インタビュー

ベーチェット病の4大主症状と治療

ベーチェット病の4大主症状と治療
河野 肇 先生

帝京大学 医学部内科学講座 教授

河野 肇 先生

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この記事の最終更新は2018年03月09日です。

 

ベーチェット病とは、口や皮膚、目や性器などに特徴的な症状が現れる、炎症性の病気です。部位ごとの症状とその治療、患者さんへのアドバイスについて、帝京大学医学部附属病院内科のリウマチ膠原病グループ教授の河野肇(こうのはじめ)先生にお伺いしました。

ベーチェット病は、口、皮膚、目、外陰部(性器)の4大主症状を特徴とする炎症性の疾患です。4大主症状には、それぞれベーチェット病ならではの特徴があります。

口には再発性口腔内アフタ潰瘍(さいはつせいこうくうないあふたかいよう)と呼ばれる口内炎が生じます。

ベーチェット病の口内炎は、風邪を引いたときなどにできる一般的な口内炎とは異なり、一度に数多く発生します。

口内炎症状は、いったん治まったとしてもすぐに再び多発するため、「常に多数の口内炎がある」といった状態が長く続く傾向があります。

一般的な口内炎に比べ、非常に深い口内炎ができるため、周囲との境界が鮮明という見た目の特徴もあります。口内炎に伴う痛みを訴える患者さんもみえます。

これらの口内炎は舌、くちびる、喉の奥など、口のなかのさまざまな場所に発生することがあります。

医師が患者さんの口内をみている

4大主症状のうち、皮膚や目、外陰部の症状は現れない方もみえますが、口内炎はほぼすべてのベーチェット病患者さんに生じます。

そのため、一度に数多くできる口内炎や高い頻度で生じる口内炎は、私たち医師がベーチェット病の可能性を疑う手がかりにもなります。

ベーチェット病口内炎を抑えるためには、口のなかの衛生環境を清潔な状態に保つことが非常に大切です。具体的には、歯周病の治療やプラークコントロール(歯垢除去)を行うことが重要です。

患者さんには歯科の受診もしていただくため、私たち内科と歯科との連携も不可欠といえます。

すでに生じている口内炎に対しては、抗炎症作用のあるステロイド外用薬を使います。また内服薬としては白血球の遊走を抑える(炎症を抑える)作用を持つ一部の薬※が使用されることもあります。

白血球の遊走を抑える作用をもつ薬は、「ベーチェット病」が効果効能の対象外となります。ただし、審査支払機関における診療報酬請求に関する審査のうえ、保険適応内での使用を認める場合があります(2018年2月現在)。

ベーチェット病に対する治療薬の開発や研究は現在進行形で進められているため、今後使える治療薬が増えていくものと期待しています。

ベーチェット病の代表的な皮膚症状は、ざ瘡様皮疹(ざそうようひしん)です。ざ瘡様皮疹とは、全身のいたる部位に生じるニキビに似た発疹(皮疹)のことです。

見た目は赤く、ニキビに比べると非常に多くのブツブツとした皮疹が生じます。皮疹が生じる部位は、顔や胸、背中などさまざまです。

(ざ瘡様発疹の症例写真:ご提供 帝京大学医学部内科学講座 菊地弘敏先生)
ざ瘡様発疹の症例写真:ご提供 帝京大学医学部内科学講座 菊地弘敏先生

主な皮膚の症状として、結節性紅斑(けっせつせいこうはん)も挙げられます。ベーチェット病による結節性紅斑は、足の脛(すね)やふくらはぎを中心に生じます。5cm大ほどの赤く盛り上がった病変が生じ、痛みやかゆみを伴うこともあります。

注射針

このほか、皮膚が物理的な刺激に対して過敏になり、炎症を起こしやすい状態になることがあります。そのため、点滴や採血のために針を刺すと、皮膚が赤くなったり潰瘍を起こしたりすることがあります。このような状態を「皮膚の針反応陽性」といいます。

ただし、ベーチェット病は自分自身の免疫が異常に活性化する病気であり、治療では免疫を抑える治療薬を使う必要もあります。そのため、針反応が陽性を示していたとしても、感染症などにかからないよう、慎重な管理のもとで予防接種などを積極的に行ったほうがよいと考えられています。

皮疹や紅斑にステロイド軟膏を塗布します。また、白血球の遊走を抑える(炎症を抑える)作用を持つ一部の薬が使用されることもあります。

ベーチェット病では、男性・女性ともに外陰部(がいいんぶ)に潰瘍が生じることがあります。外陰部とは、生殖器のうち体表にあらわれている部分(もともと体表の皮膚であった部分)のことを指します。

外陰部にできる潰瘍の特徴は、男性と女性で異なります。

男性の場合は、陰嚢(いんのう)などに多数の潰瘍が生じることがあります。

女性の場合、典型例では大きな潰瘍がひとつ生じます。また皮膚がえぐれているような深い潰瘍(深堀れ潰瘍)になることが多く、周囲の皮膚や粘膜との境界がくっきりと明瞭という特徴もあります。

ベーチェット病と診断されていない方で性器の症状が生じた場合は、すみやかに皮膚科や婦人科、泌尿器科を受診しましょう。これらの診療科では、単純ヘルペスや梅毒などの性感染症との見極めのために検査が行われます。

ベーチェット病は感染症ではないため、上記の性感染症のように性行為などの接触により他者にうつることはありません。

治療は多くの場合、皮膚症状と同じようにステロイド軟膏を使用します。深い潰瘍ができる場合も多く、治るまでに数週間かかることがあります。また引きつれたようなあと(瘢痕・はんこん)がのこることがあります。

口や皮膚、外陰部の症状が生じた場合、できるだけはやく医療機関を受診することが大切です。

ご自身で市販のステロイド軟膏を塗布すると、一時的に症状が軽くなることがあります。しかし、これによりベーチェット病ならではの特徴的な所見(症状)がみられなくなってしまい、診断がつくまでに時間がかかってしまうケースもあります。

ベーチェット病は、いったん治ったようにみえても、症状が繰り返し起こる慢性の病気です。ご自身で対処しようとするのではなく、重い状態のときに医師にみせ、適切な診断と治療を受けることが大切です。

すぐに医療機関を受診できない場合には、スマートフォンなどを使い、もっとも症状が重いときの状態を写真にのこし、主治医にみせることをおすすめします。症状が重いときの状態を後から確認できることは、医師が診断をつけるために非常に役立ちます。私自身も診察のときには常に「写真はありませんか」と伺うようにしています。

部位によっては写真にのこすことが難しい場合もあると考えますが、まずは写真などの記録が医師と患者さん双方にとって有益なものであるということを知っていただけたらと思います。

目をこするひと

目には、ぶどう膜炎網脈絡膜炎(もうみゃくらくまくえん)と呼ばれる炎症が、繰り返し起こります。目の症状には、充血や視界が曇ったようになる霧視(むし)などがあります。これらの症状は持続するのではなく、いったんおさまり再び起こるため、「発作」と表現されます。

過去には、目に生じる炎症発作を繰り返してしまい、視力を失うことも少なくはありませんでした。そのため、目の症状はベーチェット病の4大主症状のなかでも特に問題視されていました。医療が進歩した現在では、視力の低下により失明に至ることは非常に少なくなっています。

ただし、一度起きてしまった障害を元に戻すことはできないため、発作によるダメージを蓄積させないことは大切です。したがって、目の症状に対しては、発作が起きたときの治療だけでなく発作が起こる前の予防を行い、長期的に視力を保つことが重要です。

すでに発作が起こっているときには、ステロイドによる治療を行います。目はご存知のとおり球体をしていますが、炎症は瞳(虹彩)のある前眼部に起こる場合と、光を受ける後ろ側の後眼部に起こる場合があります。

前眼部に炎症が起きている場合、点眼(目薬)でステロイドを投与します。

後眼部に炎症が起きている場合には、注射により白目の横からステロイドを投与します。

目の発作予防には、白血球遊走阻害薬、免疫抑制剤、TNFα阻害薬(生物学的製剤)などの薬のうち適応があるものが使われます。近年では、新たに2つの生物学的製剤が、ベーチェット病の目の症状に対して使用できるようになりました。

足に異変を感じている人

このほか、血管に炎症が生じ、血の塊(血栓)が形成されることがあります。炎症は、全身の動脈、静脈どこにでも生じえますが、特に足の静脈に起こるケースが多くみられます。

ごくまれに、足の静脈で形成された血栓が肺へと飛んでしまい、肺血栓塞栓症(はいけっせんそくせんしょう)を起こすことがあります。

肺血栓塞栓症を起こすと命に関わることもあるため、ベーチェット病と診断されている方で足にむくみや痛みを感じる場合は、すぐに医師へ知らせてください。

また、腸にも潰瘍が生じることがあります。この場合は、腹痛や下痢といった症状が続くことがあります。足の血栓ほどの緊急性はありませんが、お腹の症状がある場合も医師に伝えることが大切です。

まれに起こる特殊病型ですが、ベーチェット病により中枢神経系(脳や脊髄)の症状が生じることがあります。中枢神経系の症状には、2つのタイプがあります。ひとつは、ゆっくりと長く続き、徐々に悪くなっていく慢性進行性の症状です。もうひとつは、突然重い症状が現れ、治療により治まる急性の症状です。

慢性進行性の中枢神経の症状には、ふらつく、ろれつが回らないといったものがあります。これらは小脳の失調による症状であり、免疫抑制作用を持つ一部の抗リウマチ薬が効果を示すことがあります。

急性の中枢神経症状としては、突然の発熱や頭痛が挙げられます。急性の中枢神経症状にはステロイドの全身投与を行います。

ベーチェット病による口内炎(口腔内潰瘍)と、口のなかの衛生環境は密接に関わっています。歯周病の治療やプラークコントロールのために、定期的に歯科を受診しましょう。

日々の歯磨きももちろん重要ですが、ベーチェット病の症状を抑えるためには、歯周病治療のように、専門家である歯科の先生による医療的な介入が必要です。

また、喫煙がベーチェット病の中枢神経病変の因子となると考えられているため、たばこを吸う習慣がある患者さんは禁煙することが重要です。

禁煙

ベーチェット病は、症状が出ている活動期とおさまっている非活動期を繰り返す慢性の病気であり、完治させる治療法は現時点ではありません(2018年1月時点)。

ただし、ベーチェット病の活動性は、加齢とともに落ちていくことがわかっています。実際に、病気の活動性が高く症状が重い時期(患者さん自身が若い時期)を乗り越え、使う薬や通院頻度が減った患者さんも多くおられます。

このように、ベーチェット病は症状がどんどん悪くなっていく病気ではありません。今現在症状や治療に不安を感じている患者さんには、「苦しい時期が何十年も続く病気ではないので、希望を持って治療に臨んでいただきたい」とお伝えしたいです。

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