概要
ヤング・シンプソン症候群とは、特徴的な顔貌や精神遅滞、眼症状、甲状腺機能低下、骨格異常、停留精巣など、多臓器にわたって異常が生じる先天異常症候群です。発症頻度はおよそ10~20万出生に1人程度と推定されています。1987年にYoungとSimpsonによって初めて報告されて以降、原因はわかっていませんでしたが、2011年にKAT6Bが責任遺伝子であることが同定されました。常染色体優性遺伝形式をとる遺伝病ではありますが、家族例の報告はほとんどなく、突然変異により発症した孤発例が大部分を占めます。これまでに数十例の報告がありますが、性差に関してはわかっておらず、今後さらなる検討により明らかになると考えられます。
原因
2011年、Clayton-Smithらによる患者検体を用いた詳細な遺伝子解析により、ヤング・シンプソン症候群はKAT6B遺伝子の異常により引き起こされることが明らかとなりました。KAT6B遺伝子は、ヒトのDNAに深い関わりを持つ「ヒストンアセチル化酵素」を生成します。この酵素はさらに、さまざまな遺伝子の発現の制御に関わっています。しかし、KAT6B遺伝子により生成されるヒストンアセチル化酵素の詳細な機能については、いまだに不明な点も多く、骨格や神経系などを含む初期発生に重要な遺伝子の制御に関わっていると考えられています。KAT6B遺伝子が原因遺伝子として特定されたものの、どのようにして多様な臓器に異常を引き起こすのか、その詳細なメカニズムは現在のところわかっておらず、今後のさらなる研究が求められるところです(2019年時点)。常染色体優性遺伝形式をとる遺伝病ではありますが、一部の兄弟例を除いて家族例の報告はほとんどありません。大部分がKAT6B遺伝子における突然変異により引き起こされる孤発例です。
症状
ヤング・シンプソン症候群では、全身にわたって多様な症状が見られます。まず、眼瞼裂が非常に狭くほとんど目が開けられない、頰が膨らんでいるといった特徴的な顔貌が挙げられます。さらに、弱視や涙の通り道である鼻涙管の閉塞といった眼症状が見られる例もめずらしくありません。難聴も多く見られます。精神発達の遅れも見られ、中程度から重度といわれています。また、新生児期より軽度の甲状腺機能の低下を伴います。筋骨格系の異常も見られ、特に内反足は出生時より目立つことも多いです。外性器の異常に関しては、男児において顕著であり、停留精巣や矮小陰茎が見られます。肺動脈(弁)狭窄症などの先天性心疾患を合併する例も見受けられます。目立った脳の奇形は報告されていませんが、一部の患者さんはてんかんを伴います。新生児期の特徴としては、出生後に軽度の呼吸障害が生じる例が多く、ほぼ全例で哺乳障害が見られます。しかし、乳児期には徐々によくなる傾向にあり、経口摂取ができるようになります。哺乳障害が見られますが、経管栄養を行うことで体重増加も正常範囲内を示し、身長は正常か、またはやや低い傾向にあります。このほか、胎児期に約7割で羊水過多が生じることも特徴として挙げられますが、発症機序ならびに出生後の症状との関連性についてはわかっていません。
検査・診断
ヤング・シンプソン症候群の診断には、まず特徴的な顔貌や身体所見より本症が疑われます。全身にわたって多様な症状が見られることから、さまざまな検査が実施されます。新生児期には、呼吸機能を評価するための検査や心血管系を評価するための心臓のエコー検査、脳のエコー検査、聴覚検査などが行われます。成長するにつれて、耳鼻咽喉科や眼科、整形外科など各専門医による継続的なフォローが必須となります。また、原因遺伝子としてKAT6B遺伝子が特定されたことから、この病気の確定診断にあたっては遺伝子に異常がないかを検討することもあります。しかし、変異が見られない場合でも、ヤング・シンプソン症候群に特徴的な臨床症状が複数見られる場合にはこの病気と診断されることもあります。
治療
ヤング・シンプソン症候群に対して根本的な治療方法はありません。全身各種臓器に見られる合併症に対してのアプローチが必要です。新生児期の呼吸障害は軽度である場合が多く、酸素投与などで対応できる例がほとんどです。哺乳障害に対しては経管栄養が導入されることが多いですが、成長とともに経口摂取が可能となっていきます。内反足に対しては、ギプスによる矯正や、十分な効果が得られない例では手術が適応となることもあります。難聴に対しては補聴器を作成したり、眼症状については必要に応じて眼鏡を作成したりします。甲状腺機能低下症に対しては、甲状腺ホルモンの補充療法が行われます。また、弱視や難聴に加え、精神発達遅滞を伴うことから、早期より多方面からの療育を受けたり、リハビリテーションへ参加したりすることも大切です。
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