概要
胸膜炎とは、肺の表面を覆う“胸膜”に炎症が生じる病気です。胸膜に炎症が起こると胸腔に胸水と呼ばれる液体がたまり、胸の痛みや呼吸困難などの症状が引き起こされます。重症の場合は大量にたまった胸水によって心臓が圧迫されて頻脈や血圧低下が生じることもあります。
発症原因は多岐にわたりますが、感染症とがんによるものが多いとされており、特に日本では結核性胸膜炎が欧米より多いのが特徴です。
治療方法は原因によって異なり、一般的に感染症が原因の場合は抗菌薬の投与を行います。一方、がんが原因の場合は抗がん剤などの治療を行いますが、十分な効果が出ないことも多く、胸水の量が多い場合は注射針や管を用いてたまった胸水を抜く治療が必要になる場合もあります。
原因
胸膜炎は、肺を覆う胸膜に何らかの原因で炎症が生じることで発症します。炎症の原因は多岐にわたりますが、多くは感染症によるものとがんによるものです。
感染症によるものは細菌やウイルス感染が原因で生じますが、日本では結核感染による“結核性胸膜炎”が多いとされています。一方、がんが原因のものは“がん性胸膜炎”と呼ばれ、肺がんや乳がんなどの肺転移、悪性リンパ腫、悪性胸膜中皮腫などが挙げられます。
また、そのほかにも関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患、血管炎、肺塞栓症、卵巣腫瘍、膵炎などの病気、アスベストへの曝露なども原因になるとされています。さらに、胸膜炎は薬の副作用によって引き起こされることも知られており、抗不整脈薬のアミオダロン、抗がん剤のブレオマイシン、抗てんかん薬のパルプロ酸ナトリウムなどが原因薬として挙げられます。
症状
胸膜炎を発症すると胸腔に胸水が貯留していきます。そのため咳や息切れなどの呼吸器症状や、胸水がたまっているほうの胸に痛みが引き起こされます。
また、感染症が原因の場合は発熱を伴いやすいとされています。重症化して胸水が多くたまると、呼吸困難がみられるようになり、心臓が圧迫されて脈が速くなったり血圧が低下したりすることも少なくありません。
なお、これらの症状は感染症の場合は急激に生じることが多く、がんなどの病気が原因の場合は徐々に症状が悪化していくことが多いのも特徴の1つです。
検査・診断
胸膜炎が疑われるときは必要に応じて以下の検査が行われます。
画像検査
胸水貯留や肺炎の有無を調べるため、胸部X線検査や胸部CT検査などの画像検査が必要になります。
胸水検査
胸膜炎の原因を調べるため、胸水を採取して含まれる細菌や細胞、タンパク質量、腫瘍マーカーの測定などを行う検査です。確定診断だけでなく、治療方針を決めるうえでも重要な検査となります。
胸膜生検
胸腔鏡などを用いて胸膜の組織の一部を採取して顕微鏡で詳しく観察する検査です。胸水が十分に採取できない場合などに確定診断のために行われます。
治療
胸膜炎の治療は、原因となる病気を改善することが主体になります。
具体的には、感染症の場合ではそれぞれの病原体に適した抗菌薬の投与を行い、がんが原因の場合では抗がん剤の投与などを行います。感染症の場合は適切な治療を行うことで改善していくことが多いですが、がんが原因の場合は抗がん剤投与などのみでは改善しないことも少なくありません。
胸水が多くたまり呼吸困難などの症状がある場合には、胸膜腔に体外から管を挿入して胸水を排出させる治療が必要になります。また、胸水を排出しても貯留を繰り返す場合は、胸腔に通したチューブから癒着剤を注入して肺と胸膜を癒着させ、胸水がたまるのを防ぐ“胸膜癒着術”を行うことがあります。
予防
胸膜炎はさまざまな原因があり、発症を防ぐ方法が確立されていないケースもあります。
しかし、感染症の場合は糖尿病、喫煙、過剰な飲酒が発症のリスクを高めるとの報告があるため生活習慣を整え、糖尿病などの生活習慣病は適切な治療を継続することが胸膜炎の予防につながります。
一方、胸膜炎はがんなどの病気が原因で引き起こされることもあるため、胸膜炎を予防するにはそれらの治療をしっかり行っていくことも大切です。
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