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大動脈弁狭窄症の手術治療とは?

大動脈弁狭窄症の手術治療とは?
岩切 直樹 先生

北海道大野記念病院 循環器内科 主任医長

岩切 直樹 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年06月18日です。

大動脈弁狭窄症を根本的に治療するためには、機能しなくなった大動脈弁の代わりとなる人工弁を入れる「大動脈弁置換術」という治療が必要です。この治療方法には、手術治療とカテーテル治療という2つの選択肢があり、適応や本人の希望をもとに選択されます。

今回は大動脈弁置換術の手術治療について、北海道大野記念病院 循環器内科 主任医長の岩切 直樹先生にお話を伺いました。

大動脈弁狭窄症には基本的に新たに人工弁を入れる治療が行われます。このような治療を「大動脈弁置換術」といいます。人工弁を入れるためには「手術治療」か「カテーテル治療」を行う必要があります。これらの治療方法は、ひとまとめに「外科的治療」と呼ばれることもあります。また、手術治療を「開胸大動脈弁置換術」、カテーテル治療を「経カテーテル大動脈弁置換術(通称、TAVI)」とそれぞれ呼び分けることもあります。本記事では大動脈弁狭窄症の手術治療である「開胸大動脈弁置換術」について詳しくご説明します。「経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)」については記事4『大動脈弁狭窄症の治療方法の1つ、TAVIとは?』をご覧ください。

カテーテル治療……カテーテルという医療用の細い管を血管に挿入し、血管内の処置を行う治療のこと

大動脈弁狭窄症に対する薬物治療は、短期間の安定を目的として行われることがあります。しかし、根本的な治療にはならず、症状も年齢に伴って進行してしまうため、根本的な治療を望む場合、最終的には外科的治療が必要です。

開胸手術

手術による大動脈弁置換術は、胸の一部を切り開き、心臓を一度停止させて治療を行います。元あったうまく機能しない大動脈弁を取り除き、新たに人工弁を縫い付ける治療方法です。

開胸する位置(左:胸骨正中切開 右:小切開手術(MICS)

大動脈弁狭窄症に対する手術治療の場合、胸の開き方は大きく2つあります。1つめは「胸骨正中切開」といい、胸を中央から25cmほど切り開く方法です。もっともスタンダードな手法であるこの切開方法では、皮膚や組織だけでなく、骨も大きく切り離します。

2つめは「小切開手術(MICS)」と呼ばれる手法です。この方法では脇腹を5cmほど切り開き、肋骨の間を少し押し広げるようにして治療を行います。胸骨正中切開よりも傷が小さく済むことが特徴です。

小切開手術に関しては、当院副院長の大川先生による記事『弁膜症の手術方法―低侵襲心臓手術「MICS手術」とは?』も併せてご覧ください。

人工心肺

手術による大動脈弁置換術は、心臓が動いている状態では治療ができないので、心臓の拍動を停止させて治療に当たる必要があります。そのため手術中は例外を除いて「人工心肺」を使用します。人工心肺とは血管を専用の装置につなぎ、元来心臓が行っている血液の循環を一時的に機械によって行う方法です。

人工心肺を以下のような患者さんに使用する場合は注意が必要です。

まず、ご高齢の患者さんに行う際は、体力面での考慮が必要です。その理由は人工心肺を使用するとその後の免疫が低下しやすく、術後の回復に時間がかかることがあるからです。 

また、動脈硬化が強い患者さんには人工心肺の使用が難しい場合があります。人工心肺を使用する際は、心臓へ続く大動脈を一時的に封鎖する「大動脈遮断」という処置が必要です。この際、鉗子(かんし)という専用の器具で血管を強く挟み込み、血流を遮断するのですが、動脈硬化が強いと鉗子で挟み込んだ際血管に傷がつきやすく、大動脈解離脳梗塞など別の病気に結びついてしまうことがあります。

大動脈弁置換術に限らず、弁膜症の手術治療では人工弁が使用されます。手術で用いられる人工弁は大きく生体弁と機械弁に区別されます。

手術治療で用いられる人工弁については当院副院長の大川先生の記事『弁膜症の治療―弁を整える「形成術」と人工弁を入れる「置換術」』も併せて御覧ください。

大動脈弁狭窄症の手術治療に生体弁を使用した場合、どの生体弁を入れるかによっても左右されますが、おおよそ15年ほどで、弁が変性し機能が低下してしまいます。そのため、患者さんの年齢や状態によっては再手術が検討されることもあります。

変性……体の細胞や組織が変化すること

一方で機械弁を使用した場合、基本的には変性の恐れがなく1度入れた人工弁が生涯に渡って機能を果たすことが多いです。しかし、機械弁は金属製の人工物であるため血液と反応をおこし、血管内で血栓(血の塊)を作りやすいという特徴があります。血栓が生じると血管が詰まり、脳梗塞心筋梗塞を引き起こす恐れがあります。

そのため大動脈弁狭窄症の手術治療で機械弁を選択した場合には、術後生涯ワルファリンカリウムを服用する必要があります。ワルファリンカリウムとは、血液の凝固を防ぐ効果のある薬です。また、生体弁を選択した場合でも、手術直後一定の期間はワルファリンカリウムの服用が必要となります。

大動脈弁狭窄症に対する手術治療の歴史は長く、2007年にヨーロッパで「経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)」が積極的に行われるようになるまで、大動脈弁狭窄症を根本的に治療する唯一の手段として使用されていました。

輸血

以下では手術による大動脈弁置換術で特に懸念される合併症*について説明します。これらの合併症はカテーテル治療でも起きる可能性が全くないわけではありませんが、特に手術治療時に注意が必要なものです。

手術治療でもカテーテル治療でも、ほぼ同等に懸念される合併症に関しては記事5『大動脈弁狭窄症の治療方法―術後の合併症・再発について』を併せてご覧ください。

合併症……ある病気や、手術や検査が原因となって起こる別の症状

手術治療の合併症として、胸を切り開いた傷からの感染症が考えられます。手術による大動脈弁置換術では、特に胸骨正中切開を用いた場合、胸の傷が25cmほどと大きいです。そこから細菌が侵入し、縦隔炎(じゅうかくえん)などの重篤な感染症を引き起こすと、命にかかわることもあります。

大動脈弁狭窄症の手術に限らず、心臓の手術を行うと出血多量や心不全によって急性腎障害を引き起こすことがあります。急性腎障害は腎臓への血流が低下することによって起こり、老廃物の排出が滞ったり、塩分や糖分の再吸収に支障が生じたり、さまざまな症状を引き起こします。

また、手術治療は胸を切り開くことから、出血多量になり輸血が必要になることもしばしばあります。輸血量が多くなれば、アレルギー反応や感染症などのリスクが高まります。
 

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