を予防する効果が医学的に証明されているものはありません。

医療機関を受診すると、去たん薬や咳止め薬を処方されることが多いと思いますが、これらの薬は現在の症状を少し和らげるための薬であって、肺炎を予防してくれる医学的な根拠はありません。

『子どもの風邪*1 における抗菌薬の役割』を検討した、いくつかの主要論文の結果から検討したところ、抗菌薬をつかわなかった場合の肺炎*2 発症リスクは計算上、3.8/10,000だったと報告されています(注1)

これはつまり、抗菌薬はつかわないという選択をしても、肺炎を発症するこどもは10,000人のうち3〜4人程度ということです。

その一方で、抗菌薬の副作用による下痢が出現したり、抗菌薬に対するアレルギーが出現したりと、抗菌薬投与による欠点が利点を上まってしまう可能性もあります。

医師は、患者さん一人一人を個別に判断し、適切にリスク・ベネフィットを考えて抗菌薬を処方しています。抗菌薬について、患者さんもこのようなデータを知っておくことが大切だと思います。

1 子どもの風邪…急性中耳炎(AOM)、咽頭痛、上気道感染(URTI)、副鼻腔炎などを含む小児期の呼吸器感染症

2 肺炎…上気道感染症の重大な合併症

注1:Curr Opin Infect Dis. 2010;23:242-248.

アメリカのデータですが、約2,400人の入院をした小児の肺炎の原因微生物を調べると、約7割がウイルス性であったと報告されています(注)。このように、入院が必要となった肺炎ですら、その多くはウイルス性ということです。ウイルスに対して抗菌薬は無効ですので、肺炎の子ども全員に対して抗菌薬が必要というわけではないのです。

注:N Engl J Med. 2015;372:835-845.

抗菌薬を不適切に使用することで、薬剤耐性が増えてしまい、将来的に肺炎の治療が難しくなる可能性もあります。

耐性菌の出現を防ぐためにも、風邪に対する不要な抗菌薬治療や、肺炎の予防目的の抗菌薬投与は避ける必要があります。

薬剤耐性菌…抗菌薬に対して抵抗力を持ち、抗菌薬が効かなくなった細菌

日常生活でできる肺炎の予防方法は、マスクなどの咳エチケットや手洗いを適切に行うことです。一般的な風邪の予防方法と同じです。

手洗い・マスク(咳エチケット)などを適切に行うことでウイルス感染症を予防し、さらには細菌性肺炎などの重症な肺炎の予防にもつながる可能性があります。

詳細はこちら『子どもの肺炎はうつる?うつらない?』

予防接種をしっかり行うことで重症な肺炎を予防することが大切です。

また、手洗いやマスク(咳エチケット)を適切に行うことで、ウイルスによる感染症を予防することも重要です。

受診について相談する
  • 国立成育医療研究センター 生体防御系内科部 感染症科 元フェロー、あいち小児保健医療総合センター 所属

    小川 英輝 先生

  • 国立成育医療研究センター 教育センター センター長/臨床研究センター 副センター長/臨床研究教育部長(併任)/血液内科診療部長(併任)

    石黒 精 先生

「メディカルノート受診相談サービス」とは、メディカルノートにご協力いただいている医師への受診をサポートするサービスです。
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。
  • 受診予約の代行は含まれません。
  • 希望される医師の受診及び記事どおりの治療を保証するものではありません。

    関連記事

  • もっと見る

    関連の医療相談が14件あります

    ※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。

    「肺炎(こども)」を登録すると、新着の情報をお知らせします

    処理が完了できませんでした。時間を空けて再度お試しください

    「受診について相談する」とは?

    まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
    現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。

    • お客様がご相談される疾患について、クリニック/診療所など他の医療機関をすでに受診されていることを前提とします。
    • 受診の際には原則、紹介状をご用意ください。