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「要介護者の緊急対応-救急車はいつ呼ぶ?なぜ呼ぶ?」セミナー参加レポート

「要介護者の緊急対応-救急車はいつ呼ぶ?なぜ呼ぶ?」セミナー参加レポート
メディカルノート編集部 [医師監修]

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この記事の最終更新は2018年03月20日です。

2018年(平成30年)2月10日、NPO法人地域の包括的な医療に関する研究会が主催する「要介護者の緊急対応-救急車はいつ呼ぶ?なぜ呼ぶ?」が開催されました。セミナーでは病院や施設、訪問介護、ケアマネジャーなど異なる立場の方々が登壇し、日本が抱える救急医療の問題点や今後の課題について知識を共有する場となりました。本記事では本セミナーの概要をレポートします。

 

はじめに、NPO法人地域の包括的な医療に関する研究会の理事長を務める有賀徹先生(独立行政法人労働者健康安全機構理事長)と衆議院議員の安藤高夫先生からご挨拶がありました。安藤先生は慢性期病院の理事長や東京都医師会の役員をされるなど、長らく医療の世界に携わっておられます。挨拶では「医療と介護の垣根を低くして、医療人は介護のことをもっとよく知り、介護人は医療のことをもっとよく知ることが大切である」とおっしゃっていました。

引き続き、NPO法人地域の包括的な医療に関する研究会の副理事長であり、長崎リハビリテーション病院の理事長・院長を務める栗原正紀先生のお話がありました。

 

日本では高齢化が急速に進んでいます。2025年にはベビーブーム(1947〜1949年頃)に生まれた団塊世代の方々が75歳を超え、さらなる高齢化社会が予想されています。

同時に、医療にも大きな変化が訪れます。救急患者さんが急増するとともに、治療終了後のリハビリなど慢性期医療を必要とする方の増加も見込まれます。

日本の救急体制は1978年に整備され、そこから本格的に救急医療が始動しました。また、当時のリハビリは急性期治療後2〜3か月経過してから始めることが一般的で、救急医療とリハビリの関係性は薄いものでした。

2000年になると、介護保険制度と回復期リハビリテーション病棟が登場しました。さらに、高齢化ともに医療費が増大したことなどから、急性期治療の段階からリハビリを行い、早期退院を促す動きが出始めました。

今後さらなる高齢化が予想されている日本では、急性期と慢性期の医療がさらに密接なものになっていくと考えます。このような状況のなかで、地域医療構想や地域包括ケアシステムは、質のよい医療・介護サービスを提供していくという命題を抱えています。

そして、この命題を果たすためには、まず高齢者医療を体系化する必要があります。

高齢者医療で大きな問題となっているものが廃用症候群です。通常、私たちは1日のうち3分の2を「起きる・座る・立つ・動く」、3分の1は「寝る」という生活をしています。このなかの「起きる・座る・立つ・動く」は重力に抵抗している状態であり、健康体を維持するために非常に重要な動作です。

寝たきり、つまり無重力状態が続くと身体機能は徐々に退化し、廃用症候群となります。廃用症候群になると筋力の衰えや床ずれから始まり、心肺機能や消化機能の低下、さらには精神的な問題を抱える方も多くいます。

廃用症候群を防ぐためには、周りの人が積極的に体を起こし、重力の負荷をかけてあげることが大切です。また、栄養が不足すると抵抗力が弱くなるため、栄養管理もしっかりと行う必要があります。

高齢者医療を体系化すると、急性期治療が終了したあとの「慢性期(生活期)の治療」が非常に重要であることがわかります。そのため、急性期治療を行う医療者は慢性期医療について十分に知っておく必要があります。また、その逆も然りです。さまざまな職種の人がかかわり知識を共有しながら、高齢者の健康な生活を維持・再建することが大切です。

特に看護師や介護士は患者さんに密接にかかわり、療養上の世話をすることが多くあります。このとき「何でもしてあげる看護」ではなくて、自立支援を促す「できないことをしてあげる看護」を心がけて欲しいと思います。

さまざまな立場の人々が一体となり、高齢者など支援が必要な人を助ける地域づくりの構築が地域包括ケアシステムには求められます。

2017年10月、長崎市では地域包括ケアシステムの構築のための在宅支援リハビリセンターが事業化されました。人口およそ42万人の長崎市を8つの区域に分け、それぞれにリハビリ拠点となる在宅支援リハビリセンターを設置しました。在宅支援リハビリセンターでは、在宅医療に関わっている開業医や地域包括支援センター、リハビリ専門職がリハビリの支援を行います。

また、リハビリ支援だけでなく、在宅や施設にいる高齢者の救急対応をどのように行うかも地域包括ケアシステムの大きな課題です。救急搬送が必要な場合に、スムーズかつ適切な対応ができるようなシステムを構築していく必要があります。

 

続いて、介護の現場における緊急対応について「訪問介護者」「施設介護者」「ケアマネジャー」とそれぞれ違う立場の方が、実際の事例をもとに講演をされました。司会進行は長崎県立島原病院の院長である徳永能治先生が務められました。

 

はじめに、有限会社ほほえみケア(埼玉県ふじみ野市)代表取締役社長である髙田年光氏の講演です。同社が運営するほほえみケアセンターは、居宅介護支援事業と小規模デイサービスを併設していて、利用者の多くが要介護(注)1〜2の方です。

高田氏は、ほほえみケアセンターの実例をもとに、緊急時に現場で生じる混乱や多職種連携の課題についてお話しをされました

(注)要支援・要介護…介護サービスを受けるうえで、介護が必要な状態がどの程度かを示すもの。要支援1〜2、要介護1〜5に分かれていて、要支援1がもっとも介護必要度が低く、要介護5がもっとも介護必要度が高い状態と判断される。

まずは、要介護2の84歳女性の事例です。彼女はご主人(92歳、要介護1)と2人暮らしで、デイサービスを週2回、ホームヘルパーを週3回利用していました。ある日ヘルパーが訪問に行くと女性は意識が朦朧した様子でした。ご主人によくお話を聞くと、2日前から寝込んでいて食事も水分も摂取していないことが判明しました。

そこでヘルパーから事業所のサービス提供責任者へ、サービス提供責任者からケアマネジャーに連絡をし、ケアマネジャーの指示で救急要請後、1週間の入院となりました。

退院後、手薄であった介護サービスプランを見直し、手厚くしたケースです。

次は、1人暮らし87歳男性(要介護1)の事例です。男性はホームヘルパーを週2回、デイサービスを週1回、訪問看護を週2回利用していました。ヘルパーが訪問に行き呼び鈴を鳴らしましたが応答がなく、玄関が開いていたので部屋に入ると倒れている男性を発見しました。

そこで、ヘルパーから連絡を受けたサービス提供責任者が訪問看護師に連絡をし、訪問看護師の指示で救急要請を行いました。総合病院に入院となりましたが、男性は4日後に永眠されました。

最後は、1人暮らしの66歳男性(要介護5)の事例です。男性は脊髄小脳変性症を発症し、生前より「入院と入所は絶対にしない、最期まで自宅にいたい」という強い意思をお持ちでした。また、介護サービスに携わっているスタッフの間でもこのことについて共有をしていました。

ある日ヘルパーが訪問に行くと男性は呼吸困難に陥っており、早急に訪問看護師へ連絡、訪問看護師から訪問診療医へ連絡がされました。最期まで自宅にいたいというご本人の希望通り、訪問診療医、訪問看護師、ヘルパー、ケアマネジャー、後見人が6日間に渡り24時間体制で見守りを行い、自宅で永眠となりました。

これらの事例からわかるように、緊急時の対応方法(救急要請するかしないかなど)についてヘルパーが判断することはほとんどなく、実際にはサービス提供責任者を通じてケアマネジャーや訪問看護師などの指示を仰ぐ、というのが一般的です。このように、多職種による緊急対応のなかで混乱が生じるとき、以下のような共有の不足が考えられます。

  • ご本人やご家族の意向
  • 緊急時の対応方法(主治医やサービス事業者間、ヘルパー間)
  • 利用者さんの急変リスクや注意点など(主治医からヘルパーに対する共有)
  • 利用者さんの日頃の健康状態(ヘルパーから主治医に対する共有)
  • 訪問看護を利用していない場合のヘルパーやデイサービスでのアセスメント方法

これらのことから、私自身医療と介護の連携が非常に重要であることを改めて認識しています。関係諸機関でどのように情報共有を行い、どのように連携を図っていくべきなのか、まだまだ多くの課題が残っています。また、利用者さんやご家族は延命治療を望むだけではなく、最期は病院に行かずに、在宅での看取りを希望する方々も増えてきています。このような意向をきちんと確認し、緊急時の対応方法について多職種で考えることが大切です。

 

続いて、社会福祉法人池上長寿園(東京都大田区)リスク管理・監査室長の水沢吉伸氏よりお話がありました。水沢氏は以前施設長を務めていた特別養護老人ホームの事例をもとに施設介護者の立場から、施設での看取りにおける考え方や救急対応についてお話をされました。

私が施設長をしていた特別養護老人ホームには当時約100名の方が入所されており、要介護4の方が多くいらっしゃいました。医療体制は、配置医師2名、精神科医1名、看護師5名(常時3名が勤務)、理学療法士1名でした。また、夜間には介護職員5名、警備員1名が勤務していて、緊急時にはオンコールで配置医師や看護師と連絡が取れる体制を取っていました。

施設ではこのような考えのもとで、入所されている方のお看取りを行っていました。

「自分らしい生き方が最後まで継続できるように、そして意向に沿った安らかな終末を迎えることができるように、家族、配置医師、施設職員が連携して援助を継続していくことである」

また、施設で看取りを行うには、配置医師の協力が必要不可欠です。夜間に配置医師に連絡が取れる体制、そして駆けつけられる体制がない限りは、施設でのお看取りは実現しません。

さらに、施設で入所されている方が亡くなることは、介護職員にとって非常に大きなプレッシャーとなります。そのため介護職員に対して看取りの研修も行いました。

実際に施設で看取りを経験した職員からは、看取りをしてよかったことや心残りとなったことについて、このような声が挙がっていました。

<よかったこと>

・目をみながら状態の把握やケアにあたることができた

・体の状態に応じて食事内容を変更できた

・お見送り時に、ご本人の好きな歌をかけたり、思い出の品をベッドに置いたりして、生きてきた証とともに最期を過ごすことができた

<心残りだったこと・悩んだこと>

床ずれを作ってしまったこと。最後まで痛みや苦痛がないように対応したかった。

・浮腫が強く、辛い状況が見受けられた。痛みを和らげてあげることができなかった。

<学んだこと・気づいたこと>

・寄り添う気持ちが看取りケアでは大切であることを実感することができた

・ご本人だけでなく、ご家族への支援の方法についても配慮する方法を学ぶことができた

次に、当施設で行っていた救急対応についてお話しします。施設では日中に体調不良を訴える方がいる場合には、配置医師の指示を受けて対応します。また、夜間に急変した場合には、オンコール担当の看護師または配置医師に連絡をして、対応方法について指示を受けます。このときすぐに救急車を呼ぶのではなく、救急要請するようにとの指示を受けた場合に救急車を呼ぶようにしています。

もし、夜間に救急搬送があると、夜勤介護職員1名が病院へ付き添う必要があります。施設では早朝から着替え、食事や薬の介助、モーニングケアなどを行うため、職員が欠けることで1日のうちもっとも忙しい朝の介護が手薄になってしまいます。

そのため、急変時でもまずは配置医師や看護師の指示を受けることで、施設でできることは施設で対応するようにしています。

 

引き続き、あすか山訪問看護ステーション(東京都北区・訪問看護および居宅介護支援事業所)主任介護支援専門員の鷲津隆一氏から、ケアマネジャーの立場によるお話がありました。鷲津氏は自身の経験をもとに、ケアマネジャーによる救急要請についてお話しをされました。

まずは、要介護2の75歳1人暮らしの男性の事例をお話しします。男性はいくつかの介護サービスを利用しながらも、自身で買い物に行くなどある程度自立した生活を送っていました。

ある日、私が訪問すると男性は脱水症状を起こしていて、救急要請をするべきか非常に悩みました。なぜなら、入院となってしまった場合、現在維持できている在宅生活への復帰が難しくなってしまうのでは、と考えたのです。

そこで、在宅医に連絡をとり早急に自宅に来ていただき点滴処置のみで症状が改善しました。不要な救急要請を行うことなく、自宅での適切な処置で治療が終了できた事例です。

続いては、要介護3の86歳女性のケースです。女性は高安動脈炎という難病を抱えていて、体調不良になる度にご家族が救急要請し、入退院を繰り返しています。

私は、訪問診療を導入して在宅での治療を行うのが望ましいと考えていました。

ある日再び入院されたので、訪問診療の手続きを進めるために、私は女性の主治医と話をする機会を作ろうとしました。しかし、病院のソーシャルワーカーや看護師、主治医に連絡するも、なかなかその機会を作ることができず、その間に女性は退院となってしまいました。

病院と在宅で円滑な連携を図ることができないことによる事例です。

次は、要介護4の49歳女性の事例です。女性は虫垂がんが全身に転移をしていて、入院しても治療ができない末期の状態でした。毎日の病状に不安を抱えながらも、訪問看護や訪問診療、ヘルパーやケアマネジャーなど多職種が密な連携をとることで、最期は自宅でお看取りをすることができました。

最後は、在宅看取りに関する合意形成ができずにいる男性の事例です。男性は末期の肺腺がんなどを患っていて、訪問診療や訪問看護を利用していました。

私がケアマネジャーとして介入したときには「ご本人もご家族も在宅看取りを希望している」という話でした。しかし、ご本人に聞くと「病院の主治医には、体調が悪くなったら救急車を呼んで入院するようにといわれている」とのことで、実は在宅看取りについての合意が得られていなかったのです。ご本人や家族、関係者間で看取りに関する合意形成ができていないことで、急変時の対応が困難になると考えられます。

これらの事例からわかるように、介護現場における高齢者の救急医療には解決すべき問題が多く残っています。そして、問題解決のためには在宅医療にかかわる関係者全員で、これらの問題の共有から始めることが重要です。

最後に、緊急度判定支援システムJTAS(ジェイタス)について恵泉クリニック院長である太田祥一先生からお話がありました。また、参加者全員が実際にiPadでJTASを使用する講習も行いました。

 

緊急度判定支援システム「JTAS」は、在宅介護などの現場で急変した方がいたとき、医師による診察前に症状を評価し、緊急度・重症度を見極めて治療の優先性を判断するシステムのことです。患者さんが訴える症状や痛みの度合い、またバイタルサインなどを選択して、5段階のうちいずれかの緊急度に割り振るトリアージ作業を行います。

 

JTASによる緊急度判定の目的は、緊急度の高い患者さんの生命をいち早く救うことです。しかし、患者さんのなかには延命治療を望んでいない方もおり「緊急度が高い=早急な治療を行う」という式が成り立たないことも多くあります。

そのため、JTASを使用するうえでは、緊急度だけですべてを判断することは不可能であることを十分に知っておくことが大切です。

医療や介護に携わる方々は、JTASのような生命を救うための知識やスキルを身に付けたうえで、ご本人やご家族の意思をしっかりと確認して、多職種間での相違がないように共有することが重要です。

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