皮膚

梅毒(ばいどく)

梅毒とは

梅毒とは「トレポネーマ・パリダム」という細長いらせん形の細菌によって全身に症状が出る感染症です。特に、性交渉をきっかけとして感染が伝播するため、同様の感染経路を持つHIVやクラミジアとの同時感染を見ることも稀ではありません。さらに、大人に限った病気ではなく、赤ちゃんにも梅毒による症状(先天梅毒と呼びます)が出現することもある病気です。 日本における梅毒の動向は、2010年以降患者数は増加傾向にあり、2016年には4,077件の報告数がありました。

特に東京や大阪などの大都市周辺における患者が多く、男性においては20歳以降において幅広い年齢層で多くの方が梅毒と診断されています。その一方、女性においては20代の患者さんが全体の60%弱を占めていました。これらの数字は、性活動の動向を色濃く反映していると考えられ、今後も梅毒の報告は増加することが予想されています。また、先天梅毒についても14例報告されています。

原因

梅毒は性感染症の代表的疾患の一つで、トレポネーマ・パリダム(Treponemapallidum)によって引き起こされる全身感染症です。梅毒の名は、第2期に見られる赤い丘疹が楊梅(ヤマモモ)の果実に似ていることから楊梅瘡(ようばいそう)と呼ばれたことが由来です。また、梅毒はコロンブス一行が1492年に新大陸の発見と共に原住民の風土病だったものがヨーロッパに伝わったと考えられており、「悪魔のお土産」とも呼ばれています。その後瞬く間に全世界に拡がり、日本では1512年に発見され、わずか20年足らずで日本に伝わってきたと言われています。 トレポネーマ・パリダムはおよそ10μmほどの長さのらせん状をした細菌です。トレポネーマ・パリダムは、他のよく見られるような細菌と異なり、人工的に培養することが非常に難しく、その生態や病原性については完全に解明されたとは言いがたい状態です。しかし治療的な側面を考えると、抗生物質に対しての感受性は高く、一般的に治療薬として使用されるペニシリンに対しての耐性獲得(薬の効きが悪くなること)は報告されていません。そのため、1929年にペニシリンが発明されて以降、同薬剤が梅毒の治療薬として重要な位置付けを占めていることは変わりありません。

症状

梅毒は、大きく①後天梅毒、②先天梅毒、に分類することができます。

1 後天梅毒

後天梅毒とは、いわゆる性感染症に伴い発症する梅毒のことです。トレポネーマ・パリダムに感染後およそ1〜13週間の潜伏期間を経て、梅毒の症状が出現し始めます。後天梅毒はさらに症状・感染後の時期に応じて、第1期〜第4期の4つに分類されます。 a. 第1期(感染から3ヶ月) トレポネーマ・パリダムが体内に侵入した形跡として、侵入部位(性器周辺や口、肛門)にしこり(初期硬結と呼びます)が出来ることがあります。初期硬結はコリコリとして小さな赤い隆起のことで、のちにこの硬結部位を中心に潰瘍が生じます。こうしてできた潰瘍のことを硬性下疳といい、痛みがないのが特徴です。

ほかにも、横痃(おうげん)や横根(よこね)と呼ばれる鼠径リンパ節の腫れを確認することがあります。梅毒が原因の横根は感染してから3週間以降に鼠径部(足の付け根)に生じることが多く、初期硬結や硬性下疳と同様に痛みを伴わないことが特徴です。こうした症状は自然に消失することも多く、気付きにくいこともあるため、この段階で梅毒が診断されることは比較的稀な部類になります。 b. 第2期(感染後3ヶ月から3年) 体内に侵入したトレポネーマ・パリダムは、血流を介して身体中に広がります。このことを反映して、手のひらや足の裏、体幹を中心に赤い発疹が出現します。

見た目がバラの花に似ていることから「バラ疹」と呼ばれることもあります。診断・治療方法が確立した現在においては、この時期までに治療介入が行われることが多いです。 c. 第3期(感染後3年から10年) 無治療のままさらに経過すると、皮膚や筋肉、骨などに、「ゴム腫」と呼ばれるゴムのような腫瘍が出現するようになります。 d. 第4期(感染後10年以降) トレポネーマ・パリダムはさらに体内奥深くに病変を作るようになり、中枢神経や大動脈といった重要臓器にも影響が生じるようになります。この状況になると、髄膜炎や脳梗塞、心不全症状を呈することもあります。

2 先天梅毒

梅毒の治療が不十分な状況で妊娠をすると、胎児にも梅毒の影響が生じることが知られており、先天梅毒と呼びます。流産・死産になることもありますし、無事に出生した児においても症状が出現します。具体的には、骨に病変が形成されるため痛みが生じ、手足を動かさなくなったり(Parrotの仮性麻痺と呼びます)、髄膜炎や水頭症、哺乳障害等を生じたりします。梅毒の影響は申請時期に留まることなく、年齢を経たのちにも難聴や視力障害、歯の形成異常を生じることもあります。

検査・診断

梅毒に感染しているか検査する方法には、病変から直接菌を検出する方法と、血液を用いて行う血清学的検査による方法の2通りがあります。しかし実際の検査は血清学的に判定、診断を下されることが多いです。 血清学的な検査は、トレポネーマ・パリダムと関連したタンパク質(抗原と呼びます)と患者さんの血液の反応性を確認する検査になります。抗原として用いられるものにはいくつか種類があり、脂質抗原を用いる「STS法」と、より一層トレポネーマ・パリダムに特徴的な抗原を用いた「FTA-ABS」もしくは「TPHA」と呼ばれる方法があります。結果の解釈には、患者さん毎の臨床経過や基礎疾患の有無等によっても大きく影響を受けます。

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治療

梅毒の治療においては、ペニシリンが治療の主体となります。梅毒にかかる可能性のある性行為を行った後、検査で陽性と診断されると、多くはペニシリン服用による治療を開始します。ペニシリンを使って治療することができない一部の患者さん、たとえばペニシリン・アレルギーを持つ方の治療に際しては塩酸ミノサイクリンを用います。また妊婦の方にはアセチルスピラマイシンなどを用います。このように、患者の状況に応じて殺菌作用のある薬が処方されます。治療の目標は、臨床症状の改善と、検査の項目で述べたSTSの改善を目的とします。 なお、梅毒の治療を開始して24時間以内には、治療の反応性として発熱、悪寒、筋肉痛、頭痛が出現することがあり(Jarisch-Herxheimer現象と呼びます)、対症療法が必要になることもあります。抗生物質によるアレルギー反応と勘違いせずに、治療を継続することが肝要です。 また、梅毒に対しての予防をとることも大切です。梅毒は性行為を介して感染が拡大します。不特定多数とのセックスをしないことはもちろん、最初から最後までコンドームを使用することも予防の観点からは重要です。もし梅毒の検査で陽性反応が出たときには、ご本人だけではなく、パートナーも一緒に検査と治療を受けることが大切です。

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