インタビュー

胃切除術後障害- 胃を切った人の後遺症とは?

胃切除術後障害- 胃を切った人の後遺症とは?
青木 照明 先生

汐留みらいクリニック 顧問

青木 照明 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年05月18日です。

胃切除術後障害とは、胃がんの治療などで胃を切除したあとに起こる障害のことです。胃がんなどの病気は、胃を切る手術によって治療が可能ですが、胃の一部あるいはすべてを失うと新しい病状(後遺症)が発生することをご存知でしょうか。もしも後遺症が軽くても、老化・老衰や身体機能の低下が早期に現れることがわかっています。胃を切った方は、他の器官は胃の代わりにならないということを意識して、術後のケアに取り組んでいきましょう。

今回は、胃切除術の概要と、胃切除術後に起こる症状について、汐留みらいクリニック顧問 青木照明先生にお話を伺いました。

胃切除術とは、胃の一部を取り除く(粘膜切除術など)か、胃のすべてを取り除くこと(胃全摘術)によって治療を行う手術療法です。胃切除術を必要とする病気には、胃がんや胃悪性リンパ腫などがあります。なかでも、日本人にもっとも多いものは胃がんです。

胃

胃全摘術を実施するかどうかは、がんが発生した場所と深さによって決まります。IA、IB、II、IIIA、IIIB、IVと分類されている胃がんのステージ(病期)のなかで、いずれのステージでも胃全摘術を行う可能性があります。

胃がんの約10%は、遺伝的な要素によって発症する「スキルス胃がん」です。スキルス胃がんの患者さんは、多くの場合、胃全摘術を用いて治療が行われます。

遺伝的な要素により発症するスキルス胃がんは、胃の壁の内側から外側にかけて、粘膜・粘膜下層・筋層と広がっていきます。スキルス胃がんが進行すると、胃の壁全体が厚く、固くなっていきます。この状態はレザーボトル*と呼ばれており、胃全摘術の対象となります。

レザーボトル…ワインを入れるための革袋。

がんの発生する場所とタイプによって、胃を切る範囲は変わります。小さくても周りに広がっているがん(浸潤性のがん)の場合は、全摘術が行われます。大きく切り取らなければ、がんが残ってしまうためです。

ステージIAの胃がんでも、がんが深くなると血管に入って全身に回る恐れがあることから、胃全摘術を行うことがあります。

ステージ0(胃壁の粘膜層の内側にのみ異常な細胞がみられる状態)などの早期胃がんの場合は、多くの場合、粘膜を削り取る粘膜切除術(胃の部分切除)が実施されます。

また、日本の医療技術がさらに発展すれば、胃を残しながら粘膜だけ切除するケース(粘膜切除)や、狭い範囲を切除するケース(小範囲切除)が増えるのではないかと期待されています。

ただし、胃全摘術を必要とする患者さんは一定数いらっしゃいます。主に、胃全摘術の対象となるスキルス胃がんは、遺伝的要素が関連しており、患者さんの数は増減しないと考えられるためです。

上述したように、胃がんなどの病気は胃切除術により治療が可能です。しかし、胃の一部あるいはすべてを失うと、新しい病状が発生します。胃切除術を受けた患者さんにみられる後遺症を「胃切除術後障害」といいます。

胃切除術後障害が起こっていても、がんなどの再発がみられなければ病院では異常なしと判断されることもあります。しかし、それは誤りです。実際には「痩せ」や「つかえ」など、人によって異なるさまざまな後遺症が存在します。こうした症状は総称して「胃切除後症候群」と呼ばれています。

胃を切除すると、はじめに以下のような病状が現れてきます。

胃を切除すると、はじめに「貯留能」と呼ばれる胃のはたらきが欠落して、食べ物を受け入れられなくなります。

貯留能とは?

胃は、食べ物を受け入れて消化するはたらきをもっています。食べ物が胃のなかに入ると筋肉の運動が起こり、ためる・細かくする・粘膜から消化液を分泌するという3つのはたらきによって消化されます。また、さまざまなホルモンが分泌されて、消化液の分泌や胃の運動を促します。このような一連のはたらきを貯留能といいます。

胃切除術を受けた患者さんは、たとえ胃をすべて取り除いたとしても腸が機能していれば、日数が経てばある程度は食べられるようになるといわれています。しかし実際には、胃を切ったあとで腸が胃の代わりに消化・吸収を担うようになることはありません。

胃を切除して3か月から半年くらいは、貯留能が欠落することから、食べ物が量的にどうしても入らないという状況になります。この状態を「小胃(しょうい)症状」といいます。食べ物をためる胃がなくなって小胃症状が起こると、無理に食べ物を入れようとしても、食道から小腸へとすぐに送り出されてしまいます。

食べ物が小腸に入るとき、「ダンピング症候群」が起こります。ダンピングとは、食べ物が短時間のうちに小腸へ送り出されることにより起こる症状です。冷や汗やめまいなど、さまざまな症状がみられ、これらを総称してダンピング症候群と呼ばれています。

後遺症の種類について、詳しくは次の項目で解説します。

介護

胃を切ったあとには新しい病状がみられます。まず、具体的な症状が現れるより前に、

  • 栄養失調で免疫力が落ちる
  • 血糖値の乱高下によって体力が落ちる、疲れやすくなる
  • 気力が落ちる

などの変化がみられます。

血糖値の乱高下とは?

胃を切除した患者さんには、1日のなかで血糖値の乱高下がみられます。ほんの少しご飯を食べるだけでも180 mg/dlや200mg/dlまで血糖値が上昇します。その後、正常な膵臓からインスリン(血糖を低下させるホルモン)が出ることから、血糖値は2~3時間で低下します。しかし、食べる量が少ないため、分泌されたインスリンは余分となってしまい、血糖値は下がり続けます。

血糖値が50 mg/dl~60 mg/dlまで下がると、低血糖の症状である冷や汗が出たり、気を失いそうになったりすることがあります。これを繰り返すことで疲れやすさにつながります。

発生する症状は、患者さんによってさまざまです。多くの方には、痩せ・下痢・おなら・つかえ・疲れ・便秘などがみられます。このなかのすべてを経験する方もいれば、どれか1つを経験する方もいます。また、手術の内容、胃を切ったあとどのようにつなぐかという「再建方法」の種類、食事の仕方、胃切除後に経過した年数などにより、1人1人の症状は異なります。

その他、胃切除に関連して起こる病気には、上述した症状のほかに腸閉塞・栄養障害・狭窄障害・通過障害・胆のう炎胆管炎サルコペニア貧血などがあります。

サルコペニアとは、加齢や病気によって筋肉量が減少して身体機能が低下することを指します。骨折事故や、からだや脳の病気の原因となる恐れがあります。また、寝たきりになる方や、要介護の状態になる方もいます。胃切除術後の自覚的後遺症状が軽いと感じられる方でも、老化老衰・サルコペニアが早期に起こる恐れがあります。

胃切除術後は食事の量が少なくなっても構いませんが、それでは栄養バランスが崩れてしまう恐れがあります。また、なかなか食事できない期間があることで、食欲を失ったり、栄養失調になったりする方は多くみられます。

多くの場合、胃切除術後に不足しやすい栄養素はビタミンB12、鉄、銅、亜鉛です。特に、亜鉛が不足すると味覚がなくなるため、おいしく食べられなくなることが懸念されます。

以上のような症状を防ぐためには、適切な術後のケアが必要です。具体的な方法については、記事2『胃切除術後障害-術後に必要なケアとは?』でお伝えします。

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