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心臓弁膜症の手術はどのように行う?方法や適応について

心臓弁膜症の手術はどのように行う?方法や適応について
福田 宏嗣 先生

獨協医科大学 心臓・血管外科学 教授

福田 宏嗣 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年07月26日です。

心臓弁膜症の手術方法には、自分の弁を修正して治す「弁形成術」と新しい人工弁に入れ替える「弁置換術」があります。また、これまでは胸を大きく開いて行われていた心臓弁膜症の手術が、小さな傷で行うことができるようにもなってきています。今回は、獨協医科大学病院 心臓・血管外科診療部長である福田宏嗣先生に心臓弁膜症の手術方法や適応などについてお話を伺いました。

心臓弁膜症の検査では、まず聴診で心雑音を確認します。心臓弁膜症を発症している場合には、必ず心雑音を拾い上げることができます。また、聴診だけでも「心雑音が聞こえる場所とタイミング(収縮期または拡張期)」で、どの弁にどのような異常が起きているかを、おおよそ推測することが可能です。

聴診で心雑音が確認されたら、心臓超音波検査(心エコー)で心臓の様子を確認します。心臓超音波検査では、心臓弁膜症の重症度や心臓の動き(全身に血液を送るためのポンプ機能)を確認することができます。そして、心臓超音波検査で得られた情報によって、手術の適応を決定します。

心臓弁膜症では、悪くなった弁を治す手術を行います。手術の方法には、「弁形成術」と「弁置換術」があります。

<心臓弁膜症の手術方法>

弁形成術…患者さん自身の弁を温存しながら、弁の形やその周囲を修復する

弁置換術…悪くなった弁を取り除いて、人工弁に取り替える

弁形成術は僧帽弁閉鎖不全症に対して行われることがほとんどです。そのため、ここでは僧帽弁閉鎖不全症に対する弁形成術についてご説明します。

弁形成術にはさまざまな手法があり、僧帽弁のどの部分に異常が生じているかによって、手術の方法が変わります。弁形成術の手法は、1980年代にフランスのアラン・カーポンティエール(Alain Carpentier)先生が体系化したのがはじまりで、以降その手法を応用してさまざま方法で弁形成術が行われています。そのなかでも、主に用いられる手法は以下の3つです。

  • 人工腱索の移植
  • 弁尖切除
  • リング(人工弁輪)の装着

これらの方法について詳しく解説していきます。

人工腱索の移植

僧帽弁は弁の動きだけでなく、弁を支えている腱索とその付け根にある乳頭筋が複合的に動くことによって正常に機能しています。そのため、加齢などが原因で腱索が切れたり伸びたりしてしまうと、僧帽弁がぴったりと閉じなくなってしまい、血液の逆流が生じます。

このように、腱索の異常で僧帽弁閉鎖不全症を発症している場合には、人工腱索を移植して弁と乳頭筋をつなぎ直す手術を行います。

弁尖切除

僧帽弁閉鎖不全症では、弁の変性によって弁の一部が逸脱(いつだつ)してしまっていることがあります。この場合には、逸脱した弁を切除して取り除き、切除部分を縫い合わせる弁尖切除を行います。

リング(人工弁輪)の装着

僧帽弁閉鎖不全症では左房に血液が逆流してくるため、左房がどんどん拡大するにつれて、弁の周り(弁輪)も広がっていきます。そのため、弁輪部にリング(人工弁輪)を装着して、広がってしまった弁輪をぎゅっと縮めて大きさを補正します。また、リングの装着は、原則としてすべての弁形成術で行います。

弁置換術は悪くなってしまった弁を人工弁に入れ替える手術で、人工弁には「機械弁」と「生体弁」の2種類があります。機械弁は金属で作られていて、生体弁はウシやブタの生体組織で作られています。

それぞれの人工弁にメリットとデメリットがあり、患者さんの年齢やご希望などに合わせて、どちらの弁を使用するか決定します。

機械弁のメリットは、耐久性に優れていることです。一方、機械弁は血栓ができやすいため、抗凝固薬(血液をさらさらにする薬)を一生飲み続けなければならないというデメリットがあります。また、抗凝固薬の効果を確かめるために、1か月に1回程度の頻度で検査を受けていただく必要もあります。そのほか、抗凝固薬を服用していると出血しやすくなるリスクもあります。

生体弁のメリットは、抗凝固薬を一生飲み続ける必要がない点です。一方、デメリットは機械弁に比べて耐久性が劣ることです。手術を受けた方の年齢にもよりますが、術後約10〜15年で徐々に壊れてくる場合が多く、その際には新しい人工弁に入れ替える手術を行う必要があります。

どちらの弁を使用するかは、患者さんとよく相談のうえ決定しますが、一般的には高齢者には生体弁、若年の方には機械弁を使用することが多いです。

高齢者に生体弁を使用する理由は、抗凝固薬を飲み続ける必要がないためです。先ほどお話ししたように、抗凝固薬には出血のリスクがあります。高齢者の場合、出血がなかなか止まらないことで命にかかわる重篤(じゅうとく)な状況に陥る可能性もあるため、抗凝固薬を服用する必要のある機械弁を使うことは好ましくありません。ただし、不整脈治療などで、もともと抗凝固薬を飲んでいる方の場合には、機械弁が選択されることもあります。

若年の方に機械弁を使用する理由は、耐久性に優れているためです。生体弁の耐久性は約10〜15年ですから、術後の人生が長い若年の方にとって生体弁の劣化による再手術は大きな負担となります。そのため、若年の方には機械弁を用いることが一般的です。

どのような方法で手術を行うかは、心臓弁膜症の種類や患者さんの状態などを考慮しながら決定しますが、一般的には、以下のように選択されることが多いです。

弁形成術と弁置換術

大動脈弁・僧帽弁狭窄症

大動脈弁狭窄症僧帽弁狭窄症では、弁が硬くなっていることが多いため、患者さん自身の弁で修復する弁形成術ができないことがほとんどです。そのため、狭窄症の患者さんには弁置換術を行うことが一般的です。

しかし、若年の患者さんにはできるだけ弁形成術を行うようにします。特にリウマチ熱が原因の僧帽弁狭窄症は、いまだに発展途上国を中心に若い方が発症するケースも多くあります。日本にはこのような患者さんが少ないので、僧帽弁狭窄症に対する弁形成術はあまり行われていませんが、東南アジアなどで積極的に行っている先生もいらっしゃいます。

大動脈弁閉鎖不全症

大動脈弁閉鎖不全症は弁形成術を行うことが難しく、一般的には弁置換術が行われます。

先ほどお話ししたように、弁形成術は、弁の異常に合わせて手法を変えながら手術を行います。僧帽弁閉鎖不全症では、原因に合わせたさまざまな手法が用いられますが、大動脈弁閉鎖不全症は、血液の逆流が生じる原因がはっきりとわからないことが多いため、弁形成術の手法が限られてしまいます。

また、僧帽弁形成術では、術中に逆流テスト(弁がきちんと修復できているかを評価するために、心臓に水を入れて逆流がないかを確認するテスト)を行いますが、大動脈弁の場合にはそれができません。そのため、術後の超音波検査で逆流を評価して、改善がみられない場合には再手術を行う必要があります。

これらの理由から、大動脈弁閉鎖不全症では基本的に弁置換術を行います。一部、大動脈弁閉鎖不全症に対する弁形成術を積極的に行っている病院もありますが、長期的な手術成績もでておらず、いまだ一般的ではありません(2018年6月現在)。

僧帽弁閉鎖不全症

僧帽弁閉鎖不全症では、弁形成術が手術の第一選択となることがほとんどです。これは、弁置換術よりも弁形成術のほうが、生命予後がよいといわれているためです。弁置換術では僧帽弁を支えている腱索や乳頭筋をすべて切除します。これによって、心臓の収縮力が低下してしまうため、生命予後に影響を与えると考えられています。そのため、弁形成術ができる状況であれば、弁形成術を選択します。

これまでの心臓手術では、胸を大きく開いて行う胸骨正中切開が一般的でした。しかし、近年、MICS低侵襲心臓手術)やTAVI(経カテーテル大動脈弁置換術)といった患者さんの心身の負担が少ない方法で心臓弁膜症の手術ができるようになってきました。これらの方法について、詳しくお話ししていきます。

MICS(低侵襲心臓手術)

MICS(Minimally Invasive Cardiac Surgery)とは、低侵襲心臓手術という意味で、小さな皮膚切開で行う心臓手術を指します。

MICSのメリットのひとつとして、手術に伴う合併症(手術などが原因となって起こる別の症状)が少ないことが挙げられます。従来の開胸手術である胸骨正中切開では、胸骨を切開するため縦隔炎(胸骨が細菌などに感染して炎症を起こすこと)を発症するリスクがありますが、MICSでは胸骨を切開しないため縦隔炎のリスクはほとんどありません。

また、術後の回復が早いため、胸骨正中切開に比べて入院期間が短いことも大きなメリットといえます。

TAVI(Transcatheter Aortic Valve Implantation:経カテーテル大動脈弁置換術)は大動脈弁狭窄症に対してカテーテル(医療用の細い管)で行う弁置換術のことです。

TAVIは、太ももの付け根にある血管、または肋骨の間の小さな切開部からカテーテルを挿入して、大動脈弁に人工弁を移植します。手術は約1時間で終了し、入院期間も短いため、手術に伴う心身の負担が少なくてすみます。

新しい手術方法のため、いまだ実施できる病院は限られていますが、これまで手術を諦めていた高齢の患者さんを中心に、だんだんと普及し始めている手術です。

 

TAVIで使用する人工弁の実物大模型

福田宏嗣先生

心臓弁膜症の患者さんは、心臓のポンプ機能が低下する心不全の症状が長く続くことで、全身の筋力が衰えたり、栄養状態が悪くなったりすることがあります。そのため、術後は心機能や全身の筋力を回復させるリハビリテーション、栄養状態の管理が非常に重要です。

せっかく手術で弁を治しても、リハビリテーションをきちんと行わないと一度低下した心臓のはたらきはなかなか元には戻りません。そのため、ご自身ができる範囲で構いませんので、できるだけ運動を継続するようにしていただきたいと思います。

心臓弁膜症の術後は、各病院で術後のリハビリテーションを実施していると思いますので、主治医の先生にどのような運動をどれだけ継続すればいいのか相談しながら行いましょう。

弁形成術でも弁置換術でも、弁がしっかりと機能しているかどうか確かめるために、きちんと受診して定期検査を受けるようにしましょう。また、処方された薬を忘れずに飲み続けることも重要です。特に、弁置換術で機械弁を使用した患者さんは抗凝固薬を一生飲み続ける必要があります。抗凝固薬の服用を怠ると、血栓ができて脳梗塞などを発症する恐れがありますので、十分に注意していただきたいと思います。
 

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  • 獨協医科大学 心臓・血管外科学 教授

    福田 宏嗣 先生

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