概要
唾液腺腫瘍とは、耳下腺や顎下腺、舌下腺といった大唾液腺や口の中に存在する小唾液腺から発生する腫瘍です。唾液腺は唾液を分泌する器官であり、体を覆う表皮(上皮)の下に生じる腫瘍です。一般的に自覚症状はなく腫れで気付くことが多いです。症状としては、唾液腺の存在する場所、すなわち口底・顎の下・耳の前方などに腫れやしこりが生じます。治療は、手術による摘出術が一般的です。
種類
唾液腺腫瘍には、良性・悪性含めてさまざまな種類の腫瘍が発生します。良性の腫瘍としては、多形腺腫や筋上皮腫、ワルチン腫瘍(腺リンパ腫)、基底細胞腺腫などが挙げられ、痛みや神経の麻痺などの症状は現れないことが一般的です。腫瘍の進行はとてもゆっくりで、数年から数十年かけて腫れやしこりが増大します。かなり大きくなっても自覚症状に乏しいのが特徴です。一方悪性の腫瘍(唾液腺がん)は、多形腺腫由来がんや腺がん、腺様嚢胞がん、粘表皮がん、腺房細胞がんなど多くの種類が挙げられ、それぞれ臨床的に異なる特徴があります。
しかし、どの唾液腺がんも良性と同じようにゆっくりと進行するため、初期に自覚症状を伴うことはまれです。しかし、大きくなると、生じた場所やその周辺に傷みやしびれ(神経麻痺)などが認められることがあります。また、早期であっても他の臓器にすでに転移していることもあります。唾液腺がんは頭頸部がんの3~5%という比較的珍しいがんで、そのうち60~70%は耳下腺に発生します。そのほか顎下腺に生じるのは30~40%、舌下腺に生じるのは2~3%と程度といわれています。また、小唾液腺では、口蓋や唇などに発生することが知られています。
原因
唾液腺腫瘍が生じる原因は、まだ完全には分かっていません。ただ一部の唾液腺腫瘍は、ウィルス感染や放射線被ばくが誘因になるとの報告があります。しかし、多くの唾液腺腫瘍の発生原因については不明なことが多いです。
症状
唾液腺が存在する場所に一致した腫脹(腫れ)が特徴です。腫瘍は皮膚の下で進行し、大きくなるため、耳の前や顎の下、口底などに瘤のような硬いしこりを触れます。良性であれば、一般的には痛みはほとんどなく、数年から数十年かけて徐々に大きくなります。また悪性の場合でも初期の場合は良性と同じであることがほとんどです。
しかし、進行すると腫瘍が存在する場所で痛みやしびれを生じたり、周辺の皮膚が赤くなったりすることがあります。また、唾液腺がんのなかには、たとえば腺様嚢胞がんのように、腫瘍が神経に向かって進行する神経浸潤をおこすものもあります。その結果、しびれや感覚障害、運動障害などが発生します。顔面神経(顔の筋肉を動かす神経)が耳下腺の近くを通るため、腫瘍の進行により神経が侵され、目が上手く閉じなくなったり、口がゆがんで食べたものがこぼれたりする顔面神経麻痺が生じることもあります。
検査・診断
自覚症状や触診などにより唾液腺腫瘍を疑う場合は画像検査を行います。画像検査としては、超音波検査やCT検査、MRI検査、PET-CTなどが行われます。また、腫瘍の種類や悪性疾患を調べるために、針により病変部位から細胞を採取する穿刺吸引細胞診や、組織の一部を採取して調べる病理組織診(生検)が行われます。
治療
唾液腺腫瘍の治療は、手術による摘出術が一般的です。良性腫瘍の場合でも、症状がないからといって手術を受けないと徐々に大きくなり将来切除不能になることも考えられるので、高齢で手術が難しいなどの事情がなければ早期の切除を推奨します。また、多形腺腫のような良性腫瘍でも、長期間放置しているとがん化したり、1度切除してもまれに再発したりすることがあるため、手術後の経過観察が大切になります。
さらに、腫瘍が比較的大きな場合は、術後の合併症が発現することがあります。耳下腺(耳の前に)に発生した唾液腺腫瘍は、摘出後に顔面神経麻痺や汗が過剰に発生するFrey症候群などの合併症が考えられます。悪性腫瘍の場合は、手術でがんを含め広範囲に切除する必要があります。
一般的に放射線治療やがん薬物療法よりも優先して手術が検討されます。腫瘍の摘出とともに、頸部のリンパ節に転移している場合には、リンパ組織を切除する頸部郭清術が行われるほか、顔の神経にがんが入り込んでいる場合には、神経移植が行われることもあります。また進行がんでは、手術の後に放射線治療や化学療法が検討されることもあります。
医師の方へ
「唾液腺腫瘍」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「唾液腺腫瘍」に関連する記事
関連の医療相談が12件あります
9年以上前に唾液菅癌の手術に成功したがもう寛解といえるのか
私の妻68歳のことで質問します。今から9年以上前に「唾液腺に癌ができる」珍しい病気になり、長時間の手術でゴルフボール大の腫瘍が摘出されました。幸い再建手術の名医のおかげで顔もあまり変化なく現在に至っています。ただ手術後に執刀の主治医から「腫瘍は全部とったが最高に悪質の癌なので間違いなく再発転移するし、その場合は手の施しようがない」と言われました。妻も私もその言葉を受け入れざるを無く、覚悟を決めていましたが、やがて10年になろうとしていますが、本当に幸いなことに現在まで再発も転移もしていません。そこで質問です。 *転移も再発もしてないということは、悪性の腫瘍(癌)ではなく良性の腫瘍だったと考えるべきなのでしょうか。 (もちろん腫瘍は顔の色んな神経を圧迫していたので手術は必要だったと思いますが) *良性腫瘍が悪性の癌に変わることはあるものなのですか。がんの種類で違うでしょうがその確率は。 *今も半年ごとにCT検査を受けていますが、そんなに検査は必要でしょうか。その度ごとに結果が心配です。 *緩解という言葉があるようですが、10年近く経ってもう逃げ切ったと考えてはいけませんか。 *一昨年、乳癌で片側全摘し、その後は順調ですが、唾液菅癌の転移ではないと言われていますが、だとすると癌のできや すい体質というのがあるのでしょうか。 本人は二度目の癌で性根が座っているようですが、そばで見ていると切なくて、もう昔の癌(?)の再発を気にしなくてはならない検査はやめさせたいと思うのですが、やはり受け続けるべきなのでしょうか。
耳下腺術後の唾液瘻
4月26日に耳下腺腫瘍の摘出手術をうけ、多形腺腫だったとのことで、摘出はできたのですが、その時にドレイン?短い管がついていただけで、そこから、垂れ流し状態でした。まだ、出続けているうちに、手術の次の日に先生はそれを抜いてしまい、そこから、毎日漏れてきて、ガーゼをあてていました。そのままの状態で、5月1日に退院をし、一週間後に病院へ行きましたが、まだ漏れ続けていて、ガーゼで圧迫をしてくださいと言われました。また、一週間後に、今度は注射器で、中のたまったものを吸いだしました。9CC出たそうです。 22日に病院へ行った時に、もう圧迫もしないで、吸い出すこともしないで、このまま様子を見てくださいと言われ、次回の診察は一ヶ月後と言われました。 今の状態は、食事をすると、パンパンに膨れて、破裂しそうです。食事以外の時は、破裂しそうな感じがおさまるのですが、こぶのように膨らんだところが、なんとなく大きくなっているような気がします。 このまま、なにもしなくて、大丈夫なのでしょうか。これは治るのですか? なぜこのようなものができてしまったのでしょうか。 病院を変えた方がよいのでしょうか。 顔にコブなんて……とても精神的にもまいってしまいます。 唾液瘻と言うものの、情報があまりなく、教えていただけますか? お願いいたします。
口腔内の強い乾燥について
この1〜2カ月、毎日、口の中が非常に乾燥しています。 寝ている時に夜中トイレに目覚めた際、朝起きた際、うたた寝して目が覚めたとき(食後にソファでうたた寝はほぼ毎晩)に起こります。 目覚めると唾液はなく、口の中が乾燥でパサパサして上顎が貼り付いて、開きづらい状態です。 乾燥した時に舌を観察しても、色や形、白色状態は以前と変わりません。 これまで経験したことのない状態です。 家屋の環境(乾燥、換気等)は何も変わりはありません。 独り暮らしなので、寝ている状態は自分では観察出来ません。 目が覚めた際、夜中であってもお湯を飲んでいますが、再び目覚めると乾燥状態は変わりません。 何か病気の前兆やサインなのでしょうか? 何かの栄養素が不足しているのでしょうか? この数カ月、野菜不足は否めません。 治療が必要でしたらどの診療科を受診すればよいでしょうか? 耳鼻咽喉科でしょうか? 以上、ご教示頂けますよう何卒よろしくお願いいたします。
顎下のしこり
左右の顎下に触れるくらいの大きさでしこりがあります。大体、1〜2センチくらいで左に2つ、右に1つ触れます。硬くて時に痛くないです。触ると逃げます。顎下線リンパは別に触れます。その手前にあるという感じです。2カ月前くらいからあります。腫瘍かリンパ腫ではないか心配です。コロナの影響で中々であるけないのでよろしくお願いします。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
唾液腺腫瘍を得意な領域としている医師
-
-
口腔がん
- 口腔の機能と整容(外観)を考慮した外科治療
- 超選択的動注化学放射線療法による非外科的治療 (臓器・機能温存療法)
- 整容(外観)と機能の回復を第一とした口腔顎顔面再建
-
唾液腺腫瘍
- 病理組織学的な腫瘍の特性を考慮した外科治療
- 整容(外観)と機能の回復を第一とした口腔顎顔面再建
-
顎骨骨髄炎
- 抗生物質による閉鎖式局所潅流療法による顎骨温存治療
-