子宮

胎盤遺残(たいばんいざん)

胎盤遺残とは

胎盤遺残とは、分娩第3期(赤ちゃんが生まれてから、胎盤が出てくるまでの期間)に、胎盤が完全に娩出されず、一部または大部分が子宮内に残留するものと定義されており、産後出血の原因となることがあります。

一般的に、胎盤は経腟分娩後10分程度の間に娩出されることが多く、30分以上経過しても胎盤が出てこない場合は出血のリスクが上昇するため、臍帯の牽引や子宮底の圧迫、用手剥離(子宮腔内に手を入れて胎盤を摘出すること)などを行うことが多いと思います。このような胎盤娩出のための処置を行っても胎盤が娩出されない場合や、胎盤の本体はスムーズに出ても、一部が子宮の中に残ってしまった状態のことを、胎盤遺残や胎盤残留と呼んでいます。

正確な頻度は分かっていませんが、産科出血の約5%、分娩の約1%と報告されています。

・胎盤ポリープ

胎盤遺残に近い疾患に、胎盤ポリープがあります。胎盤ポリープは、残留胎盤片から発生したポリープで、分娩後に壊死し、子宮内膜に覆われ、凝血が反復することで徐々にポリープのように増大していくものとされています。胎盤遺残と胎盤ポリープとを明確に区別することは難しいのですが、いずれも分娩後の異常出血をきたすことが特徴で、遺残した胎盤は時間が経つとポリープに変化していくものと思われます。両者を区別する必要性は乏しく、どちらにしても血流の状態などを考慮しながら治療法を考えることになります。

 

原因

胎盤遺残の原因としては、胎盤娩出前に子宮口が閉じてしまい、子宮の中に胎盤が残ってしまう「嵌頓胎盤」、胎盤が単純に子宮内にとどまっているが、用手剥離をすれば剥離できる「付着胎盤」、胎盤の一部がもともと子宮の筋肉の中に食い込んでしまっていて、胎盤の本体が出てきた後に一部が残ってしまう「癒着胎盤」とがあると考えられます。それぞれのタイプによって、症状が出てくる時期や、対処法が異なっています。

 

症状

胎盤遺残の症状は、主に分娩後出血です。分娩後出血は、時期によって「産褥早期出血(分娩後24時間以内)」と「産褥晩期出血(分娩後24時間以降)」とに分類されていて、胎盤遺残はどちらの時期にも出血の原因となり得るものです。

産褥早期、晩期のいずれにおいても、生命に関わるほどの多量の出血をきたすことがあるため、血圧や脈拍、意識状態などに注意を払いながら、迅速に診断し、治療を行う必要があります。

検査・診断

産後早期に出血が持続する場合、胎盤遺残に限らず様々な原因を考える必要がありますが、大きく分けて4種類の原因を念頭に置いて検査を行います。一つ目は、子宮収縮が不良の場合(弛緩出血)、二つ目は、組織の損傷による場合(子宮破裂、裂傷、子宮内反など)、三つ目は、胎盤遺残や癒着胎盤による場合、四つ目が血液凝固障害による場合です。それぞれの英語の頭文字をとって、「四つのT」と呼んでいます。それぞれの頻度は、順に70%、20%、10%、1%とされています。

より詳しい情報は、記事①記事②記事③をご覧ください
 

これらの原因を区別するために、まずは子宮底を触診して、子宮の収縮状態を評価します。次に、腟鏡診で子宮頚管や腟内に裂傷があるかどうか、流れてくる血液が凝固するかしないかなどを確認します。子宮の収縮が良好で、裂傷からの出血がなく、流出する血液がサラサラしていなければ、超音波検査を行います。超音波検査により、子宮破裂や子宮内反がなく、胎盤そのものや胎盤の一部が残っていることが疑われる場合、胎盤遺残による出血を考えます。ただし、分娩直後では子宮の中に溜まっている血液の塊との区別が難しい場合もあり、遺残している組織が大きくなければ超音波検査による胎盤遺残の診断はそれほど簡単なものではありません。超音波カラードップラーによる血流の評価や、娩出された胎盤に欠損がないかも含め、総合的に判断します。

産褥晩期出血における検査

およそ1%の女性で、産後1〜2週間以内に厄介な出血が起きると言われており、その多くは胎盤付着部位の復古不全によると考えられています。胎盤遺残は産褥晩期出血の原因として特に重要なものと思われます。

経腟超音波検査で子宮内腔に遺残組織で認めることや、超音波カラードップラーで遺残組織に豊富な血流があれば診断可能です。より正確な評価を行うためには、造影MRIが有用です。また、子宮腔内を子宮鏡により観察することでも診断可能です。

 

治療

1.嵌頓胎盤の娩出

胎盤がすでに子宮筋から剥がれているにも関わらず胎盤が娩出されない場合、子宮を圧迫しながら臍帯を牽引します。子宮頸部がすでに閉鎖していたり、子宮下部が収縮して胎盤娩出を妨げている場合、子宮の弛緩を起こすような薬剤の投与が有効という報告もあります。

2.胎盤用手剥離

子宮の圧迫や、臍帯の牽引によって胎盤が娩出されない場合や、臍帯がちぎれてしまったような場合、胎盤用手剥離を行います。子宮の中まで手を挿し入れ、胎盤を直接鷲掴みにして引っ張ってくる方法です。強い痛みを伴うため、鎮痛剤を投与しながら行うことが多いですが、それでもかなり痛いです。

3.子宮内掻爬

胎盤の一部が遺残していることが疑われる場合、鉗子を用いて子宮の中に残ってしまった組織の排出を試みます。超音波検査をしながら行うこともあります。

4.子宮内バルーンタンポナーデ

子宮内にバルーンカテーテル(水風船のようなもの)を挿入し、子宮の中で風船を膨らませることで、子宮からの出血を中から圧迫して止血する方法です。産褥早期の胎盤遺残への有効性は低いという意見もありますが、試みられることも多いです。産褥晩期出血に対しても応用可能です。

5.子宮動脈塞栓術

これまでに述べた方法で止血ができなかった場合、子宮へ流入する子宮動脈を、カテーテル治療によって塞いでしまうという方法です。子宮への血流がかなり減少するため、高い止血効果が期待できますが、子宮へのダメージも伴うと考えられており、他の方法でどうしても止血ができない場合に適応となります。

6.子宮鏡下経頸管的腫瘍切除術

産褥晩期出血だけに適応となりますが、子宮内腔をカメラで観察しながら、遺残した組織を切除するという方法です。術中術後の出血をコントロールするため、子宮動脈塞栓術を行った後で手術を行うこともあります。

7.子宮全摘術

最後の手段ですが、子宮を摘出すれば胎盤遺残からの出血は無くなります。