概要
膵炎には急性膵炎と慢性膵炎があり、急性膵炎は何らかの原因でアミラーゼなどの膵臓の酵素が活性化して膵臓の組織にダメージを与える病気のことです。一方、慢性膵炎は長い間、膵臓に小さな炎症が繰り返されたことで徐々に破壊され、膵臓の機能が低下する病気です。
急性膵炎と慢性膵炎はどちらも男性に多く発症し、発症の原因はほぼ共通していますが、症状や経過は大きく異なります。
原因
それぞれの原因は以下のとおりです。
急性膵炎
もっとも多い原因はアルコールの多飲によるもので、全体の約40%を占めます。次に多いのは胆石が膵管と胆管の合流部にはまりこんだもので、女性の急性膵炎に多くみられます。原因不明のものも約20%あります。
そのほかには、内視鏡検査や手術などが原因となる医原性のもの、腹部外傷、膵臓や胆道の奇形、脂質異常症、感染症などが挙げられます。
慢性膵炎
もっとも多い原因は急性膵炎と同じくアルコールの多飲によるもので、男性では約70%を占めています。原因不明のものが約20%で、女性の慢性膵炎の約半数は原因不明の特発性とされています。そのほかには、胆石などの胆道系疾患、高脂血症、腹部外傷、奇形などが急性膵炎と共通した原因となります。
症状
それぞれの症状は以下のとおりです
急性膵炎
急性腹症の1つであり、症状は重症度によって大きく異なります。みぞおちから背中にかけての断続的で強い痛みが起こり、吐き気や嘔吐、発熱などの症状が続きます。
重症になると、腹膜炎を併発し、腸管の運動が麻痺するために高頻度で腸閉塞を起こします。全身状態としては、頻脈や血圧低下、出血傾向、呼吸障害などがみられ、ショック状態になるなど非常に重篤な状態へ移行します。
また、膵臓の組織が壊死を起こすため、膵臓から遊離した脂肪と血中のカルシウムが結合して低カルシウム血症を呈することがあります。
慢性膵炎
症状は発症してからの時間によって異なります。発症してから10年ほどは、主な症状はみぞおちから背中にかけての痛みであり、飲酒や脂肪が多い食事を食べた後にひどくなるのが特徴です。
また、発症後10年以降には腹痛は軽減しますが、膵臓の機能が低下し、消化酵素やインスリンなどのホルモンの分泌が次第に減少します。このため、脂肪が消化されず、脂肪便や下痢、体重減少などがみられ、インスリンが正常に分泌されないことで糖尿病を併発します。
慢性膵炎はしばしば急激に悪化することがあり、その場合には急性膵炎と同様の症状が現れます。
検査・診断
膵炎の診断にはCT検査が有用です。そのほかにも補助的な診断や全身状態を評価する目的で、血液検査や他の画像検査、消化酵素やホルモンの分泌能を評価する検査などが行われます。
画像検査
造影剤を用いたCT検査がもっとも有用な検査です。急性膵炎では、膵臓の腫れや周囲の炎症がみられ、慢性膵炎では膵管の拡張や膵石がみられます。
腹部超音波検査やMRCP検査なども膵管や膵石の状態を確認することができますが、第一に選択されるのは造影CT検査でしょう。
また、もっとも簡便に行えるX線検査では、腸閉塞や膵石を確認することができ、急性腹症の場合には緊急的に消化管穿孔などとの鑑別が行える検査です。
血液検査
血液検査は膵臓と全身の状態を評価するために行われます。膵酵素であるアミラーゼとリパーゼは、急性・慢性共に上昇します。しかし、慢性膵炎の末期ではこれらの酵素が減少するため、膵酵素の値は慢性膵炎の進行を評価する目的で定期的に検査されることがあります。
また、急性膵炎では炎症反応が上昇し、血小板や凝固因子の現象がみられます。重症例では、膵臓組織の壊死によってカルシウムの低下とLDHの上昇が見られ、これらは重症度を評価する指標の1つでもあります。
膵外分泌能検査
慢性膵炎で行われる検査で、膵臓の消化酵素であるアミラーゼやリパーゼの分泌能を評価するものです。膵キモトリプシン活性を反映するPFD試験や便中の脂肪量を評価する検査などが行われます。
膵内分泌能検査
慢性膵炎で行われる検査ですが、主にインスリンの分泌能を評価する検査です。検査方法は一般的な糖尿病の検査と同様で、血糖値やHbA1c値の測定、糖負荷試験などが行われます。
治療
それぞれの治療は以下のとおりです。
急性膵炎
軽症の場合には、膵臓への刺激を抑えるために安静、絶食などの保存的な治療が行われます。基本的には入院が必要になり、脱水予防のために点滴が行われ、症状の程度によってはたんぱく分解酵素阻害薬を使用して、膵臓の組織を保護する治療が行われます。
一方、重症の場合には、全身管理が必要になり、呼吸状態や血圧低下などに対する集中的な治療が行われます。また、胆石性膵炎では胆道ドレナージ(胆汁を外へ排出する)や胆石除去が行われます。
いずれも早急に適切な治療が開始される必要があり、治療の遅れは救命率の低下につながります。
慢性膵炎
消化酵素やホルモンの分泌が保たれているときには、禁酒や低脂肪食などの食事療法が行われ、症状や進行を抑えるために消化酵素薬とたんぱく分解酵素阻害薬の内服がすすめられます。一方、消化酵素やホルモンの分泌が減少する頃には、分泌が低下した消化酵素の補充やインスリン療法が行われます。
また、膵石が膵管に詰まることによって、保存的な治療では改善しない腹痛がある場合には、内視鏡での膵石除去や膵管拡張、手術による膵管減圧術などが行われることもあります。
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