りんぱふしゅ

リンパ浮腫

最終更新日
2023年06月30日
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2023/06/30
更新しました
2017/04/25
掲載しました。

概要

リンパ浮腫とは、リンパ液の流れが滞ることでむくみなどの症状が引き起こされる病気の総称です。リンパ浮腫の原因は多岐にわたり、がん治療でリンパ節を取り除いたり放射線治療を受けたりなど、リンパの流れを阻害する原因が明らかなケースを“続発性リンパ浮腫(もしくは二次性リンパ浮腫)”と呼び、それ以外の原因が明らかでないケースを“原発性リンパ浮腫”と呼びます。

私たちの血液は心臓から動脈・毛細血管を経て全身に送り出された後、静脈を通って心臓に戻るという循環を繰り返しています。その際、血液中のタンパク質や水分の一部が毛細血管より血管外の組織へ浸み出します。毛細血管まで送り出された血液の大部分は静脈に流れ血液として回収されますが、10~15%ほどは血管外組織へ浸み出しリンパ液としてリンパ管へ回収されます。リンパ管に回収されたリンパ液は、首にある“静脈角”という部位で静脈に合流し血液と混ざります。体の余剰な水分は最終的に腎臓で尿となり、体の外へ排泄されますが、リンパ液の流れが滞るとリンパ液が回収されずに血管外の組織(間質)にたまったままとなり、むくみなどの症状を引き起こします。

間質にたまったリンパは“むくみ”を生じますが、長期の経過でリンパ(水分)がたまるだけではなく脂肪も増えていきます(脂肪沈着)。リンパは免疫にも重要な役割を果たしているため、リンパの流れが滞るリンパ浮腫では、むくみ以外にも免疫異常・炎症が伴います。リンパ浮腫の患部に急な炎症をきたす“蜂窩織炎(ほうかしきえん)”が起こるほか、数年以上の長期経過では悪性腫瘍(あくせいしゅよう)(脈管肉腫)を生じることもあり、決して放置してはならない病気です。

リンパ浮腫の完治は困難といわれており、徐々に進行し続けるのが特徴です。圧迫療法などの保存療法(手術以外の治療)がメインですが、保存療法を行っても治ることはないため、生涯にわたる治療・管理が必要となります。保存療法が効かない場合などには、手術治療が行われることもあります。

原因

リンパの流れが悪くなる原因は多岐にわたりますが、原因が明らかな続発性(二次性)リンパ浮腫と、原因が明らかではない原発性リンパ浮腫の大きく2つに分けられます。

続発性リンパ浮腫の原因としては、がん治療や外傷、寄生虫感染などによってリンパ節・リンパ管が損傷されることなどが挙げられます。日本ではがん治療に伴う続発性リンパ浮腫が大部分を占めますが、世界的には熱帯・亜熱帯地域における寄生虫(バンクロフト糸状虫)の感染症である“フィラリア症”による続発性リンパ浮腫が多いとされています。

症状

リンパ浮腫を発症するとリンパの流れが滞った腕や脚などにむくみが生じ、だるさや重苦しさを感じるようになります。発症して間もない早期のうちは、症状のある腕や脚を心臓より高い位置に挙げるとむくみが改善します。この時点でのむくみは、むくんでいる部分を押すと凹み(圧痕)、しばらくすると凹みが戻るため“圧痕性浮腫”と呼ばれます。リンパ浮腫が進行すると、リンパがたまっている部位に脂肪も増え、押しても凹まなくなり“非圧痕性浮腫”と呼ばれる状態になります。

リンパが滞ると炎症が起こりやすくなるため、徐々に組織が炎症により固くなります。重症例では皮膚が象の皮膚のように厚くなる“象皮症”と呼ばれる状態になり、皮膚にリンパ液がたまった小さなしこりである“リンパのう胞”ができたり、皮膚からリンパ液が漏れる“リンパ漏”をきたしたりするようになります。

また、リンパ浮腫の患部は蜂窩織炎と呼ばれる炎症を起こしやすく、急な患部の腫れ・熱感・発赤・痛みのほか、高熱や悪寒などの全身症状が現れることもあります。

検査・診断

日本ではがん治療後のリンパ浮腫が大部分を占めるため、がん治療後に手足のむくみが生じた場合はリンパ浮腫を疑います(乳がん治療後に腕がむくむ、子宮がん治療後に脚がむくむ、など)。しかし、リンパ浮腫以外にも“むくみ”をきたす病気はたくさんあるため、一般的な内科診察によりリンパ浮腫以外の病気による“むくみ”ではないことを確認します。

ほかの病気によるむくみではないことが確認できたら、リンパ浮腫用の検査を行いリンパ浮腫の診断を確定させます。リンパ浮腫は”リンパの流れが異常となってむくむ病気“であるため、リンパの流れを調べる検査が重要です。脚は健常者でもむくみやすいため、特に下肢リンパ浮腫の診断にリンパの流れの検査は欠かせません。

診察

触診による圧痕の確認や、リンパのう胞、リンパ漏など皮膚の状態を確認します。

血液検査

むくみに関係する内臓(心臓・腎臓・肝臓など)やホルモンの状態を確認します。

CT・MRI

隠れた腫瘍(しゅよう)など、リンパや静脈の流れを阻害するような病気がないか、また、患部の水分や脂肪の状態を確認します。

超音波検査

一般的なむくみの大部分はリンパではなく静脈に原因があるため、超音波検査で主に静脈の状態を確認します。

リンパ管造影

上記は全て一般的なむくみに対する検査ですが、リンパ管造影はリンパ浮腫専用の検査で、リンパの流れを直接評価します。国際標準とされるリンパシンチグラフィのほか、近年急速に広まりつつあるICGリンパ管造影などさまざまな方法があり、深い部位を含め全体的なリンパの流れの評価にはリンパシンチグラフィ、浅い部位の詳細の評価にはICGリンパ管造影と用途に応じて使い分けます。

治療

リンパ浮腫は適切な治療を行わないとリンパ管のダメージが不可逆的に進行していくため、早期段階からの対処が必要です。けがなどにより急速にリンパ浮腫が悪化したり、蜂窩織炎をきたしたりすることがあるため、患部に傷ができないよう気を付けて生活(スキンケア)する必要があります。

基本となる治療は保存療法とよばれる非手術療法で、中でも弾性着衣(ストッキング・スリーブなど)による圧迫療法がもっとも重要になります。リンパ浮腫は、一度発症すると治らないとされているため、原則的に生涯にわたり圧迫療法を続けていくこととなります。ほかには、圧迫をしたうえでの適度な運動、リンパ浮腫専用の特殊なマッサージ(用手的リンパドレナージ:MLD)がリンパ浮腫の保存療法として行われます。いわゆるリンパマッサージ(リンパ浮腫治療に用いられるMLDとは異なるマッサージ)や針治療は、リンパ浮腫が悪化するリスクがあるため避けたほうがよいでしょう。

過去にはむくみの治療として利尿薬が用いられることもありましたが、現在では有効性は否定されており、慢性使用によるリスクがあることから使用すべきではないとされています。漢方薬や新規治療薬などさまざまな薬がリンパ浮腫治療として模索されていますが、まだ研究段階のため推奨される薬物療法は現在のところありません。

保存療法を行っても進行する場合は手術治療が検討されます。リンパ浮腫の手術治療は大きく“減量術”と“再建術”の2つに分けられます。減量術は、増えた脂肪組織を脂肪吸引などにより除去することで直接的に患肢(症状のある腕や脚)を小さくする手術で、手術直後より目に見える効果(患肢が小さくなる)が得られますが、リンパの流れはかえって悪化するため、生涯にわたり強い圧迫療法が必要となります。一方、再建術は、リンパ組織を移植したりリンパをバイパスしたりすることでリンパの流れを改善させる手術です。減量術ほど術直後から明らかな効果がみられることは多くありませんが、むくみを改善させるほか、圧迫療法を弱められる、蜂窩織炎を予防するなどの効果が期待できます。

予防

予防的治療や完治を目指した早期診断・早期治療などさまざまな研究が行われていますが、現時点では予防する方法は確立していません。日本では多くの場合ががん治療後の続発性リンパ浮腫のため、がん治療(特に広範囲のリンパ節を取る、またはリンパ節への放射線治療などのリンパ浮腫発症リスクが高いがん治療)を受けた後には、リンパ浮腫に注意して生活することが望まれます。蜂窩織炎により急激にリンパ浮腫を発症・悪化することが知られているため、がんの治療後はけがや虫刺されに注意しましょう。

乳がん治療後は同じ側の上肢、子宮がん卵巣がんなどの骨盤内の悪性腫瘍もしくは皮膚がんなどで鼠径(そけい)リンパ節が取られた場合は下肢・陰部にむくみがないか注意し、むくみを感じた場合は医師に相談するとよいでしょう。

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