インタビュー

ウィリアムズ症候群とは?

ウィリアムズ症候群とは?
山本 俊至 先生

東京女子医科大学 大学院先端生命医科学専攻遺伝子医学分野(遺伝子医療センター)教授

山本 俊至 先生

この記事の最終更新は2018年02月22日です。

ウィリアムズ症候群は、染色体(遺伝情報にかかわる物質)の異常で起こる生まれつきの病気です。具体的には7番染色体のちょっとした欠失によって発症します。

患者さんは基本的に健常者と同じように生活することができます。しかし、症状として発達の遅れや視空間認知障害(見たものの位置や距離がわからない)などがみられます。そのため、周囲の人々はウィリアムズ症候群の特性を理解したうえで適切なかかわり方をする必要があります。

今回は、ウィリアムズ症候群とはどのような病気なのか、東京女子医科大学大学院 先端生命医科学専攻遺伝子医学分野(遺伝子医療センター) 山本俊至先生にご解説いただきました。

ウィリアムズ症候群は生まれつきの病気です。原因は、7番染色体の長腕(ちょうわん)*の、セントロメア*に近い場所に、ちょっとした欠失が起こることです。

長腕…染色体の、セントロメアをはさんで長い方の部分。

セントロメア…染色体のほぼ中心にある、長腕と短腕が交差する部分。

 

染色体

 

※7番染色体とは?

7番染色体は、常染色体22本(男女とも持っている22対の染色体)のうち、7番目にあたる染色体です。

染色体は、生物の遺伝情報を伝える遺伝子を含む物質です。ヒトは23本の染色体(1~22番までの常染色体と、性別を決めるY染色体・X染色体のどちらか一方)を2セット、計46本の染色体を持っています。

ウィリアムズ症候群は、数万人に1人という確率で発症します。染色体が突然欠失することが原因であるため、発症について男女差や人種差は特にありません。

山本先生

ウィリアムズ症候群の原因は、7番染色体の微細欠失(一部が欠損すること)です。

どの患者さんもおおむね、同じ染色体の同じ場所に欠失が生じます。これは染色体の構造として不安定な部分があり、そこが欠失しやすくなっているためです。

ウィリアムズ症候群は、患者さんの両親に7番染色体の欠失がみられなくても、突然起こる可能性がある病気です。なぜ欠失が起こるのかということについては、研究によって異なる考え方が主張されています。

・両親には異常がないにもかかわらず欠失する

・親の染色体に逆位(inversion:インバージョン)がみられる場合に欠失しやすい

 

※逆位(inversion)とは?

染色体の変異のひとつで、染色体の一部が逆さまになることです。

ウィリアムズ症候群に関する研究により、ウィリアムズ症候群の患者さんの親には逆位(inversion)がみられる方が多いのではないかと指摘されています。

この特徴はウィリアムズ症候群の患者さんの親にしばしばみられる傾向ですが、すべてのケースに共通するわけではありません。また、親の染色体に逆位(inversion)がみられるからといって、必ず子どもの染色体が欠失するわけではありません。

子ども

ウィリアムズ症候群の主な症状は下記のとおりです。

  • 心臓の大動脈弁上狭窄(だいどうみゃくべんじょうきょうさく)
  • 高カルシウム血症
  • 発達の遅れ
  • 視空間認知障害(しくうかんにんちしょうがい)

など

以下、症状がみられる年齢順にご説明します。

ウィリアムズ症候群の患者さんには、多くの場合、大動脈弁上狭窄*という心疾患(心臓の病気)がみられます。心雑音が確認できるため、生まれてすぐに発見されることがあります。

大動脈弁上狭窄…大動脈弁上で狭窄(狭くなること)が起こる病気。

赤ちゃんのとき(生後28日未満)には、高カルシウム血症*が起こる方が多くみられます。また、高カルシウム血症になることで、けいれん発作が引き起こされる場合がまれにあります。

カルシウムの値の異常は採血によって調べることができます。すべての赤ちゃんに採血するわけではありませんが、けいれん発作などの特徴的な症状がみられる場合には検査することがあります。

高カルシウム血症…血液中のカルシウム濃度が異常なほど高くなる状態。

1歳頃になると、なかなか歩けない、言葉が出てこないといった、発達の遅れが少しずつわかってくることがあります。そこで、赤ちゃんの頃に診断がつかなくても1歳頃からウィリアムズ症候群が疑われる場合があります。

視空間認知障害は、見たものの位置や距離がわからなくなる障害です。

ほとんどのウィリアムズ症候群の患者さんが生まれつき持っている障害ですが、多くの場合、ある程度年齢が高くなってから初めて気づかれます。物の見え方に関する異常は、他者にとっては理解することが難しい特徴であるためです。

ウィリアムズ症候群の患者さんは、立体的な図形を絵に描くことが苦手です。たとえば、正方形を立体的に描くことができません。また、距離感や物の位置を掴むことも苦手です。たとえば、歩いているときに前方から自転車が来ていても、その自転車が近寄ってくるのか遠ざかっていくのかがわからず、すれ違う際にぶつかってしまうことがあります。

中学・高校くらいの思春期を過ぎてくると、症状は固定化されます。成長するにつれて症状が改善したり、進行したりすることはありません。

子ども 音楽

ウィリアムズ症候群の患者さんは顔立ちに特徴がみられます。ただし、外見の特徴からウィリアムズ症候群が疑われることはほとんどありません。

たとえば、両親に似ていない(わずかに肌が浅黒くみえる・髪が少し癖毛である、唇が分厚いなど)、発達の遅れがみられる、何らかの病気が疑われる、といった場合に病院を受診した際、医師が気づく可能性があるという程度の特徴です。

診断される際は、発達の遅れや症状などさまざまな特徴が考慮されて、トータルに判断されます。

性格的な特徴として、幼い頃から明るくフレンドリーな方が多くみられます。

たとえば、病院などを訪れる際、初対面のスタッフにもスキンシップを求めるなどの行動がみられます。そこで、社交的、気やすい、友好的すぎるといった印象をもたれることがあります。もちろん個人差はあり、シャイな方もいます。

ウィリアムズ症候群の患者さんには、音楽好きの方がよくみられます。

おそらく、視覚的な学習が苦手なウィリアムズ症候群の方にとって、聴覚的な情報のほうが受け入れやすいということが、きっかけの1つなのではないでしょうか。

FISH(Fluorescence in situ hybridization)検査とは、一般的な染色体検査の一環で、FISH法という特別な方法を使って行う検査です。検査に必要な遺伝子を含むプローブ*を使うことで、ウィリアムズ症候群を診断します。

ただし、FISH検査はターゲット検査です。前提としてウィリアムズ症候群が疑われていることが必要です。

プローブ…遺伝子などを検出するために用いる物質のこと。

マイクロアレイ染色体検査とは、染色体検査のなかでも詳細に遺伝子変異を解析することができる検査です。

病気が疑われるものの全く原因がわからないという場合などに、マイクロアレイ染色体検査を行うことがあります。この検査によって、ウィリアムズ症候群が初めて見つかるというケースがあります。

ウィリアムズ症候群は、3歳児健康診査(3歳児健診)で発見されることがあります。

心疾患がある方の場合は乳児期に診断されることがほとんどですが、それ以外の方は発達の遅れが顕著になるまでは検査の対象にならず、発見されにくい傾向がみられます。

そこで、3歳児健診で言葉の遅れなどに気づかれると、診断に繋がる場合があります。一般的には就学前の3歳~6歳までに診断がつけられます。

ウィリアムズ症候群を根本的に直す治療方法はありません。いわゆる療育が中心になります。療育とは、障害を持つ子どもに、その特性に合わせてよりよい生活を支援することです。

合併症*については、心臓の病気には外科的な手術を行います。なかには、音楽療法を行っている方もいます。

合併症…ある病気や、手術や検査が原因となって起こる別の症状。

クラスメイト

ウィリアムズ症候群の方にとって特にサポートが必要な部分は、視空間認知障害なのではないでしょうか。

視空間認知障害は、他の身体的な不自由などと比べて、気づいてあげることがなかなか難しい障害です。たとえば学校など人の多い場所では、ウィリアムズ症候群の患者さんはよく誰かにぶつかってしまいます。それが悪ふざけのように受け取られ、叱られてしまうことがあるようです。

患者さんの物の見え方は他者にはわかりませんが、配慮することが重要です。すれ違う人にぶつかってしまうなど違和感のある行動がみられたら、視空間認知障害のために起こったのではないかと推し量ることがサポートに繋がります。

ウィリアムズ症候群の患者さんは、陽気な性格の子どもが多いという特徴があります。そこで、ウィリアムズ症候群の子どもに何かいい聞かせるときは、叱るよりも褒めて伸ばすほうがうまくいくことがあります。苦手なことや、できないことを追求するのではなく、自尊心を伸ばしてあげるということです。

ウィリアムズ症候群の患者さんはフレンドリーな性格で、子どもたちの多くは人との交流を望みます。発達の遅れはありますが、なるべく他の子どもと同じように生活させるほうがよいでしょう。

学校では、支援クラスに入れたり、他の子どもと区別して接したりする必要はありません。できるだけインクルーシブ教育(障害を持つ子どもを通常の学級で支援する)のような形を取ることが理想的です。

ピアカウンセリングとは、同じ病気の人など仲間同士でサポートし合う活動のことです。ウィリアムズ症候群は希少な病気なので、患者さん同士、あるいは同じ病気の子どもを持つ親同士で連携することは重要です。

ウィリアムズ症候群という病気については、普段一緒に生活している親御さんが一番わかっているでしょう。親御さんの多くは病気に対して悲観的ではありません。患者さん本人が凄く明るいことも関係していると思います。

周りの方々にとっては、特に視空間認知障害は理解しにくいものですが、配慮したうえで適切なかかわり方をすることが大切なのではないでしょうか。

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