くも膜下出血とは、脳の血管にできた瘤が破裂して起こる病気です。くも膜下出血を発症すると、3分の1の方に後遺症が残るといわれています。くも膜下出血の術後に注意すべきことや後遺症について、医療法人春秋会 城山病院の島野裕史先生にお話を伺いました。
くも膜下出血を発症すると、短期的には、脳血管攣縮と水頭症が起こる可能性があります。そのため、くも膜下出血の治療後2週間は脳血管攣縮と水頭症に注意し、発症した場合には直ちに治療を開始します。
脳血管攣縮とは、脳の血管が縮むことで血流が悪化した状態を指します。脳梗塞を引き起こし、後遺症を残す要因となる可能性があります。
くも膜下出血を発症すると、脳脊髄液*の流れが滞りやすくなります。水頭症とは、脳脊髄液がたまることで頭蓋内圧が上昇し、脳の機能が障害されてさまざまな症状が起こる病気です。
脳脊髄液:脳室とくも膜下腔を満たす透明の液体で、脳を保護する役目を持ちます。
くも膜下出血を含め脳卒中の発症後は、脳の血流悪化や治療の影響によって、うつ、症候性てんかん*、認知機能の低下などが起こる可能性があるため注意が必要です。脳卒中後にうつや認知機能の低下などが現れた場合には、薬物による治療、リハビリテーションなどを行います。
症候性てんかん:てんかんとは、脳の一部の神経細胞が異常・過剰な電気活動を起こすことで、手の震え、全身痙攣、意識障害などさまざまな症状をきたす病気です。脳卒中を発症したあとには、症状性(ある病気が原因になっている)てんかんを起こすことがあります。
記事1『くも膜下出血の原因』でお話ししたように、くも膜下出血を発症した場合、3分の1の方に後遺症が残るといわれています。一般的に、くも膜下出血が重症であればあるほど後遺症も重いとされ、くも膜下出血を発症した際の意識障害のレベルが後遺症の重症度にかかわることが知られています。
以下に、くも膜下出血を含めた脳卒中で起こりうる後遺症を示します。
高次脳機能障害とは、脳が損傷することで生じる認知機能や精神機能の障害を指します。高次脳機能障害は、くも膜下出血などの病気や、交通事故などの外傷によって起こりえます。
【高次脳機能障害】
など
脳卒中の後遺症として、片麻痺(体の左右どちらかの力が抜けたり、感覚がなくなったりする)や手足のしびれが残ることがあります。
脳卒中の後遺症として、嚥下障害(食べ物や飲み物をうまく飲み込めない)が残ることがあります。
くも膜下出血の後遺症をできるだけ軽度に抑えるためには、回復期(治療後、病状が安定している時期)のできるだけ早いうちにリハビリテーションを開始することが重要です。
しかし、後遺症を残さないためには、破裂する前に脳動脈瘤を発見して治療することがもっとも大切です。未破裂の状態で脳動脈瘤をみつけられれば、くも膜下出血を未然に防ぐことができ、ひいては後遺症を残す事態を回避できる可能性があるのです。
ある研究データによれば、脳動脈瘤に対して開頭クリッピング術を行ったあと、新生瘤(新たに発生した動脈瘤)が発生した頻度は、年間0.89%です。この数値からわかるように、脳動脈瘤はきちんと治療を行えば再発するリスクは高くないといえます。
しかしながら、記事1『くも膜下出血の原因』でご説明したように、高血圧や喫煙などはくも膜下出血のリスクファクターです。そのため、治療後の生活で血圧や禁煙などを適切にコントロールすることは非常に大切です。
多発性嚢胞腎を有する方の場合、脳動脈瘤の合併率が高く破裂しやすいことがわかっています。そのため、該当する方については再発リスクを頭にとどめ、定期的な検査を行いましょう。
治療後、患者さんにはまず安心していただきたいです。術後に心配しすぎると、心労が積み重なってしまい、患者さんやご家族のためによいとはいえません。治療を終えたらまず安心して、ご自身の生活を満喫していただけたら嬉しいです。
日常生活のなかで血圧のコントロールや禁煙を行い、定期的な検査に通うことで、再発リスクを抑えられます。特に、若年でくも膜下出血を発症した、あるいは家族にくも膜下出血の方がいるといった場合には、注意して生活していただけたらと思います。
医療法人春秋会城山病院 脳・脊髄・神経センター
島野 裕史 先生の所属医療機関
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