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第23回 日本集団災害医学会総会・学術集会 「災害時の医療を客観視し多面的に捉える」森村尚登先生の会長講演レポート

第23回 日本集団災害医学会総会・学術集会  「災害時の医療を客観視し多面的に捉える」森村尚登先生の会長講演レポート
メディカルノート編集部 [医師監修]

メディカルノート編集部 [医師監修]

この記事の最終更新は2018年03月29日です。

2018年(平成30年)2月1日〜3日の3日間、パシフィコ横浜にて第23回日本集団災害医学会総会・学術集会が開催されました。本学会は「災害時の医療を客観視し多面的に捉える」というテーマで行われ、東京大学大学院医学系研究科救急科学教授である森村尚登先生が大会長を務められました。また、森村尚登先生は学術連合会(アカデミックコンソーシアム)の2020年東京オリンピック・パラリンピックに係る救急医療体制検討合同委員会で委員長を務められています。今回は学会初日に行われた森村尚登先生の会長講演の概要をレポートします。

森村先生

災害発生頻度は多くはないですが、災害に対して準備をせざるを得ない状況があります。

近年国内では自然災害が多発していますし、海外ではテロリズムが頻発している現状があります。さらに、将来的には南海トラフ巨大地震や首都直下型地震が予想されていたり、2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されることからも、今後も自然災害や人為災害のリスクはより一層高くなると考えられるでしょう。

このようなリスクを踏まえて、内閣府では2014年から「国土強靭化」(注)を謳っています。この国土強靭化の基本目標のうち、事前に備えるべき目標に「大規模自然災害発生直後から救助・救急・医療活動等が迅速に行われる(それがなされない場合の必要な対応を含む)」というものがあります。

つまり、本学会は災害時の医療に関する有識者の団体として、この課題にどのように対応していくべきであるのか考える責務があります。

(注)国土強靭化…国家のリスクマネジメントのための防災・減災に対する取り組み。強くてしなやかな国を作ることを目的とし、ナショナル・レジリエンスともよばれる。

「災害時の医療を客観視し多面的に捉える」という本学会のタイトルは「災害時の医療」「客観視」「多面的」の3つのキーワードに分かれます。まずは「災害時の医療」についてご説明します。

かつては「災害医療」という言葉が汎用されてきましたが、これは災害が起きたときだけに行う特別な医療というイメージを想起するものです。

しかし、本来の災害医療は「平時の医療も含め、そのうえで災害時にどのような医療を行うか」ということです。この意味をわかりやすくするために「災害時の医療」と表現をしています。

また、災害時の医療を担うのは医療従事者と関連機関のすべてです。つまり、災害医療を専門とする者だけではなく、すべての医療従事者が災害時の医療について考える必要があります。そこで、本学会では一般的な診療を行う他学会と合同シンポジウムを予定しており、さまざまな観点から災害時の医療について考察する機会を設けています。

災害時の医療を行ううえでは、災害時の医療を多面的に捉えることが大切です。

災害時の医療そのものが持つ多面性、またそれらをみる多くの視点には、このスライドに例を示したように非常にさまざまなものがあります。

これらのあらゆる多面性を意識・理解するために、PDCAに基づき災害時の課題を表にしました。こうすることで、具体的にどのような課題が発生し、それに対して誰が、どのように行動するべきか、という多面性を整理することができます。

また、このPDCAで重要な点は、かかわる人々が災害に対応するときの姿勢や考え方などを共有することです。そこで本学会では、災害時の課題解決に向けて倫理学的・哲学的にアプローチするための市民公開講座も予定しています。

「平時の救急医療でできないことは災害時にもできない」とよくいわれるように、平時から災害時に備えた医療を行うことは非常に重要です。

たとえば、他機関との連携の強化です。連携にはさまざまなものがありますが、状況にあわせて連携の規模もこのように拡大していきます。

  • 平時の救急医療:病院内の部門間における連携
  • 多数傷病者事故など:地域内病院間における連携
  • 大規模災害など:地域間における連携

また、病院内連携は「点」、地域内病院間の連携は「線」、地域間での連携は「網目」と表現できます。そして、網目の連携ネットワークがさらに細かなものになれば、網目はいずれ「面」になります。

災害発生時にはこの「面」の連携が非常に重要です。そのため普段から面の連携を意識し、災害時にもこのような連携体制を発揮できるシステムを作ることが大切です。

また、災害時の医療を客観視するためには、リスク知ることが非常に重要です。これは2011年以降の本学会のセッションを付箋で分類したもので、赤く囲っている「リサーチ」のセッションが少ないことがわかります。そこで今回の学会では、災害時のリスクを知り、評価するためのセッションを設けています。

さらに、温故知新という観点から、1995年に発生した地下鉄サリン事件や阪神淡路大震災のそれぞれで当時フロントラインに立っていた先生などをお招きして災害時のリスクについて議論していただく場も作っています。また、諸外国からは2015年のパリの同時多発テロ、2017年のメキシコ大地震、2015年に韓国で流行したMERS、それぞれの現場のフロントラインに立ち対応された先生がたの特別講演も行います。

このように、実際に大規模災害を経験された先生から過去の事例や現況についてお話しいただくことで、参加者全員でリスクを共有することができればと考えています。

最後に、災害時における課題のキーは「教育」であると考えています。パネルディスカッション『災害医療教育と訓練:いかに多くの人を育成し、いかに多くの人の参画を得るか』には全体の16.4%と非常に多くの演題をいただき、関心が高まっている分野でもあります。

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