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肝臓がんの治療−肝切除の「3Dシミュレーション手術」とは

肝臓がんの治療−肝切除の「3Dシミュレーション手術」とは
國土 典宏 先生

国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 理事長、東京大学 名誉教授

國土 典宏 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年04月11日です。

肝臓がん根治のためには肝切除が有効ですが、肝臓の手術は、他の臓器の手術と比べて非常に難易度の高い手術といわれています。そんな肝臓がんの手術治療において3Dシミュレーション技術(画像支援ナビゲーション)が2012年に保険適用となりました。今回はこの3Dシミュレーションシステムの開発に携わった、国立国際医療研究センターの理事長である國土典宏(こくどのりひろ)先生に肝切除における3Dシミュレーションについてお話を伺いました。

※肝臓がんの概要と症状については記事1『肝臓がんの症状とは?症状がみられるときには進行している可能性も』をご覧ください

聴診器
素材提供:PIXTA

肝臓がんの治療にはいくつかの方法があり、患者さんによって主に以下から選択されます。

  • 外科的治療…肝切除や肝移植
  • 経皮的治療…ラジオ波焼灼術(RFA)など
  • 血管塞栓療法…肝動脈塞栓術(TAE)、肝動脈化学塞栓術(TACE)など
  • 薬物療法…分子標的薬による治療など

外科的治療は肝臓がんの根治目的で行われ、肝切除はがんやその周囲の組織を外科的に切除する治療法です。肝切除を行う際には、本記事でご説明する3Dシミュレーションを用いる施設が増えてきています(3Dシミュレーションについてはあとで詳しく解説します)。

また肝切除や他の治療を行うことができない場合には肝移植が行われます。

肝移植には生体肝移植と脳死肝移植があります。生体肝移植では、健康なドナーから肝臓の一部を移植します。肝臓には再生機能があるため、ドナーの肝臓が十分な大きさでなくても移植後しばらくすると切除前に近い状態まで回復します。脳死肝移植では、脳死と診断されたドナーから肝臓のすべて、もしくは一部を移植します。ただし、肝臓がんが一定以上進行していると移植後にがんが再発し、再発すると治療は困難で予後不良であるといわれています。そのため、移植後も再発しにくい条件である、3cm3個以下、1個の場合は5cm以下という条件を満たす場合(これをミラノ基準をよびます)のみ、肝移植の保険適応が認められています。

ラジオ波焼灼術(RFA)は外科的治療と同じく肝臓がんの根治目的のために行われます。体の外から電極針を挿入し、電極針を通じてがんに対してラジオ波とよばれる電流を通電させ、電流の熱でがんを固めて壊死させる治療法です。

基本的に局所麻酔で行うことができ、根治治療としては患者さんの身体的負担の少ない治療法であるといえます。ただし、3cm以下と小型の腫瘍で、個数も3個以下の症例に適応が限られます。転移性肝がんの場合は局所再発が多いのでRFAは勧められません。

肝動脈塞栓術(TAE)は、鼠径部(そけいぶ:足の付け根)からカテーテルとよばれる細い管を通し肝動脈まで到達させ、がんに栄養を供給している血液の流れをせき止める治療法です。肝動脈塞栓術の手技に加え、抗がん剤の注入を行うことを肝動脈化学塞栓術(TACE)とよびます。この治療法は切除できない症例、肝機能が少し悪い症例に広く行われていますが、がんを根治させることは難しいとされています。

肝臓がんの薬物療法では分子標的薬が主流となってきています。分子標的薬とはがん細胞の増殖や浸潤にかかわる遺伝子やタンパク質だけを標的とする薬剤です。2018年現在、3種類の分子標的薬が保険適応となっています。分子標的薬は飲み薬ですが、特有の副作用があり、使うタイミングや順序など細かい配慮が必要ですので、一般に専門医が処方しています。

肝臓がんの治療、特に肝切除を行ううえで重要なことは「肝臓の機能」と「がんの進行」の双方のバランスを十分に考慮することです。

肝臓内部には「肝動脈・肝静脈・門脈」が表面からはみえないところでとても複雑に入り組んでいます。また肝臓にはいくつかの区域があり、血管がそれぞれの区域に栄養を養うことで機能しています。

そのため、肝切除の際には血管の場所や支配領域を十分に考慮しながら、がんの大きさや個数によって切除範囲の決定を慎重に行う必要があります。

3Dシミュレーションで構築した肝臓の画像
3Dシミュレーションで構築した画像 提供:國土典宏先生

従来の肝切除では、肝臓内部の様子を、平面画像から得られる情報をもとに術者の頭の中で立体的に構築し、切除範囲を予想して手術に臨んでいました。

しかし、3Dシミュレーション技術の登場によって、肝臓内部の血管や領域をコンピューター上に立体的に写し出すことが可能となり、さらに切除後に残る肝臓の容量などが詳細に計測できるようになりました。

では実際に3Dシミュレーションによって具体的にどのようなことができるのでしょうか。詳しくみていきましょう。

3Dシミュレーションでは、術前に撮影したCTやMRI画像を解析することでコンピューター上に3D化(立体化)して写し出すことが可能です。

これまでの平面画像と比べて肝臓内部の血管の状態をより詳しく把握できるようになり、術中の出血リスクの減少にもつながることが期待されます。

残容量を計測
素材提供:PIXTA

また、3Dシミュレーションソフトを用いることで切除後に残る肝臓の容積や割合を正確に計測できるようになりました。

人間の肝臓は正常の場合3割が残存し、かつそれらが正常に機能していれば、7割まで切除することが可能です。しかし切除の割合が少しでも大きくなってしまうと、肝臓は正しく機能する能力を失い充分な再生ができず、最悪の場合は肝不全という生命に係わる重篤な状況になります。そのため、残存する肝臓の容量をしっかりと把握することはとても重要です。

1990年代の技術でも切除後に残存する肝臓の大きさを大まかに計算することができましたが、3Dシミュレーションソフトが用いられるようになってからは、とても細かく複雑な部分まで把握して肝臓の容量を計測することができ、ぎりぎりの範囲まで切除を行うことが可能となったのです。

肝臓はいくつかの区域に分かれており、各区域に血管が栄養を供給することで機能を維持しています。

それぞれの区域は完全に独立していて、区域間に血管のつながりはありません。そのため、区域に栄養を供給している血管を切除すると、その区域は機能しなくなってしまい、残っているように見えても実際には機能していないことになります。

3Dシミュレーションでは、どの血管がどの区域に栄養を供給しているのかがとても細かくわかるようになり、切除後に残る肝臓のうち正常に機能する部分がどのくらいあるのか、ということも詳細にわかるようになりました。

術前には3Dシミュレーションを用いて詳細な手術計画を立案しますが、術中はICG(インドシアニングリーン)を使用することで、より質の高い手術を目指すことが可能です。

ICGとは緑色の色素で、肝細胞だけに取り込まれ胆汁によって排出されるという特殊な性質を持っています。本来は肝機能を測る検査であるICG試験(ICG投与15分後に血中のICG量を調べる検査。残っているICGが多いほど肝機能が悪い)に使用されていました。 

蛍光イメージングされた肝細胞がん
蛍光イメージングされた肝細胞がん 提供:國土典宏先生

ICGには特殊な波長の赤外線を当てることで蛍光を発する特性があります。この特性を用いてがんを光らせる「蛍光イメージング(ICG蛍光法)」が肝切除において行われています。

先述のように、ICGは肝細胞に取り込まれたあとに胆汁から排出される性質を持ちます。同じように、肝細胞がんもICGを取り込む性質を持つことが2007年頃からわかってきました。

ただし肝細胞がんは通常の肝細胞とは異なり、胆汁のなかにICGを排出する能力を失っているようです。このICGが肝細胞がんに取り込まれたあとも排出されずにとどまる点を生かし、術前にICGを注射しておき、手術中に特殊な赤外線を当てることで、がんを蛍光発光させることができます。これを蛍光イメージング(ICG蛍光法)とよびます。

この方法を使うことでがんの領域が明瞭になり、術前に発見できなかったがんがあっても手術中に発見できることもあります。

肝臓がんは周辺の門脈に沿って肝臓内に広がっていくといわれているため、肝切除の際にはがんだけを切除するのではなく門脈の枝ぶりに沿って切除する「系統的切除」が根治に有効です。これは私の恩師である幕内雅敏先生が1980年代に開発した方法であり、以来肝切除においてはこの方法を踏襲して行っています。

系統的切除を行ううえでは、がん周辺の門脈がどの範囲まで栄養を供給しているのかを正確に鑑別する必要があります。そのために、最近ではICGを門脈の枝に注入することで、門脈が栄養を供給している区域が染色され、切除すべき範囲が明瞭にわかるようになりました。

國土典宏先生

現在はコンピューター上に構築された3D画像と手術中の手の動きが連動するようなシステムの開発に取り組んでいます。

地図上を車が進んでいくカーナビのように「メスがどこまで進んでいて、がんまでの距離までがどのくらいで、この先に血管があるから気をつけよう……」ということがリアルタイムでわかるようなソフトウェアの開発を目指しています。

本記事でご紹介した3Dシミュレーションは2012年に「ナビゲーション」という名称で保険適用となっていますが、実際にはまだまだ理想のナビゲーションには程遠いものであると考えています。現在開発中のシステムが構築できたら、それが本当のナビゲーションになるでしょう。

肝切除は腹部から胸のあたりまで大きく開腹する必要があり、傷口が非常に大きいことが欠点です。この傷口をなんとか小さくできないかということを日々考えているのですが、最近普及している腹腔鏡下肝切除で簡単な切除は可能ですが、複雑な手術や正確な系統切除はまだまだ難しいようです。私個人としてはロボット手術に期待をしています。

ロボット手術の技術がもう少し進歩すれば、近い将来には患者さんの負担を軽減し、かつクオリティの高いロボット肝切除を行える日が来るかもしれません。
 

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