概要
急性ストレス障害(ASD)とは、自分の生命に関わるような出来事を経験し、強い恐怖感・無力感などの精神的衝撃を受けた後に生じるストレス症候群の1つです。このようなストレス症候群の原因となるような出来事のことを“心的外傷(トラウマ)的出来事”と呼ぶこともあります。人によってさまざまな症状がみられますが、原因となった出来事の場面が繰り返し思い出されてしまったり、逆に思い出せなくなったりすることがあるほか、眠れなくなったり、物事に集中できなくなったりすることもあります。
米国精神医学会診断基準(DSM-5)によれば、急性ストレス障害は原因となる出来事を経験してから3日以上1か月以内の症状に対して診断されます。これらの症状が1か月以上持続した場合や、原因となる出来事が起こった後、時間が経ってから症状が現れるようになった場合などは、同じストレス症候群の1つである“心的外傷後ストレス障害(PTSD)”と診断されます。
一方で、世界保健機構(WHO)による国際疾病分類第11版(ICD-11)では、急性ストレス障害とほぼ同一の疾患概念である急性ストレス反応という精神疾患はなくなり、該当する症状が数週間以上続けばPTSDと診断されています。
原因
急性ストレス障害はその人の心に傷が付くような出来事、つまり心的外傷的出来事に遭遇し、精神的衝撃を受けることによって起こります。具体的には、自然災害や事故などに巻き込まれて生命の危機にさらされたときや、性犯罪被害などに遭って自身の尊厳が失われたときなどに起こることがあります。
また、自身が被害に遭ったわけでなくとも、身近な家族や友人を災害や事故で亡くしたときや災害後の救援活動などで凄惨な場面を目撃してしまったときなどに起こることもあります。
症状
急性ストレス障害の症状には個人差があり、現れる症状やその程度は人によって大きく異なります。米国精神医学会診断基準によれば急性ストレス障害の主な症状は、以下の5つに大きく区分されています。
侵入症状
原因となる出来事に関する記憶がフラッシュバックし、もう一度同じ体験をしているように感じられたり、その出来事の夢を見たりする状態をいいます。
陰性気分
幸福感や満足感、愛情などのいわゆる陽性感情を感じることができなくなることなどがあります。
解離症状
感情が麻痺し、自分が周囲の世界から切り離されているかのように感じたり、特定のことが思い出せなくなったり、自分と自身の知覚、思考、体などが切り離されたように感じたりすることがあります。
回避症状
原因となる出来事を思い出させるような刺激や事柄を避けるようになったり、その出来事に関連するものや人、状況などから距離をとろうとしたりします。
覚醒症状
警戒心が高まり、物事に過敏になったり、うまく眠れなくなったりすることがあります。また、感情が制御できず性格が怒りっぽくなったり、物事に集中できなくなってしまったりする人もいます。
検査・診断
急性ストレス障害は、米国精神医学会診断基準に基づいて診断されることが一般的です。この診断基準では、“侵入症状”“陰性気分”“解離症状”“回避症状”“覚醒症状”という5つをさらに14つの症状に細分化し、そのうち9つ以上の症状が当てはまった場合に急性ストレス障害と診断されます。
ただし、急性ストレス障害と診断されるのは原因となる出来事が生じてから3日以上1か月以内の間で症状が続き、日常生活に支障が生じているときのみです。3日未満で症状が落ち着く場合には、急性ストレス障害とは診断されません。また、当初急性ストレス障害と診断された方でも、症状が1か月以上続く場合には、その後に心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断されます。
治療
急性ストレス障害では薬物療法などの具体的な治療は推奨されていません。ストレスによる症状のほとんどは時間の経過とともに自然に回復し、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に至るのは一部とされています。
自然な回復を促すためには原因となる環境から離れ、気持ちの整理をすることが大切です。周囲の人や専門家に話を聞いてもらうことで症状が落ち着くこともあります。周囲の人は安全・安心を保証したうえで、本人の話に耳を傾け、過去の出来事であることを実感してもらえるようサポートをするとよいでしょう。そのほか、本人がリラックスでき安眠をとれる環境を整え、ストレスを緩和することも有効といえます。適切なサポートを受けることができればPTSDへと発展せず回復することも期待できます。
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