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未破裂脳動脈瘤の治療 血管内コイル塞栓術について

未破裂脳動脈瘤の治療 血管内コイル塞栓術について
片岡 丈人 先生

北海道大野記念病院 主任診療部長 兼 脳血管内治療センター長

片岡 丈人 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年07月25日です。

血管内コイル塞栓術とは、脳動脈瘤の破裂を予防するための治療法です。患者さんの脚の付け根からカテーテル(医療用の管)を挿入し、脳動脈瘤にコイルを詰めることで脳動脈瘤に血液が流入することを防ぎます。そして、2018年現在は、コイルとステント(細い金属の線維で編んだ筒状の医療器具)を併用し、より再発率の低い血管内コイル塞栓術も実施されています。

今回は、社会医療法人孝仁会 北海道大野記念病院 脳神経外科主任教授の片岡丈人先生に、血管内コイル塞栓術の特徴や治療後の生活においての注意点についてお話しを伺いました。

血管内コイル塞栓術のイメージ
血管内コイル塞栓術のイメージ

血管内コイル塞栓術とは、患者さんの脚の付け根からカテーテル(医療用の管)を挿入し脳動脈瘤のある場所まで進めていった後、脳動脈瘤のなかにコイルをつめるという治療法で、日本では電気離脱型コイルが1997年に承認され、臨床で広く使用されています。コイルを詰めることで、脳動脈瘤のなかに血液を入れないことが目的です。開頭クリッピング術のような、開頭(頭蓋骨の一部を開ける)は行いません。

未破裂脳動脈瘤の治療法である開頭クリッピング術について詳しくは、記事2『脳動脈瘤の治療とは 経過観察と破裂防止の治療法がある』をご参照ください)

未破裂脳動脈瘤の患者さんの状態(脳動脈瘤の位置や大きさ、年齢など)や希望を考慮し、医師が開頭クリッピング術ではなく、血管内コイル塞栓術で十分に治療できると判断した場合、血管内コイル塞栓術の適応となります。

ステントを併用した血管内コイル塞栓術
ステントを併用した血管内コイル塞栓術

従来の血管内コイル塞栓術は、コイルだけの使用が一般的でした。そのため、再発率や完全閉塞の観点から脳動脈瘤と血管とつながっている入り口部分が比較的狭い患者さんが対象となる傾向にありました。しかし、そのような条件を満たさない患者さんも多くいます。

そこで、2018年現在は、コイルだけでなくステントを併用する血管内コイル塞栓術が普及しています。ステントとは、細い金属の線維で編んだ筒状の医療器具です。ステントを併用する場合は、上の図のようにコイルを詰めた脳動脈瘤と接している血管に挿入します。ステントをこのように挿入することで、コイルが血管内に飛び出すことを予防し、脳動脈瘤が再発することを防ぐ効果が期待できます。最近のステントは単にコイルの血管内への突出を防ぐだけでは無く、ステントによって血液の流れる方向を制御し、ステントの網目を足掛かりにして、血管を再構築し治癒に向かわせることが可能になっています。

ステントの改良が進んだことによってさまざまな形の脳動脈瘤に対応することができ、患者さんの適応範囲も広がっています。

さらに最近では、ステントの用途も変化しています。従来のステントの用途は上でご説明した通り、コイルが血管内に飛び出すことを防ぐためのものでした。しかし、最近はステントで新たな血液の通り道を作るといった考え方に変わってきています。実際にいくつかの施設では、コイルを詰めなくても脳動脈瘤の破裂予防ができるステントを使用した治療が行われており今後普及していくと考えられています。

病院のベットに寝ている中高年の患者さん

血管内コイル塞栓術には以下のような特徴があります。

開頭手術を行った場合、術後に口が少し開けにくく感じる、傷跡が強く痛むといった心身への負担が発生します。しかし、血管内コイル塞栓術は開頭をしないため、術後の痛みも少なく、患者さんへの負担が少なくなります。そのため、一般的に術後の回復は開頭手術の際よりも早いと考えられます。

血管内コイル塞栓術は、脚の付け根の血管から脳の血管へ到達させます。そのため、切開では脳や神経を圧迫してしまう危険性のある頭の深部にある脳動脈瘤にもアプローチしやすいという特徴があります。

血管内コイル塞栓術特有のリスクとしては、以下のようなものがあります。なお、血管内コイル塞栓術・開頭クリッピング術共通のリスクとしては、手術中の脳出血や神経損傷、脳梗塞です。このような合併症を発症した場合、後遺症(感覚障害*、失語症*、運動機能障害*、意識障害など)が残ることもあります。

感覚障害…感覚神経に異常が生じる障害で、触覚や痛覚などが鈍くなる。

失語症…脳の言語中核が傷つくことによって、言葉を上手く使えなくなること。

運動機能障害…手足や顔などの運動がうまく行えなくなること

従来の血管内コイル塞栓術は開頭クリッピング術と比較すると、再発率が高いといわれています。しかし、2018年現在はコイルだけではなくステントも併用することで再発率を低くすることができます。なお、再発があった場合は、再度血管内コイル塞栓術を実施し、コイルを足すことによって対応します。また、最初の治療がコイルを詰めるだけだった場合は、ステントを挿入することもあります。

血管内コイル塞栓術を実施した後は、血栓(血液が固まったもの)ができやすい状態です。そのため、術後は血液を固まりにくくさせる薬を服用する必要があります。コイルを詰めるだけの治療の場合は、術後数週間ほど薬を服用し終了します。ステントを併用した場合には、1日に1回の服用を長期的(ステントに血管壁がどのくらい密着しているかによって異なる)に続けます。薬を飲んでいる間はケガなどによる出血があると、止血が困難になるケースもあります。

片岡先生が血管内コイル塞栓術を実施している様子)  (ご提供:片岡先生)
片岡先生が血管内コイル塞栓術を実施している様子(ご提供:片岡先生)

血管内コイル塞栓術は、患者さんの血管に造影剤を流し入れ、X線で観察しながら行います。

まず、患者さんに麻酔をかけた後、右足の付け根からカテーテルを挿入します。最初は太めのカテーテルを使用し頸部まで進め、次にそのカテーテルのなかに細いカテーテルを通し脳動脈瘤内まで進めます。そして、細いカテーテルのなかからコイルを通し、脳動脈瘤内に挿入します。コイルが適度な位置に挿入できたら、カテーテルからコイルを切り離します。

コイルを脳動脈瘤の中に入れるイメージ
コイルを脳動脈瘤の中に入れるイメージ

血管内コイル塞栓術において、局所麻酔を選択する施設もありますが、全身麻酔で治療を行う施設が多い傾向にあります。全身麻酔を使用するメリットは、患者さんの頭が動く心配がないため、造影剤を血管に流し込んで撮影するX線透視画像を鮮明に写すことが可能です。また、局所麻酔の場合、万が一患者さんの気分が悪くなったときは、途中で治療を中断する必要があります。しかし、全身麻酔であれば患者さんの気分が悪くなることによって、治療を中断することはありません。こうした点から北海道大野記念病院では、全身麻酔を使用しています。

コイルだけを使用する血管内コイル塞栓術の場合、治療後3か月後と半年後に外来でMRI*を撮影します。その後は1年に1回の画像検査を実施します。ステントを併用した場合は、術後3か月後に画像検査をし、半年後は入院をして血管造影検査*を実施します。その後は1年に1回の画像検査を実施します。

治療後の日常生活はほぼ普段通り送ることが可能です。しかし、血栓防止の薬を服用している場合、血が止まりにくい状態になっているため、ケガによる出血には注意が必要です。また、他の病気の外科手術を実施する際などには薬の服用を中止する必要がありますので、医師に相談してください。

MRI…磁気を使い、体の断面を写す検査

血管造影検査…血管のなかに造影剤を流し入れ、X線で撮影する検査

先生

未破裂脳動脈の破裂を予防する治療法は再発率や安全面において様々な工夫がされ、日々進歩しています。特に血管内コイル塞栓術はコイルと共にステントを併用することで、以前よりも再発率は低くなり、患者さんの適応範囲も広がっています。そのため、血管内コイル塞栓術の実施数も年々増加傾向にあります。

しかし、未破裂脳動脈瘤を予防する治療には必ず合併症のリスクを伴います。自然経過で破裂し、くも膜下出血を起こす確率と治療によるリスクを専門の医師と話し合い、しっかりと考えたうえで、経過観察・開頭クリッピング術・血管内コイル塞栓術のどれを選ぶかを選択することが重要です。
 

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