概要
消化管アニサキス症とは、アニサキス亜科に属する線虫の幼虫が原因となり、急な腹痛などを起こす一過性の感染症です。アニサキス幼虫は多くの魚介類を中間宿主・待機宿主として寄生していますが、代表的なものとしてはサバ、イワシ、タラ、ホッケ、イカなどがあります。また、最近ではサンマも感染の原因になる機会が多いとされています。
アニサキス幼虫は加熱したり、冷凍したりすることで死滅させることができますが、酢漬けや塩漬けといった調理方法では生存できるため、「しめ鯖」を食べて感染することもあります。アニサキス幼虫は人の体に入ると、2~3週間で自然に死滅するとされます。なお、魚介類はアニサキスの中間宿主であり、最終的な宿主はクジラやアザラシなどの海産哺乳類で、成虫の状態でこれらの消化管に寄生します。
日本における消化管アニサキス症の報告の9割以上は胃への感染です。これを胃アニサキス症と呼びます。その他、小腸への感染も報告があり、まれに回腸という場所で腫瘤を形成した例や食道の壁に刺入した例などの報告もあります。
原因
アニサキス亜科に属する線虫の幼虫がいる魚介類を食べた後などに、幼虫が消化管の壁に食い付く(刺入する)ことによって起こります。
日本のアニサキス症の発生は、刺身やお寿司など海産魚介類を生で食べる食習慣と強く関連しているため、諸外国に比べて圧倒的に多いといわれています。時期的には冬に報告が多い傾向があり、また地域によっても発生にばらつきがあることが特徴です。
症状
一般に、アニサキス幼虫に対する免疫反応の違いによって症状が異なり、急性アニサキス症(劇症)と慢性アニサキス症(緩和型)に分けられます。
多くは急性アニサキス症であり、これは原因となる魚介類を食べてから6~12時間で強い上腹部の痛み、嘔気・嘔吐を引き起こします。これに対して緩和型では明らかな症状に乏しく、健康診断の内視鏡検査(胃カメラ)のときに偶然、胃の壁に食い付いたアニサキスを見つけることもあります。
検査・診断
問診
上腹部の痛みや悪心、嘔吐などでアニサキス症を疑ったときには、原因となりうる魚介類を食べたかどうかを慎重に聴取します。
上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
口や鼻から内視鏡(胃カメラ)を挿入して、胃内を直接観察します。胃アニサキス症では、長さ2cm程度の白い糸くず状の虫体が胃の壁に食い付いている(刺入している)様子を認めます。刺入した部分には発赤や浮腫が見られます。診断し、そのまま虫体を除去する治療を行うことができます。
血液検査
通常、アニサキスに感染して間もないとき(急性期)には血液検査での変化は乏しいことが多いです。抗アニサキス抗体といって、アニサキスに対する免疫反応をみる検査項目もありますが、やはり急性期では診断的な価値は高くありません。
治療
上部消化管内視鏡検査(胃カメラ検査)によるアニサキス虫体の除去が治療の中心となります。胃アニサキス症は、緊急で命にかかわるような病気ではありませんが、痛みによる患者さんの苦痛は強いため、速やかに胃カメラ検査を行うことが望ましいとされます。
胃壁に刺入したアニサキス虫体を見つけ、虫体がちぎれないように注意しながら、医療用の器具をつかって刺入部分から虫体の頭ごとつかんで回収します。胃アニサキス症では、複数の虫体が同時に感染してしまっていることも多くありますので、胃内をくまなく調べることが重要となります。通常、虫体を回収した後からは速やかに症状は改善していきます。症状が改善してくるようであれば通常は入院する必要はなく、帰宅可能です。ただし、症状が改善しない場合などには、胃の中にまだ虫体が残っていたり、消化管の他の部位(小腸など)に感染している可能性もありますので、検査を追加したり、必要な場合には入院が必要となるケースもあります。
予防
アニサキス症の予防の方法は、海産魚介類の生食をさけることです。具体的には、加熱(60℃で1分以上)が大切です。また、冷凍庫(-20℃で24時間以上)もアニサキス幼虫が感染性を失う可能性が高い方法です。
加熱・冷凍以外の方法としては、ごく新鮮なうちに魚介類の内臓を取り除く方法などがあります(内蔵に寄生している幼虫が漁獲した後に筋肉に移動してくることもあるため)。
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